兄がボケました~認知症と介護と老後と「第79回 新たな価値観」
ライターのツガエマナミコさんが認知症の兄のサポート経験を通して、介護や老後について考えるシリーズ。新しい商業施設に友人と出かけたマナミコさん、変化を続ける東京の街で暮らす醍醐味とは。毎週欠かさず面会に行く兄と様子と併せて近況を綴ってくれました。
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スクワットをやり始めました
先日、東京の高輪ゲートウェイ駅(JR山手線・京浜東北線)に初めて降り立ちました。
友人とのディナーのお店選び担当になったので、昨年できた山手線の新駅をチョイスした次第でございます。友人もみな「初めて降りる駅!」と胸弾ませてくださいました。
駅の第一印象は、テーマパーク。近未来をテーマにしつつ、和の落ち着きもあり、駅であることを忘れるような空間に目が泳ぎっぱなしでございました。改札を一歩出るともうニュウマン高輪という商業施設の敷地と思われる広場で、左右にドドーーンと広がる解放感に感動いたしました。
この日、選んだお店はビルの28階。レインボーブリッジを望む大都会の夜景を見下ろしながらのディナー。洒落た居酒屋で6600円のおまかせコースを堪能いたしました。メンバーは社会人になってからの女子友4人組。年代は48~63歳とばらつきがありますけれども、最年長のわたくしは「同年代」と思っております。
今は仕事もバラバラで、年齢的には仕事の辞め時を見据えている頃。ですが「派遣で65歳までは働ける」という人もいれば、「去年から正社員になった」という人もいて、それぞれの近況を聞くだけでひと仕事でございました。親の介護も加わるお年頃ですから、次から次へとお話は止まりません。「だんなのきょうだいの仲が悪くて遺産相続で揉めそう…」とか、「元気だからなかなか老人ホームの順番が回ってこない」など、それぞれにマシンガントークが炸裂。わたくしが口を挟める余地はなく、2時間があっという間に過ぎました。
お味も景色もおしゃべりもお腹いっぱいいただいた最高の夜でございました。
しかし、ざっと館内を歩いてみると、ほとんどが高輪価格でわたくしが買えるものがないことを認識。唯一、無印良品を見つけたときは、“砂漠にオアシス”のような安堵感がありましたけれども……。
六本木ヒルズに始まり、表参道ヒルズ、虎ノ門ヒルズ、コレド日本橋など、東京には似たような商業施設が増えており、そこに入っている何百軒のお店はやっていけるのだろうかと心配になります。我が町の小さな商店街やショッピングセンターでも閉店やテナント撤退が増えており、世知辛い空気を感じております。
新たなものができるスピードが速くなった分、廃れていくスピードも速くて、だからまた新しいものを作り出さなければならず、まるでネズミが爆走する回し車のようでございます。
高輪ゲートウェイ界隈でお買い物は楽しめませんでしたが、屋内の商業施設を端から端まで歩くのはいい運動でございました。この年齢になりますと、ショッピングやお食事会は立派なリハビリでございましょう。出歩くこと、おしゃべりすることが主目的で、何を買うか何を食べるかは副産物。これを本末転倒というのでございましょうか。歳を重ねた新たな価値観でございます。
そして今週も兄の面会に行ってまいりました。
「今朝3時頃、またてんかんの発作がありました」とのこと。だんだんスタッフのみなさまも発作に慣れて、落ち着いて見守ることが普通になったようでございます。わたくしに報告することのない発作もあるでしょう。今後またお薬が増える日も来るかもしれません。
でもわたくしは無力。できることといえば元気に面会に行き続けることだけ。足腰が痛くて面会に行けない…なんてことにならないように、この年齢だからこそ筋肉を鍛えるべきだと思いはじめました。
もう普通に生活しているだけでは筋肉は衰えるばかり。衰えれば動くのがしんどくなって益々衰える。わたくしもここ数年膝痛で、いつ整形外科に行こうかと考えておりましたが、最近スクワットをやり出してから、歩く度に憂鬱だった膝の痛みが気にならなくなってまいりました。「痛かったのは筋肉が落ちていたせいか」と妙に納得した次第です。
ただ、人によってはスクワットで痛みが悪化する場合もあると思いますので、これはツガエ個人の見解とご理解くださいますようお願い申し上げます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性63才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現67才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。
イラスト/なとみみわ
