認知症が不安な人に映画『女優 原田ヒサ子』が沁みる3つの理由
15才でデビューし45年のキャリアを持つ大女優・原田美枝子さん(61才)が、認知症の母ヒサ子さん(90才)を主演に制作した映画『女優 原田ヒサ子』が話題だ。24分というドキュメンタリー映画を見た後には、認知症に対する考え方が変わるかも。映画に学ぶ”幸せ”認知症介護のヒントとは。
1 認知症の人の歴史を振り返ると理解が深まる
《私ね、15のときから、女優をやっているの》
女優・原田美枝子さんの母、ヒサ子さんがある日突然、そんな言葉を口にした。
現在、ヒサ子さんは認知症を患っていて介護施設で暮らしている。もちろん女優だったことはない。15才から女優をやっているのは娘、美枝子さんだ。
認知症の人が自分が輝いていた若いころのことを、現在のことのように話すことは珍しくないというが、ヒサ子さんは自分の記憶と娘の人生がオーバーラップしている。
映画の中で、原田さんは母の人生を振り返る。
母ヒサ子さんは昭和4年生まれ。12人兄弟の10番目としてこの世に生を受け、10代で第二次世界大戦を経験。15才の頃は学徒動員で千葉市にあった軍需工場で作業をしていた。20代でオフセット印刷工の夫・原田喜代和さんと結婚し、3人の子をもうける。
母がなぜ娘の人生を自分のこととして語り出したのかはわからないが、女優としての思い出を話す母の姿はイキイキとしている。
《母の心の中に女優になりたかったという夢が隠されていたのではないか?》
ならば
《(母を)女優デビューさせればいい》と、自らメガホンを取り、原田さんは映画を作り始める。
母の語る言葉をじっくりと聞き、母の歩んできた人生を振り返ることで、認知症ゆえの発言や言葉の真相が理解できることがあると原田さんは考える。
認知症の介護は辛い、大変だと考えている人の気持ちをふっと楽にしてくれる言葉が胸に沁みる。
2 認知症の祖母の話を肯定する孫たちのやさしさ
映画には原田さんの子供たちが登場する。VFXアーティストとして活動する長男・石橋大河さん、その妻でフランス人の石橋エマニュエルさん、シンガーソングライターの長女・優河さん、女優の次女・石橋静河さん、ヒサ子さんにとっては孫たちだ。
ヒサ子さんは女優で多忙だった美枝子さんのかわりに幼い子供たちの面倒をよく見てきたという。映画では孫たちがヒサ子さんを心から慕う様子が描き出されるが、中でも印象的なのが長女・優河さん。祖母が女優としての人生を語るとき、背中をさすりながら静かに話を聞き続ける。
《何才から仕事をしているの?》と優河さんが聞くと、
《15のとき》《いまはドラマがないのよ》と、女優として答えるヒサ子さん。
優河さんは《うん》《そうだね》と祖母ヒサ子さんの話に静かに耳を傾ける。
女優だったのは母なのだが、決して祖母の言葉を否定することはない。認知症の祖母と孫たちのやさしい時間が流れる。
3 認知症は病ではなくギフトと考えてみる
映画の中でのヒサ子さんは穏やかだ。しかし、認知症の症状が現れた頃、今とは違ったと原田さんは振り返る。
《母の認知症の症状が出てきた頃、母は、まるで自分の体の中で迷子になったかのようで、とてもイライラしていた。どうやって手助けしていいかわからなかった。
今では母は細かいことは忘れてしまうようになったが、目の前にあることは、例えば習字でも絵でも、リハビリでも一生懸命やる。そして、おかしなことを言ってまわりを笑わせる。
認知症は病ではなく、ギフトではないか――》
そんな風に考えるようになり、家族で撮ったたくさんの写真の中から良いものだけを並べてみたら、1本の映画のように母の“時”が見えたという。
映画はヒサ子さんが女優として“デビュー”するまでの過程が24分という時間で描かれる。
90才で女優になった母――嬉しそうなヒサ子さんの姿に、認知症の高齢者と家族が幸せに過ごすためのヒントが散りばめられている。
取材・文/廉屋友美乃
【データ】
映画『女優 原田ヒサ子』https://www.haradahisako.com/
2020年3月28日(土)より渋谷ユーロスペースにてロードショー 料金:1000円 制作・撮影・編集・監督/原田美枝子 出演/原田ヒサ子、石橋大河、石橋エマニュエル、優河、石橋静河、原田美枝子
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