今さら聞けない年末のイベントマナー|手土産の渡し方、お歳暮の相場・やめ方、のしの要不要
クリスマスパーティーや年始のあいさつ、親戚の集まりなど、年末年始は他家にうかがう機会が増えるもの。でも、ちょっと待って! その訪問マナー、本当に合っていますか? 今回は、今さら人に聞けない年末のマナーを詳しく紹介します。これを読めば、どんなシーンでも自信を持って振る舞えるはず!
マナーは規則ではなく“思いやりの心”
日本には、数多くのマナーや作法がある。覚えるのが大変だし、何を知っていて何を知らないのかもわからないことが多い。マナーを守るうえで、失敗しないコツはないのか、マナーデザイナーの岩下宣子さんにうかがった。
「マナーというのは、規則ではありません。あくまで、“思いやりの心”。ですから、ちょっと間違えたとしても、それが相手を思っての行動ならば、決して失敗ではありません」(岩下さん・以下同)
例えば、訪問先でお茶を出されたとする。家の人が別室でお茶を淹れている間に、自分はそっと口紅を落としておく。これがマナーだ。しかしなぜこのようなことをするのか。それは、器を洗う相手を慮ってのこと。もし器に口紅がついてしまっても、さりげなく指でそっと拭き取れば問題ない。思いやりの心を持って行動すれば、“器を口紅で汚さない”というマナーある行動へ、自然とたどり着けるのだ。
「私が相手なら、どうしたら喜ぶか、または安心するか。立場を入れ替えて考えることこそが、マナーの根幹になります」
マナーを知っていれば心に余裕が生まれる
思いやりの心さえあれば、マナーある態度がいつでも取れるかというとそうとは限らない。やはり、ルールは最低限覚えておいた方がいい。心に余裕が生まれるからだ。
「周りの人とよりよいコミュニケーションを取るには、心の余裕が必要。例えば葬式では、どんな服を着たらよいのか、何を持って行けばいいのか、基本的なルールを知らないと、不安になりますよね。そうなると、参列者と気持ちを分かち合ったり、相手の気持ちを考えて適切な言葉をかける余裕がなくなってしまいます。そうならないように、先人たちはルールを作ったのだと思います」
マナーは、周りの人たちに気持ちよく過ごしてもらうための手段なのだ。
そこで、クリスマスパーティーやお歳暮、年末年始の挨拶など、年末年始にかけて続くイベントでのマナーについて教えてもらった。
クリスマス(ホームパーティー) 12/21~25
手土産はごちそうより花などの“添え物”を
ホームパーティーに招待された場合、手土産は必須。クリスマスパーティーなら、ごちそうを持参したいところだが、まずはホストの意向を聞こう。
「もしホストが手料理を用意していた場合、ゲストが料理を持参すると、そちらの方に話題がいく可能性があり、ホストの立場がなくなります。料理を頼まれていないのであれば、ホストに何を持って行ったらいいのか聞くのがいちばん。あるいは、料理の脇役となる果物やデザート、飲み物がベター。余ってもホストのご家庭で召し上がっていただけます」
前日に花を宅配するのもおすすめ。当日飾る花を用意してもらえれば助かるからだ。 一方招く側は、先客のいない玄関先などで手土産を受け取ること。先客が、他人の手土産を見て余計な気遣いをしないようにという配慮だ。
お歳暮 12/1~30
まずは贈る相手の好みを調べること
お歳暮とは、一年間お世話になった人へ、感謝の気持ちを表すためのもの。ゆえに、いただいてもお返しは不要である。贈る品は、正月に使ってほしい食材や酒類など、いわゆる“消えもの”が相手の負担になりにくい。しかし、いちばん喜ばれる品は、やはり相手が欲しいものだ。
「相手が親戚やある程度距離の近い人なら、日頃から好みを聞いておきましょう。好みがわからない場合、高齢のかたなら日持ちがするもの、例えば佃煮などが喜ばれます」
贈る時期は、12月初旬から年末まで。
「古来、お正月の準備を始めるのは12月13日からとされてきました。ですから、新巻鮭などの生ものや、数の子などおせちに入れる食材は、13日以降に、どんなものを贈るか相手に伝えたうえで、年末のギリギリに届くようにすると、より親切で、喜ばれます」
外のし? 内のし?
弔事以外の贈り物には“のし”をかけるのが原則だ。のしは、“のしあわび”に由来する。これは、長寿の意味を持つ縁起物・あわびを干して伸ばしたもので、古来、天皇への献上品や慶事に贈られてきた。その慣習が簡略化され、現在の形になったとされる。
のしは包装紙の内側でも外側でもどちらにつけてもいいが、お歳暮など、贈り物の目的を相手にわかってもらいたい時は外に、持ち運びに時間がかかり、のしが汚れそうな時は、包装紙の内側につけるといい。菓子折りなどを洋風の贈り方にしたい場合、リボンで結ぶか、リボンシールを貼ればのしの代わりになる。
表書きは?
のしの表書きは、出す時期や目的によって書き分け、表書きの下には、贈り主である自分の名前を書く。訪問時の手土産であれば「松の葉」と入れるのがおすすめだ。
「松の葉はとても細いことから、“ほんのわずか”という意味が込められています。同時に、常緑樹ですので縁起もいい。“あなたの家が松のようにずっと繁栄しますように”という思いが込められています」
水引にも気をつけたい。「蝶結び」と「結び切り」の2種類があり、前者は、出産祝い、お中元・お歳暮など、「何度あってもよい」贈り物に使う。一方後者は、結婚や葬式など、「1度だけのこと」に用いる。
【年末年始に使える表書き】
・御歳暮(お歳暮)/御礼
お世話になった人へ贈る際におすすめ。名入れは送り主が個人なら姓だけでもよい。「お歳暮」にすると毎年贈ることになるので、1回きりの贈り物の場合、「御礼」とするのがおすすめ。
・寒中御伺/寒中御見舞
お歳暮を贈る時期を逃してしまった場合、松の内後の1月8日頃から立春の2月4日頃までに贈る場合に使える。目上の人には「寒中御伺」とする。
・松の葉/寸志
通常の訪問時の手土産や、ほんのささやかな贈り物に使える。「松の葉」と「寸志」は同じ意味だが、目上の人に贈る際に「寸志」を使うのは失礼にあたる。
紙袋はどうすべき?
手土産は汚れないよう、風呂敷に包むか、紙袋に入れて持って行くのが基本だ。
「コートと同じで、外のほこりを室内に持ち込まないように配慮する“包む文化”が日本にはあります。本来は風呂敷に包むのが正しく、特に、季節を先取りした柄の風呂敷だと喜んでいただけます」
手土産は部屋に通されてあいさつが済んだ後、風呂敷や紙袋から出して、品物の正面が相手側に向くようにして両手で渡す。紙袋は持って帰るのが原則だが、相手から置いていってもいいと言われたら渡してもよい。また、再利用したくなるような素敵なデザインの紙袋なら、「もしよかったら、処分していただけますか?」と、言い添えて渡すのがおすすめだ。
相場は?
お歳暮の相場は、あくまで統計的に常識の範囲とされる金額。これらは目安の1つなので、必ずしも守るべきものではない。
「“これを贈ったらきっと喜んでもらえる”という品物であれば、それが相場から外れていても問題ありません」
【お歳暮の相場】
・親・親戚 / 5000円
・習い事などの先生 / 5000~1万円
・知人・友人・会社の上司 / 3000~5000円
※前年より低い額にしないこと
こんな時どうする?「お歳暮をやめたいです」
お歳暮は一度贈ったら毎年贈るのがマナーだが、やめるためのマナーもある。
「お中元とお歳暮を贈っている場合、まずはお中元をやめて、それからお歳暮をやめ、年賀状や季節のあいさつ状だけにするなど、段階的にやめる方法がおすすめです。両方同時にやめるなら、転勤や転居など、生活スタイルが変わるタイミングに。上司の場合は、上司の退職のタイミングがやめ時になります」
お歳暮は日頃の感謝を表すもの。それならば、季節の手紙や旅行時のお土産でも気持ちは伝えられる。
教えてくれたのはこの人
マナーデザイナー 岩下宣子さん/現代礼法研究所主宰。「マナーは愛、思いやり」をモットーに、研修や講演を行う。新著『図解 日本人なら知っておきたいしきたり大全』(講談社)をはじめ、著書も多数。
イラスト/ico
※女性セブン2020年1月2日・9日号