櫻井よしこさんの母も笑顔に!「介護美容」にみる光明
日本人の平均寿命は、男性80.98才、女性87.14才(2016年)と過去最高を更新し続けている。しかし、「介護の必要なく生活できる期間」を表す健康寿命となると、男性71.19才、女性74.21才(2013年)とぐんと下がり、平均寿命との差は10年以上もある。これが“10年介護”といわれ、介護生活が長丁場になる所以だ。
内閣府の調査によると75才以上の高齢者のうち、4人に1人が「要介護状態」といわれ、介護を担う人口は550万人を超える。
誰もが避けて通れない介護をとりまく苦しい現状は、これまでもさんざん取りざたされてきた。
2007~2014年の間で、未遂も含めた介護殺人は356件、自殺関与は15件、傷害致死は21件。
事件に至らなくとも、介護に直面する家族に、負担は浮き彫りになっている。
毎日新聞が在宅介護をする245人を対象に行ったアンケートでは“介護に限界を感じた”と答えた人は7割に上った。
介護施設での虐待や介護殺人のニュースは日々報道されている。それらを目にするたび、介護する側もされる側も暗澹たる気分になる。
そんなつらい状況を何とか改善したいと、介護する側も「介護美容」に一筋の光を見出している。
ネイルを塗ったら饒舌になった母
東京・京橋のオフィスビルの会議室には20代から70代の女性約20人が集まっていた。講師の話にうなずき、メモを取り、真剣な眼差しを向ける。日本介護美容セラピスト協会が運営する『ビューティタッチセラピスト認定基本講座』の教室だ。
メイクやハンド、フットのトリートメント技術の他、介護など全6日間の講義を受講後、認定試験の合格者が認定セラピストとなる。今年の9月末で1017人の認定ビューティタッチセラピストが誕生した。
この日の受講者は介護士やケアマネジャーなど介護業界に携わる人の他、介護する家族のためにと、埼玉や新潟、長野から通う一般の受講者もいた。
認知症の父とその介護に疲れた母を癒したい
長野から受講に来た喜多嶋礼子さん(仮名・47才)はこう話す。
「もともとおしゃべりだった母が認知症になってほとんど口を開かなくなってしまって。だけどある時、姪がネイルを塗ってあげたら、いつになく饒舌になったんです。『孫が塗ってくれたのよ』って昔の母に戻ったみたいに顔を輝かせて。
特別なリハビリや薬がなくても、きれいに装うことでこんなに表情が違ってくるのかと驚いたんです。それに、母は帰り際に、いつも手をぎゅっと握ってくれます。当たり前の習慣になっていたけれど、手を握ってもらうと安心できる。手や顔をマッサージすることで認知症の進行が少しでもゆっくりになればと思い、受講しました」
また、介護で疲れた母にも施術をしたい、と語る受講者もいる。
「認知症の父と、その介護で円形脱毛症になってしまった母のふたりを少しでも癒したいと研修に来ました。
父の介護がはじまってもう4年。認知症の症状で日々、暴力的な言動が増えていく父を、母は24時間支え続けています。
田舎で噂が広まりやすいため父の病気のことは近所の誰にも言っていません。
誰にも知られずにひっそりと介護を続ける母は当然、外見を気にする時間や余裕がない。そんな母を少しでもリラックスさせてあげることができたらと思っています」(49才女性受講者)
櫻井よしこさんの母も介護美容を受けて笑顔に
ジャーナリストの櫻井よしこさんも、母・以志さん(106才)が介護美容を受けることで自分も精神的に励まされると話す。
「介護で、助けて!と感じるときは、告白すれば、ありました。『自分にできるのだろうか』と自問したこともあります。
だけど、佐伯チズさんにきれいにしていただいてニコニコ嬉しそうに笑う母を見て、思ったんです。
母は、話すこともできない要介護5です。だけどそれを除いたら、本当に昔の『お母さん』のままなの。きちんと私たちの会話を聞いているし、私たちのすることも理解している。
それに気がついたときから母にはできるだけ普通の接し方を心がけました。マッサージされている間のうっとりした顔は、娘の私も幸せにしてくれるんです。そんな母を見ていると、小さい時からの口癖だった、『お母さんがいるから、大丈夫よ』という言葉が胸をよぎって、『ああ、これからも大丈夫』と、前向きになれます」
きれいでいたいと思うのは誰のためでもなく自分のために。介護の現場に美容が一筋の光を灯している。
※女性セブン2017年11月2日号
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