倉田真由美さん「無料の博物館」くらたまね~&らいふVol.26
漫画家の倉田真由美さんは、妹とふたりで都内にある博物館を訪れた。入館料は「無料」で満足度が高かったという。姉妹揃って無類の「博物館」好き。その原点は、祖父母が暮らす山口県・萩市で過ごした幼少期に遡る。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。夫の叶井俊太郎さん(享年56)の闘病から看取りまでを綴った書籍『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』も話題に。
「博物館が好き」その原点は?
子どもの頃、夏休みなど長い休みには、私と妹は山口県萩市にある祖父母の家に長期で滞在していました。
萩に友だちは全然いなかったけど、大好きな祖父母の家には何週間いても飽きませんでした。夏には海で泳いだり貝や魚を採ったり、お祭りや花火に行ったり、野山で虫を採ったり。そしてたまに街中に出た時は、博物館に行くのが楽しみの一つでした。
私は漫画家で絵を描くことも仕事にしていますが、絵画や彫刻など美術に関してはとんと疎くて、美術館には数えるほどしか行ったことがありません。でも、博物館は旅先にあれば優先的に行くくらい好きです。特に動物関係の展示物は、動物園で生きた動物を見るよりも何故だかずっと好きです。
妹も私と同じ博物館好きで、私たちのその原体験は祖母と行った「萩市郷土博物館」であることは間違いありません。現在萩市にある近代的に整備された博物館とはまったく別物で、歩くとギシギシ音がする板の床、埃っぽい古い建物の中に動物の剥製や虫や魚の標本、様々な貝殻などが不思議な秩序で並ぶ「昭和の小さな博物館」でした。
リュウグウノツカイの剥製があり、「深海にはこんな魚がいるんだ」と、珍しい深海魚の実物を見ることができて特別感を覚えたのも懐かしい記憶です。ただ最後に行ったのが小学校高学年くらいの頃なので、思い出せるものは限られています。
近くにある博物館へ「入場料は無料」
数日前からうちに遊びに来ている妹とこの博物館の思い出話になり、「博物館に行きたいね」と二人の博物館熱が高まったので、妹が探してくれた東京海洋大学内にある「マリンサイエンスミュージアム」に行ってきました。
品川駅から歩いて行ける距離で、しかも入館料は無料です。
「今まで存在を知らなかったよ。品川といえば水族館のイメージしかなかった」
「都内って、いろんな博物館あるよね」
福岡在住に妹のほうがよく調べていて、詳しいくらいです。
東京海洋大学に到着し、最初に目を引いたのは「鯨ギャラリー」でした。横長い建物の窓から、大きな鯨の標本が見えます。中に入ると熱がこもってムアッと暑いですが、鯨の骨の全身の標本を至近距離で眺めることができました。
「大きいねえ」
「本当。大きい」
「暑いねえ」
「うん、暑い」
暑さで月並みな言葉しか出てきません。「鯨ギャラリー」は、鯨標本を収納するためだけの建物のようでした。
長居はできず、私たちはギャラリーを出てすぐそばにあるマリンサイエンスミュージアムに向かいました。
「エアコン効いてるといいね」
「無料だから贅沢言えないよ」
あまり暑すぎたらゆっくり鑑賞できないなあと心配でしたが、こちらは建物も大きくしっかり空調完備してありました。そして海獣、海鳥、魚、エビカニや貝など想像していたより多くの海の生き物たちの剥製、標本が揃っています。
「これが無料なんてね。もっと早く知りたかった」
「しかも平日だからかな、人も少ないね」
私たちと、もうひと組女性の二人組がいるだけでした。こんなにいい施設が近くにあったなんて。
「来てよかったね」
「うん」
ゆっくりと歩みを進め剥製や標本を眺めながら、私たちは何度も「来てよかった」と言い合いました。夫が生きている時に来たかったなあ、きっと子ども連れて何度か来ただろうなあ、と少し悔しいような気持ちになりました。
特段珍しい生き物の標本があるわけではなかったけど、動物系の博物館が大好きな私たち姉妹は大満足で、博物館を出たら土砂降りの雨だったこと、傘を持って行かなかったからずぶ濡れになったこと含めても、トータルで大きなプラスの1日になりました。
帰宅後、やっぱりどうしても昔行った「萩市郷土博物館」の様子を見たくてネット上を散々探しましたが、閉館し解体されたのが25年以上前で、写真などを見つけることは出来ませんでした。祖父母が故人となった今、あの博物館の話ができるのは妹と、母だけです。今度帰省して母に会った時、私たち姉妹の朧げな記憶を補強してくれるような話が聞けたらいいなと思っています。
