倉田真由美さん「色々なものを捨ててみたら…」くらたまね~&らいふVol.13
「また着られるかもしれない」「痩せたらはけるだろう」と、漫画家の倉田真由美さんがなかなか捨てられなかったジーンズ。20年以上大切にしてきたものをいよいよ手放すことに。「捨てる」という行為から、大切な思い出が蘇り――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。夫の叶井俊太郎さん(享年56)の闘病から看取りまでを綴った書籍『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』も話題に。
サイズが合わなくなったジーンズ
先週、20年以上後生大事に持っていた、サイズが合わなくてはけないデニムのジーンズを処分しました。
未練を断ち切るのは、結構勇気がいりました。30代前半まで、ピッタリサイズではけていたデニムです。「いずれまた痩せたらはこう」と思い、それを目指して時にはダイエットを頑張ったりもしましたが、体型が完全に戻ることはありませんでした。
最もこだわっていた服を捨てると、勢いがつきます。「この際だから、あれも捨てるか」「これももういらないな」と、惰性で持っていた服、バッグ、靴をいくつも捨てました。売れるような高価なものはほとんどないので、躊躇なくゴミ袋に放り込めます。
何年も着ていないのに「大してスペースを取らないから」とタンスにしまい込んでいたペラペラの生地のワンピースや、仕事でしか履かなかったけどもう仕事でも履きそうにないハイヒールなど、自分でもなぜとっていたのか分からないものがなくなると、気持ちがちょっとスッキリします。
「これは捨てないの?」と娘
私がいろんなものを捨てているのを見た娘が、「これは捨てないの?」と、本棚に置いてあるインスタントコーヒーを手に取りました。
生前、夫が毎朝飲んでいたインスタントコーヒーです。
買い置きしていた夫が飲めなかったストック分は、すべて人にあげました。でも飲みかけのひと瓶、夫が亡くなる前日まで飲んでいた、中身が半分ほど残ったコーヒーの瓶だけは手放すことができませんでした。
夫には、毎日の決まったルールがいくつかありました。「朝、角砂糖を二つと牛乳を入れた温かいインスタントコーヒーを飲む」というのもその一つです。寒い日も暑い日も、旅先でも必ず飲んでいました。本格的に豆を挽いたコーヒーではなく、N社の粉コーヒー「G」でないとダメで、旅行の際は小分けのコーヒーを必ず携帯して行っていました。
一度、安売りだった違うインスタントコーヒーを「これでもいいんじゃないか」と買って帰ったら、「これじゃないんだよー」と飲むのを拒否され、それは私が消費することになったことがあります。
「もう、カビてるよ」
娘が言いました。すっかり色も変わってしまって変質していることは一目瞭然です。
「そうだね。でもこれ、父ちゃんが飲んでたやつだからね」
「そうだけどさ…」
夫に似た娘は私のようにメソメソしたところがなく、さっぱりしたタイプです。そのことに何度も救われました。
「別に臭くないし、カビが漏れるわけじゃないから。もうちょっと置いておこうよ」
娘に言いながら、コーヒーにまつわる夫の思い出がいくつも蘇ってきて、こみ上げるものがありました。娘は「ふうん」と、私の様子に気づいたか気づいていないのか、自室に戻っていきました。
夫の遺品はたくさんあるので、インスタントコーヒーまではいらないかな…と思ったこともありますが、いざとなると捨てることができないんですよね。夫が使ったままの、その形が残っている特別なコーヒーだから。
