毒蝮三太夫「ここで一発を期待されている」新天地でのラジオ出演「連載 第18回」
人は年齢を重ねるにつれて、やれることや求められる役割が変わってくる。そんな変化をどう前向きに受け止めればいいのか。毒蝮さんが50年以上続けているラジオの名物コーナーは、4月から新天地に引越して月1回になった。「だからこそやれることがある」とますます張り切る毒蝮さんの言葉から、変化を楽しむコツを学ぼう。(聞き手・石原壮一郎)
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中継ができなくても、今しかできないスタイルがあるはず
もちろん油断は禁物なんだけど、長かった自粛生活もそろそろ出口が見えてきた。とは言っても、元の日常が戻ってくるのはまだまだだろうな。それに緊急事態宣言がどうこうなんてのは人間が勝手にやることで、コロナ野郎には関係ない。ヤツはいつも近くにいると思って、マスクや手洗いなんかの感染対策は今までどおりしっかりやっていこうじゃないか。
この春に世界中が劇的に変化したことに比べたら小さめの変化なんだけど、TBSラジオで50年以上やってる生中継の『毒蝮三太夫のミュージックプレゼント』も、4月から母屋を引越したんだよ。『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』の中で、毎月最終土曜日の午前に出ることになった。
3月までは金曜日の午後に週イチでやってたから出る回数は減るわけだけど、その分、濃い面をどんどん出していけばいいわけだ。ナイツのふたりは東京の漫才界の先頭に立って引っ張ってるし、内海桂子さんの弟子だから古き良き浅草の伝統も引き継いでいる。あいつらとの掛け合いも楽しみだな。
ただ、本当ならどっかの店やなんかに人を集めて中継するコーナーなんだけど、今はそんな“三密”を絵に描いたようなことはできない。4月末は電話で出たし、5月30日はスタジオに行って話してこようかな。ま、今しかできないスタイルを楽しませてもらうよ。いつも中継を聞いてくれているリスナーにとっても、たまにはそういうのも新鮮でいいんじゃないか。
あのコーナーは、最初の頃は月曜から土曜まであった。月曜から金曜の時代が長くて、それから週4回になったり週1回になったりで、これからは月イチだ。野球で言えば、ここぞという場面で登場する代打の切り札ってとこだな。むしろ存在感が強くなっていいんじゃないか。『あぶさん』ってマンガがあったけど、俺はマムさんだ。
「出る回数が減っていくのは寂しいでしょうね」なんて聞かれるけど、俺はそうは思ってない。万物は流転するし、人は輪廻転生で何度も生まれ変わる。その時その時に合った役割があるんだよ。歳をとったから代打に回されたわけじゃない。代打で出てきて一発大きいのを打ってくれると盛り上がる、いい効果があると局が判断したから、俺を使うわけだ。
義理とか人情とかキャリアがあるからとか、そういうことで残すのはやめてくれってはっきり言ってある。老醜をさらすっていうのは、俺はいちばんやりたくない。まだマムシが必要だと思ってくれてるわけだ。気合いが入るよね。三振するにしたって、長嶋さんみたいな派手な空振りで球場を沸かせたいもんだ。まずは帽子を落とす練習からかな。ハハハ。
役割の変化をどう受け止めるのか
だけど、役割の変化を受け入れたくないジジイやババアも、たしかにいる。仕事をやめたり店を閉めたりした途端に、なんか抜け殻みたいになっちゃったりね。とくにジジイに多い。そうなりたくなかったら、若いうちから仕事以外の楽しみを見つけておくことが大事だな。ヒマになってから探し始めたって、そう都合よくは見つからないよ。
自分の親が仕事をやめて張り合いをなくして、毎日つまんなさそうにしてたら、何でもいいから「役に立った」って実感を味わわせてやってほしい。孫がいるならその世話がいちばんいいけど、体力的にはきついから、そこは加減してやってくれ。実家の押し入れの奥にしまってある昔のアルバムを探してもらうなんてのも、張り切ってやってくれそうだ。
言葉も大事だな。「まだまだ元気でいてもらわなきゃ困る」「元気だから、こういうこともしてもらえて助かる」って、顔を見るたびに言うといい。「もう歳だから何にもできない」なんて愚痴っぽく言ってる親には、そういう言葉がなおさら必要だ。たいていは「そんなことないよ」って否定してほしくて言ってるんだよ。
あんまり元気じゃなかったら、昔の話を聞くのもいいな。たとえば子どもの側が幼かった頃の話なんてのは、親にしかできない。親としては「自分の役割」を果たして、子どもの役に立つ喜びを味わえるわけだ。その人だけの「エピソード記憶」を引き出して話させるのは、何よりのボケ防止にもなるらしい。こっちとしても、親がいなくなってから「もっと聞いておけば良かった」って思ったって遅いんだから。
ともあれ、何歳になっても世の中がどんな状況でも、自分がその時にできることを全力でやっていこうじゃないか。それが人生を楽しむ秘訣なんじゃないのかな。
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、4月から『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』にお引越し(毎月最終土曜日に出演)。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
撮影/政川慎治
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