パート給料の手取りが減る!? 厚生年金に加入するメリット・デメリット
2020年5月に可決された年金制度改正により、パートやアルバイトで働く人の厚生年金の加入対象が拡大された。パートでも老後に年金が多くもらえるようになる? 厚生年金に加入すべき? 新制度のメリット・デメリットを、ファイナンシャルプランナーの大堀貴子さんに解説いただいた。
厚生年金の加入対象者が増える
通常、企業で正社員として働いている人は、会社の厚生年金と健康保険に加入する。
一方、パートやアルバイトのように会社員でなくても、一定の要件を満たせば厚生年金・健康保険に加入することができる。
2020年5月に可決された年金制度改革法により、2022年以降、厚生年金加入対象者にかかる企業規模の要件が段階的に引き下げられることになった。
つまり、パートやアルバイトで働いていて、これまで厚生年金に加入できなかった人も、加入対象の範囲が拡大されることにより、老後の年金が多く受け取れるようになる場合がある。
以下で、改正前・改正後の要件を確認しておこう。
改正前:厚生年金・健康保険の加入対象要件
・従業員501人以上の企業、または500人以下でも社会保険加入に労使で合意がある
・労働時間が週20時間以上(あらかじめ決まっている労働時間で残業時間は含まない)
・賃金が月額8.8万円以上(賞与、残業代、通勤手当を含まない)
・雇用期間が1年以上の見込み
・学生ではない(夜間、通信、定時制の学生は対象)
改正後:厚生年金・健康保険の加入対象が拡大
・2022年10月~ 従業員数の基準が101人以上に
→101~500人の従業員数の企業は労使合意がなくても、加入対象に
・2024年10月~ 従業員数の基準が51人以上に
→さらに、51~100人の従業員数の企業は労使合意がなくても、加入対象に
既に500人以下の企業でも労使合意があれば、会社員ではパート従業員も加入対象となっているが、その労使合意は企業側の合意、既に加入している従業員の2分の1以上の同意が必要だった。半数の同意となるとハードルが高く、また企業側にとっても当然負担が増えるため、実質労使合意が難しいのが現状だった。
従業員数の基準が緩和されることで、パートやアルバイトで働く人が、格段に厚生年金の加入対象になる可能性が高くなった。
厚生年金対象拡大によるメリット・デメリット
厚生年金の対象者が拡大されることで、加入者は将来の年金受給額が増えるというメリットがある。
ただし、企業側と加入者にとって以下のようなデメリットもある。
厚生年金と健康保険の保険料は、労使折半となっており、保険料の半額を企業側が支払う。
そのため、加入対象者が増え、企業側は支払うべき保険料が増えるためコストの増加となる。保険料は法定福利費として費用処理できるもの、企業は支払いが増えるので大きな痛手だ。
さらに、パートやアルバイトで働く人にとっても以下のようなデメリットがある。
・加入対象者拡大により、対象者となれば、必ず加入しなければならない(任意ではない)。
・給与から保険料が差し引かれるため手取りが減る。
・夫(妻)の社会保険上の扶養に入ることができなくなる。
社会保険上の扶養とは、夫(妻)が会社員で厚生年金・健康保険に加入していると、被扶養者を扶養に入れることができ、被扶養者は年金と健康保険の保険料を支払わなくて済んでいたが、厚生年金に加入すると保険料を払うことになる。
厚生年金の加入者になれば、年収を130万円以下に抑えていたとしても扶養から外れ、パート先の給与から保険料が天引きされ、手取りが減るというわけだ。
改正後、厚生年金の加入で得するのはどんな人?
厚生年金に加入することで、基礎年金部分に上乗せして厚生年金が給付されるため、将来の年金受給額が増えることになる。
また、会社の健康保険に加入できれば、健康診断など会社独自の健康保険制度を利用でき、保険料の半額は会社が支払ってくれるうえに、家族を扶養に入れることも可能だ。
たとえば、従業員が101人以上500人以下の会社で、年収105万6000円~130万円未満で働くパート従業員の人が、厚生年金加入者になったとする。
年収106万円の人で考えると、厚生年金保険料月額8100円、健康保険料4400円の支払い義務が生じ、手取りは毎月約1万2500円減る。つまり、毎月の手取りは8万8000円から7万5500円にダウンすることになる。
しかし、厚生年金に加入することで、国民年金の老齢基礎年金に加えて厚生年金の部分が上乗せされ、老後に受け取れる年金受給額が増えるため、上記の例で言えば加入期間が1年なら年間5400円、10年なら年間5万4700円上乗せされた年金を終身受給できることになる。
また、会社の健康保険に加入することで国民健康保険(自営業者本人または妻などが加入)や健康保険の被扶養者(会社員の妻など)では受け取れない出産手当金や傷病手当金が受取れ、休職中に賃金の3分の1の給付を受け取れる。
手取りは減ってしまうものの、パートで働いていても病気やケガなどによる休業補償されること、老後の年金受給額が増えることにはメリットがあるといえるだろう。
どうしても手取りを減らしたくない方は、年収105万6000円未満で働くか、50人以下の規模の会社で働くことが必要となる。
2020年から施行される厚生年金加入の対象者拡大によって自分が対象になるか早めに調べておくといいだろう。
文/大堀貴子さん
ファイナンシャルプランナー おおほりFP事務所代表。夫の海外赴任を機に大手証券会社を退職し、タイで2児を出産。帰国後3人目を出産し、現在ファイナンシャルプランナーとして活動。子育てや暮らし、介護などお金の悩みをテーマに多くのメディアで執筆している。
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