《息子の発達障害、父の認知症》すべてを笑いに変えてきた介護福祉士で芸人の柏崎桃子、「ありのままでいい」の精神で挑むダブルケア
シングルマザーとして発達障害のある息子を育て上げ、30代半ばでお笑い芸人としてデビューした介護福祉士の柏崎桃子さん(47歳)。現在は病院で看護助手として働く傍ら、認知症になった実父の介護にも直面している。育児や介護に奮闘しながらも「ありのままでいい」と前を向き続ける柏崎さんに、仕事と介護の両立、そして発信し続ける原動力を聞いた。【全3回の第3回】
子育ての壁にぶつかり、30代で飛び込んだお笑いの世界
――デイサービスの施設長という責任あるポジションに就きながら、お笑い芸人の道へ進まれました。どういったきっかけがあったのでしょうか?
柏崎さん:タレントの養成所に行ったのは33歳ぐらいでした。なので時系列的には施設長になる前ですね。実はその少し前、息子が中学生になったころに、まだまだ学校の理解が足りなくて壁にぶつかったんです。小学校の6年間で理解のある先生にも出会えて、息子のIQはぐんぐん伸び理解できることも増えました。それを引き継いでくださって、中学校の特別支援学級に入ったのに宿題で小学校1年生レベルのプリントを渡されました。驚いた私はそのことについて先生に抗議すると、モンスターペアレントのレッテルを貼られてしまって。「当たり前のことを言っているだけなのに」と落ち込みました。
また一からやり直しか…と暗くなっていたときに、私ってこんな人間だったっけ?と思ったんです。これまでいろんなことがあったけど、明るく前向きに、楽しく生きようと頑張ってきたじゃないか、と。それに自分だけではなく、同じような悩みを持つ人も励ましたいと思っていた際に、ものまね芸人さんの坂本冬休みさんが施設にいらして、坂本さんの人を芸で笑顔にする素晴らしさに感動しました。
そんなある日、スマホのバナー広告にタレント養成所のオーディションが出てきたんです。神のお告げみたいなタイミングでした。勢いのまま応募してオーディションに挑んだら、なんと受かっちゃったんです(笑い)。
養成所では、芸人さんたちの「人を笑顔にさせる力」に圧倒されました。私も介護施設のイベントで、150人くらいのお年寄りを笑わせてきた自負はあったのですが、「プロってすごい」と改めて思いました。ここで学べばもっとたくさんの人を笑顔にできるんじゃないかと思って、本気で芸人を目指すことにしたんです。
ネット上の言葉に傷ついたとき、救ってくれたのは息子の「お母さんは悪くない」
――ご自身が有名になることで、介護の魅力や発達障害について発信したいという思いもあったそうですね。
柏崎さん:そうです。発達障害などで苦しんでいる当事者や、その親御さんたちに向けて発信したい気持ちもありました。「明るく前向きに行こうよ」という単純なメッセージですけど、発達障害だからとか認知症だからではなくて、人として明るく楽しく幸せに生きる権利があるんだから、それを忘れちゃいけない、ということを伝えたかったんです。
――芸人になるために上京する際、息子さんの反応はいかがでしたか?
柏崎さん:息子の進路が決まる、18歳の夏休みの終わりまでは地元の栃木県にいました。その後、息子は学校に通うため両親の住む実家に残り、私1人で東京に出ました。いざ出発するとき、息子は涙をポロポロこぼして「お母さん頑張ってね」と見送ってくれました。一度も引き止められたことはないですし、「お母さん、すげえ」としか言われたことがありません。
――その後、テレビなどに出演されるようになってから、芸人を辞めようと思った時期もあったそうですね。
柏崎さん:テレビで育児や介護のことを赤裸々に語った結果、ネットのコメント欄が荒れたことがあったんです。捉え方は千差万別だと分かっていても、「私の発言がこんなふうに切り取られちゃうんだ」と悲しくなって、もう辞めようかなと思いました。
そんなときに息子からLINEがあって、「お母さんは何も悪くないから、辞める必要ないよ。」と励ましてくれたんです。その言葉には本当に救われました。
プロの介護職としての知識が、実父の認知症ケアで大活躍
――現在は病院で看護助手として、正社員雇用で働かれているそうですね。
柏崎さん:昨年の4月からです。以前は施設の施設長をやったり、医療系の専門学校で介護の講師を1年間やったりしていました。その後、介護業界の派遣社員として5年間働き、現場から6年ほど離れていたのですが、病院の看護助手さんの離職率が高いと聞いて「ならば私も働いてみよう!」と病院に入ったのがきっかけです。
外来や手術室の配属だったので、介護施設のように患者さんと密接に関われなくて少し寂しかったですね。でも慣れてきてフロア全体が見渡せるようになると、認知症の方も少なくないことが分かったんです。そういう方には、看護師や医師を通してケアマネジャーにおつなぎ出来るようサポートしています。今までの知識が役に立っていますね。
――ご実家のお父様も認知症になられたとのことですが、そこでも介護職の経験は生きていますか?
柏崎さん:そうですね。父は2020年頃から徐々に症状が出ていたのですが、昨年の暮れあたりからひどくなってきました。最初は要介護1だったんですが、10月の終わりに初めて、いわゆる“徘徊”をしてしまって。これは再申請をかけなきゃダメだとすぐに動いて、要介護3になりました。
介護保険の仕組みや、どう手配すればいいかが分かっているのは大きかったですね。これまで何百人というお年寄りを見てきたから、「お父さんはこの段階だろう」と分かったんです。早め早めに手を打ってあげられたので、この仕事をやっていてよかったと感じました。少しでも「変わったな」「生活しづらくなったな」と思ったら、ケアマネさんに相談することが大切です。
「嫌がるお風呂も絶対に入れる」プロの技と、ありのままの精神
――お父様のトイレやお風呂の介助などもされているそうですね。
柏崎さん:ここ最近、父はトイレの失敗が増えてきたんです。母が困って電話してくるのですが、私が行くとできるんですよ。父はトイレの存在すら忘れてしまっているので、「こっちだよ」と連れて行きます。座らせたら、立ち上がらないように膝を軽く押さえてあげて、世間話をしながらリラックスさせると、ちゃんと落ち着いてできるんです。私は100人中100人をトイレに連れて行ける自信があります(笑い)。
施設の利用者さんも、お風呂に入る予定の方のうち2人くらいは嫌がるものなんです。そこで、「今日はあなたのためにお風呂を沸かしました~!」と誘ったり、それでもダメなら「体重を量るのでちょっとお洋服を脱いでいただけますか?」と言って、タオルでくるんで、そのままお風呂に連れて行ったり。急に服を脱がされたら誰だって嫌ですから、嫌がる理由をつぶしていきます。頭を洗ってあげて、「すっごい気持ちいいでしょ」と暗示をかけるように語りかけると、その気になってきて最後はニコニコで入ってくださるんです。
――素晴らしいテクニックです。昨年はお父様の介護が本格化する中で、再婚もされたそうですね。
柏崎さん:そうなんです。これから父の介護が大変になるのに、結婚なんかしていいのかなと悩みました。でも、母などから「何かあったときに助けてくれるのは旦那だよ。いい人なんだから早く結婚しなさい!」と背中を押されました。夫は本当に優しくて、毎週末のように栃木の実家に帰るときも、「お義父さんとお義母さんが好きだから」と嫌な顔ひとつせずに車を運転してくれます。
――介護福祉士として、そして発信者として、これから取り組んでいきたいことを教えてください。
柏崎さん:これからも、今のスタイルで発信を続けていきたいと思っています。世の中には、障害や介護に関するニュースに対して、厳しい意見やマイナスな意見が寄せられ、そこにたくさんの「いいね」がついていることがあります。そうしたものを目にすると、私は心が痛みます。
もちろん、介護をする中で暴力や暴言などがあり、「介護する側」が大変な思いをされていることも事実です。だからこそ、誰かを責めるのではなく、「なぜそのような状況が生まれてしまうのか」ということを、もっと考えていかなければならないのではないかと思っています。
私はずっと、「人は誰でも、ありのままでいいじゃない」って思っているんです。障害があっても、認知症で徘徊したりトイレを失敗したりしてもいいじゃないですか。困ったときは誰かに助けてもらえばいい。手助けがあれば生きていけるのなら、みんなで少しずつ支え合えばいいんです。だって、人間なんだから、完璧じゃなくて当たり前じゃないですか。
介護の仕事は「大変だ」というイメージばかりが世の中に広がっています。でも、その中にはたくさんの出会いがあって、教わることも、幸せをもらうこともたくさんあります。どんな仕事も楽ではありません。でも、介護は間違いなく「楽しめる仕事」だと私は思っています。
大変なことがあったって、笑えることもある。ちょっと失敗したって、「まあ、いっか!」って笑い合える瞬間もある。そんな時間が、介護の中にはちゃんとあります。だから、介護の大変さだけではなく、そこにある喜びや楽しさを感じてくれる人がもっと増えてくれたらいいなと思っています。そして、介護をする人も、される人も、もっと肩の力を抜いて、笑って過ごせる世の中になったらいいなと、心から願っています。
◆芸人、介護福祉士・柏崎桃子
かしわざき・ももこ/1979年7月31日生まれ、栃木県出身。17歳で結婚し、18歳で長男を出産。シングルマザーとして軽度の発達障害がある息子を育てながら、26歳でヘルパー2級、30歳で介護福祉士の国家資格を取得。デイサービスなどの施設長を経験した後、35歳でお笑い芸人を目指し上京。テレビ番組『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)の出演などで注目を集める。現在も介護職と芸人として活躍しながら、講演活動やSNSを通じて介護や育児のリアルを発信し続けている。
撮影/杉原賢紀 取材・文/小山内麗香
