認知症やうつ・心臓疾患や循環器系疾病を予防する海の魚のレシピ
近代の医薬品の多くは、自然の中からアイディアをもらい開発されてきた。植物や動物、鉱物などに含まれる有効成分を抽出し、作り出される。なかでも画期的な発見と注目を集めたのが、海の魚に含まれる機能性成分EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)だ。EPAは循環器系、DHAは神経系に効果が見られ、医療用医薬品としても認可されている。どちらも体内で合成できないため、食品や薬などから経口摂取する必要のある必須脂肪酸の1つである。
10年前に乳がんを患い、手術、抗がん剤治療、ホルモン治療等を行った本誌記者(59才・その後、再発なし)が、各種治療とともに真剣に取り組んだのが「食生活の見直し」。食事、運動、睡眠など日々の生活が、がん予防にいかに大切か、自らの体験を踏まえつつレポートします。
海の魚がなぜ体にいいのか
1990年、このDHAをそれまで捨てられていたまぐろの目の裏から発見し世に広めたのが、農学博士の矢澤一良さんだ。長年の魚の研究の集大成として機能性食品の開発も進めている。そんな矢澤さんにズバリ、「魚がなぜ体にいいのか」を聞いてみた。
――魚の研究をするきっかけは?
矢澤さん(以下、敬称略) 単純に海が好きだったからです。最初は乳酸菌の研究をしていたんですが、何か人のやっていない研究をやりたくて、魚の腸内細菌に注目したんです。当時は誰も研究していなかったので未知の世界でした。北の海から沖縄の離島まで、海にいる生物を潜って捕って4万種類ぐらいの菌を集めました。その中からDHA、EPAを作る腸内細菌を世界で初めて見つけ、1989年に学位論文をいただきました。
――そこから本格的に分析を?
矢澤 DHA・EPAの分析はそれまでもやっていたんですが、研究するための原料の値段が高すぎて、なかなか進まないのが現状でした。そんなある日、ぼくの研究を知った近くのスーパーの魚屋さんが、「うちのネギトロがうまいんだけど、なんでおいしいか教えてほしい」って聞いてきたんですよ(笑い)。興味があったので魚屋に行ってみると、廃棄処分するまぐろの頭がたくさんあってね。それを分析してみると、なんと、まぐろの目の裏に今まで見たことのない大量のDHAが見つかったんです。「嘘だろう?」って本当に驚きました。しかも廃棄する魚の頭なので研究材料のコスト面もクリアできる。魚屋さんのおかげで、本格的に研究・開発を進めることができたわけです。
海の魚は健康長寿・疾病予防・生活の質向上に役立つ機能性食品
――分析の結果、わかったことは?
矢澤 まず魚が循環器系にいいというのは、EPAの先行研究でわかっていましたので、DHAに絞って研究してみました。すると、人間の脳の神経系に直接働くことがわかったんです。特に記憶を司る“海馬(かいば)”という機能に効果が見られた。鹿児島県の奄美大島のある村には、ものすごく学歴が高い人がたくさんいるというので、調査しに行ったことがあるんですが、その村でよく食べていたのが「ビンタ料理」というかつおの頭。分析するとやはりDHAが多いんです。学歴との関係が符合するかはわかりませんが、確かにそういった事実もある。これらの疫学的調査から「魚を食べると頭がよくなる」というキャッチコピーができて、それを実証するような論文も多数出るようになったんです。
――具体的に、魚を食べるとどんな効果があるのでしょうか?
矢澤 今までの研究でわかったことは、【1】魚を食べていない人に比べ、食べている人の方が平均寿命が長い。魚を食べていない人は32%も死亡率が高いというデータがあります。【2】血液の流れがよくなり、血管が柔軟になる。【3】心臓疾患などの循環器系疾病が少ない。魚を週5回以上食べるとリスクが3割減るといわれています。【4】学習機能を高める。【5】魚を食べている人に、認知症やうつ病が少ない。【6】メンタル面に非常によく、ストレス予防になる。【7】炎症を抑える作用があり、がんを抑制する効果も期待できる。魚を食べていない人のがん発症率は2倍、死亡率も高いとの報告もあります。
――どんな食べ方が効果的ですか?
矢澤 脂が重要なので、脂が落ちない料理が理想的。骨まで食べられる「魚の缶詰」はおすすめです。最近はDHA入りのヨーグルトや乳酸菌飲料も機能性食品として認められ売られています。厚生労働省は1日に魚を1000mg摂取することを推奨していますが、現状はまったく足りていません。特にこれから子供を授かるお母さんたちには、魚をたくさん食べてほしい。母乳にはDHAがありますが、粉ミルクや牛乳にはなく、母乳で育った赤ちゃんのIQが高いことがわかりました。ですので最近の粉ミルクはすべてDHA入りになっています。魚を食べて病気を予防し、次世代に健康な体づくりを伝えてほしいものです。
魚の効能
DHA・EPAが含まれているのは海の魚。川魚など淡水の魚にはない。厚生労働省による摂取基準は1日1000mg。目安は、さんま約1尾、小型のいわし2尾、まぐろ(トロ)4~5切れ。
■まぐろ
DHA・EPAが豊富で生活習慣病の予防、血栓予防などの効果がある。赤身には強力な抗酸化作用のあるセレンが含まれ、炎症などを抑え老化防止に役立つ。
■かつお
鉄分、脂肪分、ビタミンA、B群、Dが多い。良質なたんぱく質や、血液をサラサラにするDHA・EPA、肝機能を高める働きのあるタウリンも豊富。
■鮭
活性酸素の害を防ぐ成分アスタキサンチンを豊富に含み、がん予防への効果が期待させる魚の1つ。悪玉コレステロールを減らし、動脈硬化を防ぐ効果も。
■さば
血液の循環をよくし、成長を促進させるビタミンB2が、神経伝達物質の合成にかかわるビタミンB6、カルシウムの吸収をよくするビタミンDなどが豊富。
■さんま
必須アミノ酸を含んだ良質のたんぱく質、貧血防止に効果のある鉄分、骨や歯の健康に欠かせないカルシウム、脳を活性化させるDHAなどを多く含む。
■いわし
DHA・EPAをはじめとするn-3系脂肪酸(オメガ3)を豊富に含み、血管を柔軟にし血液の流れをよくし、認知機能の改善にも効果があるとされる。
■あじ
良質なたんぱく質と、コレステロール値を下げるタウリンが豊富。また青魚の中でもカリウムを多く含み、脳血管障害や尿路結石の予防効果がある。
■イクラ・筋子
DHA・EPAが豊富で認知症や動脈硬化を予防。ビタミンEの500倍の抗酸化力を持つアスタキサンチンを含み、さまざまな病気の予防や疲労を軽減する。
研究者がすすめる“魚の缶詰”でアンチエイジング
骨まで食べられる魚の缶詰は、アンチエイジングフーズの王道。1缶3000mgの缶詰なら、1週間で2~3缶消費すると効果が期待できる。汁は捨てずに使いきること。生臭さが気になる人は、しょうがやねぎと調理すると相性がよい。
●いわし水煮缶のペペロンチーノ
<材料>(2~3人分)
いわし水煮缶…1缶
パスタ(アルデンテ)…2~3人分
にんにく(みじん切り)…1片
唐辛子(輪切り)…1本分
オリーブオイル…大さじ1
塩・こしょう…少々
<作り方>
【1】フライパンにオリーブオイル、にんにく、唐辛子を入れて炒め、香りを出す。
【2】【1】に茹でたパスタ、いわし水煮缶を加えてからめ、塩こしょうで味付けすれば完成。
●さんま缶の蒲焼茶漬け
<材料>(2人分)
さんま缶(蒲焼)…1缶
ご飯…適量
ねぎ…適量
お湯(お茶)…適量
<作り方>
さんま缶の蒲焼を細かく崩してご飯に盛り、刻んだねぎを散らして、お茶をかければ完成。
●さばみそ煮缶のトマトカレー
<材料>(2~3人分)
さばみそ煮缶…1缶
トマト缶…1缶
水…150ml
カレールー…4かけ
しょうが(すりおろし)…10g
<作り方>
【1】さばみそ煮缶の中身を汁ごと鍋に入れ、身をほぐす。
【2】【1】にほかの材料をすべて入れ、弱火で約10分煮込めば完成。
●さば水煮缶のシーフードスープ
<材料>(2~3人分)
<A>
さば水煮缶…1缶
しょうが(千切り)…10g
あさり…200g
シーフードミックス…150g
パセリ…少々
水…400ml
料理酒…大さじ2
<B>
みそ…大さじ1
しょうゆ…少々
<作り方>
【1】鍋にAを入れて中火で煮る。沸騰してきたら蓋をして弱火で約5分煮る。
【2】Bで味付けをして、パセリを散らせば出来上がり。
教えてくれたのは
農学博士・矢澤一良さん/1948年神奈川県生まれ。京都大学工学部工業化学科卒業後ヤクルトに入社。1989年、魚の腸内細菌研究の論文が認められ博士号授与。東京水産大学大学院客員教授などを経て、現在、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門部門長。著書に『DHAの効果すべて』『ヘスルフード科学講座』など多数。
撮影/茶山浩
※女性セブン2020年1月2日・9日号
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