「在宅・入所相互利用」を導入!おむつを外して在宅復帰できる特別養護老人ホーム<後編>
高齢者向けの住宅の中から、話題の施設をピックアップ。記者が訪問し、施設で働く人の思い、設備、サービスなどをレポートする。今回は、東京都渋谷区にある特別養護老人ホーム(特養)「杜の風・上原」だ。
杜の風・上原
開設当初から入居者のおむつ使用ゼロを実現している特別養護老人ホーム「杜の風・上原」。前編では“おむつを一切買わない”ために実施している水分、食事、運動、排泄の自立支援ケアについて書いた。後編では他の柱となる取り組み「在宅入所相互利用」や地域貢献について紹介していく。
→前編を読む
特養から在宅復帰!在宅入所相互利用の取り組み
杜の風・上原を運営する社会福祉法人「正吉福祉会」は、設立当初からの在宅で暮らし続けることを目指してきたという。しかし、介護が必要になり、施設に入所する人は必ずいる。その人たちのために行っているのが、おむつを使わない介護と特養から家に帰る在宅復帰の取り組みだ。在宅復帰のための介護保険のサービスの一つである「在宅・入所相互利用」。特養になかなか入ることができない問題などへの効果も期待されているようだが、取り組んでいるところは全国的に見てもまだ少ないそうだ。
「在宅入所相互利用は、全国でもまだ10施設くらいしかやっていないと言われています。3か月を入所限度に、在宅で暮らしている人が交代交代で特養のベッドをシェアするという仕組みです。ただお預かりするのではなく、自立支援介護を入れて、元気になって頂きます。家族の介護負担を減らすために入って頂き、自立支援介護によって3か月で回復させます。元気になってお家に帰って頂くと、家族の負担が減っていきます」(施設長の齊藤貴也さん 以下「」は同)。
※「在宅・入所相互利用」とは、入所者の在宅生活を継続するため、在宅と施設それぞれの介護支援専門員が入所者に関する情報交換を十分に行いながら、複数の入所者が在宅で生活する期間と入所する期間を定めて、同一の個室を計画的に利用することをいい、このとき、「在宅復帰支援機能加算」として所定の単位数が介護報酬に加算される。(厚生労働省ホームページより抜粋)
在宅復帰した88歳の要介護度4の男性の事例が杜の風・上原にある。腰痛を抱える高齢の妻が介護をしていたが、毎日の負担が重くなり、在宅の生活を諦めていたという。その男性が3か月の在宅入所相互利用をした結果、在宅復帰をすることができたそうだ。入所中は1500mlの水分の摂取や栄養量を増やすことに取り組み、さらにパワーリハビリや歩行訓練、排泄動作の自立訓練などのケアを実施。在宅復帰後は階段の昇降ができるようになったために閉じこもりが解消し、夜間排泄時に妻を起こすこともなくなったという。介護負担の軽くなった妻は、太極拳など社会交流の機会を再び持てるようになった。
「1週間の短いショートステイではなく、2、3か月間かけて元気になって帰ってくるので、何度も使ってくださる方が多いです。家族とずっと離れて住むのではなく、元気になって帰ってくることがちょうど良いバランスだと感じて頂いています」
社会的に大きな問題となっている介護離職。在宅復帰の取り組みはその解決の一助となる可能性があり、注目されている。自宅でで家族がする介護と施設入所の二択ではなくなることで、仕事を辞めずに家族の介護に対応できる可能性が増すという。齊藤さんによると、2、3か月入所している間に介護をしていた家族は疲れを取ることができ、自宅に帰ってくる時には介護度が下がっているので、家族の介護負担が楽になることが多いそうだ。
地域包括ケアシステムの拠点施設を目指す
少子高齢化が諸外国よりも速く進んでいる日本。その対策の一つとして推進されているのが地域包括ケアシステムだ。杜の風・上原はその拠点施設として、在宅入所相互利用以外にも「認知症あんしん生活実践塾」「ひだまりカフェ」「高齢者トレーニング教室」「介護予防公開講座」を実施し、地域に福祉サービスを提供しているという。
「現在は在宅入所相互利用にベッドを5床あてていて、退所者の63%が自宅に帰っています。地域に対しても自立支援介護を基本にしています。元気なうちから予防に取り組んでいるといい結果につながります。地域交流イベントのひだまりカフェを実施したり、介護予防講座をしています。トレーニングマシンも地域の方に無料で開放していて、100名くらいの方に登録してもらっています。私たちが発信をして、地域の方々が要介護者にならないようにしています」
※厚生労働省においては、2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。(厚生労働省ホームページより抜粋)
地域住民に好評で参加者も多いひだまりカフェ。11月22日には「そばうち体験会」、12月27日には「年忘れクリスマスコンサート」が開催される予定だという。高齢者トレーニング教室は、渋谷区在住の65歳以上の介護認定を受けていない高齢者が対象。マシンを使ったトレーニングやストレッチ体操などで健康を保つことができる。介護保険で「非該当(自立)」、または認定されてなく、運動について医師の許可を得ていることが必要だ。
いかがだっただろうか。おむつゼロに加えて、在宅復帰にまで取り組んでいる杜の風・上原。法人全体で目標を定め、科学的な根拠のある方法でその実現に取り組んでいる。国内はもちろん、海外からの視察が今後も絶えることはなさそうだ。
撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ
【データ】
施設名:「杜の風・上原」特別養護老人ホーム正吉苑
公式WEBサイト:http://shoukichi.org/shibuya/
所在地:東京都渋谷区上原2-2-17
最寄駅:小田急線・東京メトロ千代田線「代々木上原駅」より徒歩約7分
類型:特別養護老人ホーム
事業主体:社会福祉法人「正吉福祉会」
敷地面積:3371.32平方メートル
延床面積:7913.89平方メートル
室数:80室
入居要件:介護保険の「要介護4~5」と認定された人。要介護1・2・3と認定された人であっても特例的に入所が認められる場合がある。(渋谷区ホームページより抜粋)
構造:地上階7階、地下階1階
開設年月日:2013年4月1日
料金:介護保険1割負担の場合の食費・居住費・各加算など込みの1か月(30日)あたりの利用料金は以下の通り。
要介護1:ユニット型介護福祉施設サービス費・利用者負担額2万863円
要介護2:ユニット型介護福祉施設サービス費・利用者負担額2万3054円
要介護3:ユニット型介護福祉施設サービス費・利用者負担額2万5441円
要介護4:ユニット型介護福祉施設サービス費・利用者負担額2万7665円
要介護5:ユニット型介護福祉施設サービス費・利用者負担額2万9856円
食費(段階4):4万5000円(1日あたり1500円)
居住費:6万180円(1日あたり2006円)
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
●全室個室のユニット型!従来のイメージを覆す特別養護老人ホーム<前編>