家族がいい関係でいるための極意って?毒蝮三太夫が伝授「第17回 ステイホーム」
新型コロナウイルスによる「いつもと違う日々」は、まだまだ続きそうだ。リモートワークや外出自粛の「ステイホーム」で、家族で過ごす時間が増えている人も多い。「今は家族の関係を再構築するいい機会」だと毒蝮さんは言う。無駄なケンカやイライラを避けつつ、家族の絆を深めるにはどうすればいいのかを聞いてみた。(聞き手・石原壮一郎)
結婚59年目、こんなに毎日カミさんと過ごすのは初めて
テレビのニュースを見てたら、今年のゴールデンウィークはどこの観光地も、ガラガラを通り越して西部劇のゴーストタウンみたいだった。コロナ野郎のせいなんだけど、つらい光景だったな。その光景の陰では、お土産屋さんとか観光バスの会社とか、いろんな仕事の人が泣いてるわけだろ。あんな寂しいゴールデンウィークはもう来てほしくないよ。
俺も家から出ない生活が、1か月を超えた。前回(第16回を読む)も家で運動してる話をしたけど、やっぱり身体を動かすのは大事だね。スクワットを毎日60回ずつしてたら、最初は膝がカクカク言ってたのに、だんだん言わなくなってきた。潤滑がよくなったのかな。
ウチは結婚して59年目だけど、こんなに毎日ずっと家にいてカミさんと顔を突き合わせているのは初めてだよ。カミさんはずいぶん前から、もっと仕事を減らしてゆっくりしてほしいって言ってたから、長く一緒にいられること自体は喜んでくれてる。そう思ってくれるのはありがたいよな。カミさんに感謝してる。
いや、べつにノロケたいわけじゃないんだ。旦那も奥さんも子どもも家にいて、ケンカが増えたりみんながイライラしたりしている家もあるらしいじゃない。家族と一緒に過ごせる貴重な時間なのに、ケンカしてたらもったいないよ。今こそ、夫婦や親子で向かい合って、もし今まですれ違いみたいなのがあるんだったら、関係を再構築してほしいな。
家で一緒にいる相手とケンカしないために大切なのは、会話と笑顔だね。人間、ムスッと黙ってると、怒ってるんじゃないか、自分に何か言いたいことがあるんじゃないかって、相手はどんどん疑心暗鬼になっちゃう。お互いに一日中、同じ家の中で相手の気配を感じているんだから、なおさらだよね。
面白い話なんてしなくていいんだ。ニッコリ笑って「おはよう。今日もいい天気だね」って言うだけでぜんぜん違う。「おっ、今日は冷ややっこか」って見たままを口にするだけでもいい。「今日の豆腐は一段と白いね」ぐらい言えたらたいしたもんだよ。
とくに昔の日本の男は、ムスッとしてるのがカッコイイって思ってるヤツが多かったけど、俺に言わせりゃ、要するにエラそうにしているわけだ。まわりに気をつかわせて、ご機嫌を取ってもらおうとしている。そんなのはもう古い。大人なんだから、自分の機嫌ぐらい自分で取らなきゃ。会話と笑顔を心がければ、まわりだけじゃなくて自分だっていい気持ちになれる。そこが肝心なんだ。
もうひとつ、ぜひ実行してほしいのが、穏やかに話すってこと。俺もつい声がでかくなっちゃったりすることもあるけど、夫婦にせよ親子にせよ、まずはお互いが穏やかに話そうと心がけることで、会話が何倍にも増えるはずだ。すぐ声を荒げたり、イライラを顔に出したりするような相手とは、いくら家族でも話したくないもんな。
せっかくだから、「向き合う」だけじゃなくて、実際に「見つめ合う」のもいいと思う。とくに長年連れ添った夫婦は、しばらく相手の顔なんてちゃんと見てないんじゃないか。久しぶりに奥さんの顔を見て「そんなところにホクロがあったのか。なかなかチャーミングだな」って言うと、「あなたのおでこのしわ、よく見ると渋いわね」なんて言われたりしてな。
「ステイホーム」期間のためだけじゃない
家族が仲良くするっていうのは、この「ステイホーム」の期間を乗り切るためだけじゃない。40代でも50代でも60代でも、70代以上はなおさらのこと「老後の幸せのため」でもある。配偶者にうっとうしがられて、子どもにも孫にも相手にされなくて歳を重ねていったら、どんな老後になるか想像してみな。そりゃ孤独なもんだよ。
家族だからって、愛情や尊敬がひとりでに育つわけじゃない。若いうちから会話と笑顔という水や肥料をせっせとやり続ける必要がある。といっても、不器用なタイプもいるから、お互いにいがみ合うんじゃなくて、いいところを見つけ合うのが大事だな。この「ステイホーム」の時期に、胸に手を当てて家族への接し方を考え直したり、家族のいいところを探してみたりするのがいいと思うな。
外に出られないってことを有効に活用して、コロナ野郎の鼻を明かしてやろうじゃないか。「ざまあみろ、有意義な時間を過ごしてやったぜ」ってね。旭日東昇。朝日はまた必ず昇ってくる。春が来ない冬はない。老いも若きも、前向きにやっていこうぜ!
■今回の極意
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、4月から『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』にお引越し(毎月最終土曜日に出演)。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。