高齢者の熱中症対策!夏に実践したい7つ 【自律神経の乱れを整える<4>】
外はうだるような暑さ、室内はクーラーで冷え過ぎ。体温調整の難しい夏は、自律神経が乱れやすい時期だと話すのは、医療法人永光会理事長で医学博士の新井幸吉さんだ。
自律神経は無意識のうちに働き、血圧や心拍数、発汗などをコントロールしているが、急激な寒暖を身体が感じることで、自律神経のコントロールが効かなくなってしまうのだと言う。とくに、高齢者はその傾向が顕著。そこで、夏こそ実践したい、自律神経を上手にコントロールする日常生活のポイントを伺った。
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高齢者は暑さに気づきにくい
高齢者は「暑い」「寒い」と感じる神経が鈍くなってきています。そのため、室内が異常な暑さになっていることに気づかず、クーラーをかけず熱中症になる人がとても多いのです。
その上交感神経の働きが弱くなっていますから、汗をなかなかかけません。また、血液循環が悪くなっているため、皮膚から体温を逃す機能も衰えていることから、体内に熱がこもりやすく、熱中症になりやすいのです。
発汗を促し、血液循環をアップさせるには、日中は交感神経、夜は副交感神経が優位になるように調整する必要があります。そこで、今回は、夏におすすめの自律神経調整術をお伝えしましょう。
1:エアコンの設定温度に頼らない。温度計は心臓の高さに設置を
エアコンのリモコンによる温度調整に頼るのはやめましょう。性能が良くなっているとはいえ、リモコンに表示されている通りの室温に調整されているとは限りません。
温度計と湿度計は、生活している人の心臓の高さに設置しましょう。
ベッドで寝ていることが多い場合は、ベッドの高さに、畳に布団を敷いて寝ていることが多い方は畳に近い位置に設置します。ただし、エアコンの風が直接当たると、冷えすぎの原因になりますから、ベッドや布団の位置は、風が直接当たらないように工夫することも大切です。
2:室温28℃では暑すぎる。日中に眠気を感じたら体温を下げる工夫を
温度は25~27℃、湿度は50~60%が目安です。国が目標設定値と推奨している28℃というのは、実は科学的根拠はなく、2005年導入当時の担当課長であった盛山正仁法務副大臣が「何となく決めた」と発言したことも問題になっているほど。
薄い長袖のコットンシャツを1枚着て過ごせるくらいの室温をおすすめします。
日中、暑すぎる部屋にいると、熱がこもることでだるさや眠気を覚えます。うとうとすることが多くなり、日中働くべき交感神経が力を失ってしまいます。
もし、日中、やけに眠いなと感じたら、首元や足の付根を凍らせたタオルで冷やすなどして、体温を下げるようにしましょう。
3: 冷たい飲み物はNG。温かくてもコーヒーや紅茶は脱水の原因に
暑いからと冷たい飲み物を摂取するのは自律神経を狂わせる原因になります。胃腸などの消化器が冷えると、交感神経が活発になります。消化活動は副交感神経が担っているので、冷たいものを摂り過ぎると消化不良の原因になるのです。
それでなくても食欲の落ちる夏場は、冷たい飲み物は避け、ぬるめのほうじ茶や白湯がおすすめです。コーヒーや紅茶などのカフェイン入りの飲料やアルコールは、たくさん飲んでも脱水症状予防にはなりません。利尿作用が活発になり、飲んだ以上に水分が排出されて、かえって脱水を起こすこともあります。
スポーツドリンクは糖分の過剰摂取になるという意見もありますが、高齢者がガブガブと大量に飲むことは考えにくいので、外出時は常温のスポーツドリンクを飲むのはおすすめしています。
4:外出から帰ったら窓を開放。素早く部屋を冷やす
外出する前に、帰宅の15分ほど前にクーラーが稼働するようタイマーをセットしておくのがおすすめですが、難しい場合は、帰宅後はまず、窓を開け、扇風機で室内の熱気を外に排出するようにします。5分程たったら窓を閉め、エアコンのスイッチを入れます。部屋を素早く冷やし、室内熱中症を防ぐテクニックです。
5:暑い夏こそ必ず湯船につかる。ただし入浴直後の就寝は熱中症の危険が
夜は就寝1時間以上前に入浴します。38~39℃のぬるめの湯に10分程度つかります。シャワーだけでは夜の神経である副交感神経を優位にできません。
風呂上がりは、テレビやパソコン、スマホなどのブルーライトは見ないようにしてください。交感神経が働いて、眠りのモードに入れません。
また、入浴直後に布団に入ると、熱が身体から逃げず、就寝中に熱中症を起こす危険性があります。
6: 入浴後の瞑想で副交感神経優位に
必ず1時間以上はクーラーの効いた部屋で、常温の水を飲んでリラックスするようにしましょう。α波の出るような音楽を聞きながら、目を閉じて一日の瞑想をすると、交感神経から副交感神経へのスイッチがうまく入ります。α波の音楽といえば、モーツァルトが有名ですが、自分がリラックスできる音楽であれば代用できます。
7:就寝時に靴下は履かないのが原則
就寝時に靴下を履いて冷えを防ぐことを習慣にしている人もいると思いますが、本来、靴下は履かず、足から熱を放出できるようにしておくべきです。
ただし、長い間の習慣になっている場合は、シルクの靴下で発汗を妨げないようにしましょう。
就寝中の室内は27℃前後が適温です。タオルケットや夏掛けの布団を1枚かけて眠れるくらいを目安にします。タイマーでクーラーが切れるように設定するのはおすすめできません。リラックスの神経である副交感神経を優位にするためにも、眠っている間の体温変化は少ないほうが良いのです。
高齢者にとってだけでなく、介護を担う人にとっても暑い夏は苦労の多いものです。少しでも心地よく過ごせるように、自律神経を調整しながら日常生活を送ってください。
【このシリーズの記事を読む】
→自律神経を整える<1>朝にする5つの生活習慣
→自律神経の乱れを整える<2>目覚めに行う「ダーウィン体操」
→自律神経の乱れを整える<3>自律神経バランスをセルフチェック!
→高齢者の熱中症対策!夏に実践したい7つ 【自律神経の乱れを整える<4>】
監修:新井幸吉(あらい・こうきち)
医学博士。奈良県立医科大学大学院修了後、牧野病院整形外科、清恵会病院整形外科を経て、医療法人永光会理事長に就任。60歳を機に、整形外科医から内科医へ転身。外科手術に頼らない生活習慣病や慢性疾患の改善に取り組み、病気を未然に防ぐ「健康寿命の延伸方法」にも力を注いでいる。病院、クリニック、介護施設、居宅介護施設など、医療と介護の二本立てによって、高齢者が安心して生活できる福祉の町づくりに貢献。著書に「生涯健康に暮らしたければ『自律神経』を整えなさい」があり、TVでもスーパードクターとして紹介されている。
取材・文/鹿住 真弓