現役東大生の起業家・森山穂貴さん(23歳)、介護業界に参入したきっかけは「牛丼を嬉しそうに食べる高齢者の笑顔」
高齢化が進み「介護」という言葉を日常的に耳にするようになったが、そこには「人手不足」「低賃金」などネガティブなイメージもつきまとう。そんな介護業界を変革したいと、東京大学在学中に起業し、新著『未来をつくる介護』を上梓した森山穂貴さん(23歳)に思いを聞いた。(全3回の第1回)
◆EEFULホールディングス代表取締役・森山穂貴
もりやま・ほだか/EEFULホールディングス代表取締役。2002年生まれ。東京大学社会心理学研究室在籍(2026年3月卒業予定)。介護事業のデジタル化や持続可能なケアシステムの創造を目指し、東京大学在学中にスタートアップ企業を設立し、介護事業の運営やプロデュースなどを手がける。新著『未来をつくる介護』(クロスメディア・パブリッシング)。介護情報ポータルサイト「EEFUL DB」https://www.eeful-db.com
現役東大生が「介護業界」に参入した理由
――東京大学在学中に「起業」の道を選んだ理由や背景を教えてください。
森山:大きな理由は、幼い頃に海外で育ってきたことにさかのぼります。父が海外に駐在していて、長く暮らしたのが香港とシンガポールでした。ともに経済が急成長していた時期で、原体験として「社会は進化するのが当たり前」という感覚が植え付けられました。「未来は明るい」と若い人たちは皆思っていたように思います。
高校生になって日本に戻ってきたら、若者たちの意識がどうも自分とは違うなと。ネガティブな未来から今を“逆算”する同世代が多い。社会に向き合う姿勢として、自分と真逆だというギャップがありました。
もちろん多様な考え方がありますし、その時住んでいる国の経済状況に左右されるとは思うんですが、ぼくはポジティブな視点でいたほうがチャレンジングな意思決定ができると思った。だからまずは安直に「とりあえずいい大学に行こう!」と思って東京大学に進学しました。
――東京大学2年生のときに起業されましたが、どんな思いがあったのでしょうか。
森山:東京大学では、起業することと、就職先としてたとえばマッキンゼーやゴールドマンサックスを目指すとか就活と並ぶ選択肢に思えた、というかあまり深く考えてはいなかったですね。
最初はデジタル系の事業をメインに考えていて、ビジネスを模索していく中で、「なぜ自分がそれをやらなければいけないのか」という問いを突きつけられました。そこに強い思いがなければ自分がやる意味がない。ただ自分がやりたいだけでは、ビジネスとして成立しないと思っていました。
――ご自身への「問い」の答えはみつかったのでしょうか?
森山:家業が介護事業を営んでいまして、現場を見る機会は多かったんですね。看護師をしていた祖母が2000年の介護保険制度の施行に合わせて、介護事業を立ち上げ、父が事業を継承していくつかの介護事業所を運営していました。ただ家業を継ぐことや介護業界で起業することは当初、全く考えていませんでした。
ある介護事業所で人気チェーン店の牛丼を振る舞うイベントがあり、現場でサポートをしました。そこで見た光景が、ひとつの答えになりました。
牛丼を食べて嬉しそうにしている利用者さんたちの笑顔を見て、これまで感じたことのない温かい気持ちになったんです。「目の前の人を笑顔にする」ってこういうことか、と。そして介護の職場には解決しなければならない課題も山積している。このときの体験が今の事業の原点になりました。
ビジネスでは「市場規模」や「売上見込」といった話が先行しがちですが、本来大切なのは、誰のためにどのような価値を提供するのか、というとてもシンプルな思いです。自分に欠落していたものはそこだった。その時、「なぜ自分自身が取り組むのか」という観点と、「やりたい」という意思がぴったりと重なりました。
起業家としての思い「介護業界を変えたい」
――介護業界で変革したいことは、どんなことでしょうか。
森山:まずは「頑張っている人が報われない」という状況を変えたいと思っています。たとえば介護事業所はいくら頑張っても売上が上がるわけでもなく、評価制度も整っていないことも多い。
“頑張り損”という構造は、産業として発展していかないのではないか、と。そもそも事業所側は利用するかたの要介護度が高くなるほど収益が上がりやすい構造ですが、本人にとって要介護度は下がる方が“いいこと”なんですよね。そこに構造の歪みがあり、課題があると思っています。
――森山さんが運営する事業所では、どんなことに取り組んでいますか。
森山:家業の事業を継承し、介護事業所のM&Aを行い、現在400名近くの従業員がいますが、どの事業所でも同じように働ける仕組みを導入しています。
頑張り損ではなく、誰もがやりがいを感じられること。目標をもって仕事ができて、仕事のグレードによって昇級できる仕組み作りが重要だと考えています。介護事業所だからといって特別なわけではなくて、たとえばニトリや丸亀製麺など成長している企業と同じように、働く環境や制度を整えていけばいいと思っています。
――「介護」にまつわるネガティブなイメージを変えたいとお考えですか。
森山:介護の仕事というと、「排泄」とか身体介助のイメージが先行しています。排泄処理とか、処理という言葉もよくないと思いますね。
介護の仕事の本質は、人と人とのコミュニケーションに価値があり、そこで過ごす人生の時間が豊かになる寄り添い方ができることだと思います。もちろん終末期のかたもいて「死」と向き合わなければならない職業ではあるのですが…。「悲壮感」ばかりではなく、そこにあるのは「幸福な笑顔」。施設に暮らしていても、旅にだって行けるし、美容もグルメも楽しめるかたもいらっしゃいます。
事業所の利用者さんを大阪万博にお連れしたことがあるのですが、皆さん本当に楽しそうでした。「今日まで生きていてよかった」という瞬間を届けられる仕事だと思います。
サービス業多しといえど、これだけ人の生活、人生に深く携われる職種というのはそんなに多くない。介護には “生活を豊かにする”側面があることを、まず社会全体が認識することが大事で、それはこの業界の大きな魅力なんじゃないかなと思っています。
撮影/杉原賢紀 取材・文/吉河未布
