倉田真由美さん「ビデオカメラに残された映像」くらたまね~&らいふVol.8
漫画家の倉田真由美さんが”お金と暮らし”の気になるアレコレを綴るエッセイ。今回は「古いビデオカメラ」の動画をどうするか?問題。ビデオカメラに残された亡き夫、叶井俊太郎さん(享年56)の思いもよらない映像を目にして――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。新たな描きおろし漫画も収録した最新の書籍『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』も話題に。
妹と過ごしたある日のこと
今年のゴールデンウイークは、福岡から妹が来てくれて一緒に過ごしました。
連日日帰りのバス旅行、都内の公園巡りなどで歩き回り疲れ切った連休半ば、今日は家でゆっくり過ごそうと決めた日に「ちょっと付き合って欲しいところがあるんだけど」と妹を誘いました。
行こう行こうと思いつつ、なかなか行けないでいたのはカメラ・プリント専門店です。今はもう使っていない、古いビデオカメラに入った動画のバックアップを取るために。
SDカードは消耗品で数年で劣化してしまうらしくヒヤヒヤしていたのですが、あまりにもメカに疎いため何をどうしていいか分からず、詳しい妹がいる時に一緒に行きたいと前から狙っていたのです。
散歩がてら一駅分くらい歩き、カメラ店へ到着しました。
「うわ、懐かしい」
妹は私が取り出したビデオカメラを見て言いました。15年ほど前、お揃いで妹にも色違いを買ってあげたのです。
「まだ持ってたんやね。うちはもう何年か前に売っちゃったよ」
「夫の病気がわかってから、夫を撮るのに何度か使ったんよ。これでしか観られないから、大事にしてる」
バックアップで取っておきたいのは、夫のがん判明後2022年から意識して撮っておいた数本の動画です。それらをブルーレイ・ディスクに落としてもらうつもりで来ました。
店員さんの指示を受け、ビデオから慎重にSDカードを取り出し店内にある機械にセットしました。ところが何故か動画が呼び出せません。
「え、どうして?」
「あれ?どうしてでしょう。ちょっと待ってくださいね」
店員さんと私がモニターの前で苦闘している時、
「これ、本体にも動画入ってるよ」
SDカードを抜いたビデオカメラをいじっていた妹が言いました。
「SDカードに入ってる動画とは別に、本体に直接録画された動画があるみたいやけど」
私は驚いて妹が見せてくれたビデオのモニターを覗き込みました。そこには2012年からの数年間、間違いなく私が撮った家族の動画のインデックスがありました。
私は、この動画の存在をすっかり忘れていました。
ビデオ本体に直接録画する機能があることなど、意識していなかったせいかもしれません。スマホで動画を撮るようになり、ビデオカメラを使う頻度は購入後すぐに減っていきました。病気後の夫をしっかり録画しなきゃ、とその時点で数年間使っていなかったビデオカメラ。その中に、10年以上前の元気な夫の姿が残っていました。
思いもよらなかった動画に…
まだ、こんなのがあったんだ。
インデックスの中には、夫が子どもと踊る姿がありました。確かに見たことがあるのに、この動画がなければきっと一生思い出すことができなかった光景です。思ってもいなかった動画の存在に、人目を憚ることもできず涙が溢れてしまいました。
結局、その店では動画をブルーレイ・ディスクに落とすことはできなかったのですが、もたついたおかげで妹が埋もれていた動画を発見してくれました。思いもかけない得難い宝、これから日にちをかけてゆっくり観たい大事な動画です。
その店から出て、程近い別のカメラ店で、無事にSDカードの動画は保存できました。
本体の動画、2012年から2017年までの動画は帰宅後新しいSDカードに移してから、また来店することにします。
今年のゴールデンウィーク、泊まりの旅行はできなかったけど、妹のおかげで大きなサプライズがありました。
