《何歳からでも骨は強くなる》かかと落とし、12分の日光浴、ひきわり納豆…整形外科専門医が教える「寝たきりを防ぐ骨強化メソッド」
大きな痛みや生活に特段の支障をきたすことなく、静かに老いて命を脅かすのが「骨」だ。骨折すれば「寝たきり生活」のリスクが高まる。脳機能の衰えは認知症に結びつく。これらの部位は「何歳からでも鍛えることが可能」と専門医は断言する。そこで、愛知医科大学特任教授で整形外科専門医の中村幸男さんに「骨の老化」を防ぐメソッドを教えてもらった。
12分の日光浴、かかと落としほか体の外と内から「折れない骨」をつくる
歳を重ねるほど「骨の健康」が問題になる。厚生労働省が発表した「国民生活基礎調査」(2025年)によると、要介護になった主な原因の3位は「骨折・転倒」だった。
高齢者の場合、骨折や転倒がきっかけで日常動作や歩行が困難になり、最悪の場合は寝たきり状態になるケースが多い。
しかし、『70歳からは「転んでも折れない骨」をつくりなさい』(青春新書)の著者で整形外科専門医の中村幸男氏(愛知医科大学特任教授)はこう指摘する。
「骨を鍛えることで年齢を問わず骨量を増やし、骨密度を上げることは可能です。強く折れにくい骨づくりは、70歳以降でも遅くはありません」(中村医師以下同)
しかも、骨の強化は骨折予防にとどまらない。
「近年の研究で、骨から産生される『骨ホルモン』が全身のあらゆる組織、器官、臓器を活性化させる働きや、血糖値の低下、動脈硬化の防止などにつながることがわかってきました」
気付かないうちに背骨が骨折することも
健康寿命を左右する骨折のなかでも、寝たきりリスクに直結する「2つの骨折」がある。
「転倒などによる『大腿骨骨折』と『背骨の圧迫骨折』です。この2つは寝たきりの原因になるだけではありません。
大腿骨骨折は手術や治療が成功しても杖や車椅子が必要になるケースが多く、その後のQOL低下は避けられない。活動量が減れば、認知症にもなりやすくなります」
痛みなどの自覚症状が出にくい背骨の圧迫骨折は、そのまま放置すれば新たな疾患にもつながるという。
「『いつの間にか骨折』とも呼ばれる背骨の圧迫骨折を放置すると、背骨が次々に骨折して猫背がひどくなり、食道や気管、肺が圧迫されて誤嚥性肺炎を起こすリスクが上昇します。
高齢者は寝たきりやその他の病気の原因となる2つの骨折を防ぐことが、健康寿命を延ばすために欠かせません」
骨折を予防するためにそれらの骨を鍛えるにはどうすればいいのか。
「骨は刺激を受けてはじめて、骨を強くするホルモンが分泌され骨密度が上がり、強く丈夫になります。そこで、体の外側から骨を鍛えるエクササイズとして私が08年の米ハーバード大整形外科講師時代に考案・開発したのが、大腿骨骨折を防ぐ『かかと落とし』と、背骨の圧迫骨折を防ぐ『おへそひっこみ体操』です」
「『かかと落とし』による大腿骨への衝撃が骨をつくる骨芽細胞を刺激し、骨を強くするホルモンが分泌されて骨密度が上がります。信州大学の研究チームが延べ4000人の80代男女に実践してもらった結果、1年で平均1・11%、大腿骨の骨密度が上がりました」
同様に、座った姿勢で呼吸しながら下腹部に力を入れる「おへそひっこみ体操」では、背骨の骨密度が上がる実験結果が得られたという。
「背骨の椎骨は主に柔らかな骨で構成されるため、体操による弱い力でも刺激が伝わり、骨量を増やすことができるのです」
骨を弱くする食品
骨量を増やすには運動だけでは不十分だ。
「骨の『材料』を積極的に食事で摂り、体の内側から骨を鍛えることも大事です。骨を強くする栄養素のカルシウム、ビタミンD、ビタミンK、また骨密度を上げる作用がある亜鉛を積極的に摂取しましょう」
それらを最も手軽に摂れるのが「牡蠣入りのクリームシチュー」だ。
「食材にはカルシウム豊富な牛乳、生の30倍のビタミンDを含む干しシイタケ、ビタミンKが多いブロッコリー、亜鉛が多い牡蠣を使いましょう。
また、生卵やしらす干しを、ひきわり納豆に混ぜて毎朝食べるのもお勧めです。ひきわり納豆は、通常の納豆よりビタミンKを1・5倍多く含むため、骨の強化にはもってこいの食材です」
一方で、「骨を弱くする食品」を避けることも大事なポイントだ。
「骨を強くする食品を多く摂取しても、骨に悪い食品を摂りすぎれば効果は相殺され、場合によってはマイナスになりかねません」
その代表的な成分が、ファストフードやカップ麺などのインスタント食品、ハム・ソーセージなどに使われる食品添加物「リン酸塩」だという。
「リン酸塩はカルシウムの吸収を阻害するうえ、骨からカルシウムを血液中に放出させてしまいます。骨の栄養を考慮すれば、ファストフードやインスタント食品、塩分・脂肪・糖分の多い加工食品は極力控え、日常的に食べないほうがよいでしょう」
骨を強化する栄養素の1つ「ビタミンD」は、食事から摂取する以外にも増やす方法がある。
「ビタミンDは、紫外線を浴びることでも生成されます。加齢とともにビタミンDの吸収や生成能力は低下するため、骨のためには多めに日光に当たるほうがよい。夏場は熱中症に注意しながら、1日12分程度を目安に日光を浴びるとよいでしょう」
中村医師は「10代の運動選手でも骨密度が低下し重度の骨粗鬆症を発症することがある。男性は70歳を過ぎたら一度は骨密度検査を受けてほしい」と強調する。
後の祭りにならぬよう、まずは自らの「骨の強さ」を知ることから始めたい。
背骨の圧迫骨折を防ぐ「おへそひっこみ体操」(1日5~10セット)
【1】椅子に座り背筋を伸ばす(背もたれには寄りかからない)→立って行なってもOK。足は肩幅に開く
【2】自然に呼吸をしながら、おへそをグーっと引っ込めるようにお腹に力を入れる。この状態を30秒キープ!→血圧上昇、心臓に負担をかけないよう息を止めないことが大切
大腿骨骨折を防ぐ「かかと落とし」(1日30回×3セット)
【1】両足を肩幅より少し広めに開き、椅子の背などをつかんでかかとを上げる→かかとを上げる高さは無理のない範囲でOK。前傾姿勢でひさを少し曲げた状態で行なうとより効果的
【2】かかとを上げて落とす動作を繰り返す
※硬めの床で行なうと効果大。ひざに不安がある人は靴下をはき、カーペットの上などで行なう
※週刊ポスト2026年8月28日・9月4日号
