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連載

兄がボケました~認知症と介護と老後と「第71回 誕生日」

 認知症を患う兄を長年、サポートしていいるライターのツガエマナミコさんが、先日、お誕生日を迎えました。桜の咲く時期に生まれたマナミコさん、お誕生日当日の様子や近況を綴ってくれました。

 * * *

63才になりました

 朝6時30分、LINEの着信音で目が覚めました。

「お誕生日おめでとう!」と高校時代の友人からのスタンプでした。

 早いよ、と思いながらも寝ぼけ眼で「ありがとう!」と返すと、同じグループLINEからポツポツお祝いの言葉が届きました。

 ありがたいことに、それぞれの誕生日にはこうなるのがいつしか恒例になりました。

「元気な一年を過ごしましょう」という当たり前の言葉が、もう当たり前ではない年齢であることを噛みしめながら、最終的には世界平和を願うツガエでございます。

 ひと通りお祝いラリーが終わると話題は即座に誕生日を離れて、コロコロ変わっていくのも我らの恒例でございます。

「特別老齢年金もらってる?」「昨日は病院の日だった。朝3時半起きよ」「今、ボランティアで児童の付き添い。東北のスキー場にいます!」などなど、まぁバラエティに富んでいて、頼もしい限り。63歳の同級生たちはみんな早起きでございます。

 さらにこの日の午後は、社会人になってからの友人会があり、バースデーランチパーリーでございました。誕生日当日に複数の方々に祝っていただくなんて、小学生のお誕生日会以来ではないかと思います。いつだって祝っていただけたら嬉しいものですが、誕生日当日にはなかなか都合よく集まれないもので、大人になってからは一人ぽっちが通常でございましたから、今年はなんだか運がいいような気がしております。

 桜もちょうど満開を迎え、満腹で川沿いの花の下をそぞろ歩いた素敵な誕生日になりました。ありがたいことでございます。

 誕生日の前には、自動車免許証を返納してまいりました。「ツガエさん、今日からもう運転はできませんよ、いいですね?」と念を押されること2~3回。わたくしは車を持つことなく、免許証は身分証明でしかなかったので未練はありませんが、日常的に運転されていた方にとってはさぞ決断の重いことだろうと思いました。

 返納と同時に運転経歴証明書を申請いたしました。マイナンバーカード以外の身分証明証が欲しかったからでございます。はじめはマイナカードが身分証明書になるのだから、もう免許証は必要ないと思ったのですが、今後ますます個人情報がマイナカードに集約されていくことを考えると、マイナカードを気軽に出し入れするのは良くない気がしたのでございます。運転経歴証明書も公的な身分証として使用できるようなので、銀行での本人確認などはこちらで対応しようと考えております。といっても出来上がるまでに2~4か月かかるそうで、まだ手元にはございませんが……。

 兄は、あれから問題なく過ごしている様子で、面会に行くとわりと機嫌のいい顔をしております。外に出ることはなにかしらの刺激になるでしょうから、久々に病院へ行って少し脳が活性化されたかもしれません。帰り際、無表情になるのは帰ってほしくないという意思表示なのでは?と勝手な憶測をしております。それでも「また来るね」というと「はい」と言ってくれるやさしい兄でございます。

 この日は、施設の方から例の「診断書」と「本人確認シート」を受け取りました。わたくしが兄の成年後見人になるべく家庭裁判所に申請する大事な書類でございます。さっそくコピーを取りまして、原本を司法書士の先生の事務所へ郵送したところでございます。

 そんな折、朝日新聞の一面に「成年後見制度の見直し」の記事がございました。原則「終身」の現行から、「必要なことだけ、必要な期間だけ」の利用が可能になるそうな。一度家庭裁判所が後見人と決めたら、本人の意向に沿わない後見人でも死ぬまで変えることができないのは、やはりどこかおかしいと思っておりました。

 でも身元保証や死後の事務などをする民間業者はもっと怖い。後見人の問題はずっと兄のことと捉えてきましたが、じつはわたくし自身の問題。認知症になってしまったらやはり他人に後見人になってもらうしかなく、判断能力がなければ解任することもできません。そのかたが善良であることを神さまに祈るしかないのでございましょうか。
さもなくば一生認知症にならないこと。う~ん、いや、それは、親・きょうだいがその道を歩んだ認知症サラブレッドのわたくしには東大合格よりも難しいことでございましょう。

 あと7年で70才、あと17年で80才……、そこまで頑張れるか自信がございません。でも、できる努力はするつもりでおります。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性63才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現67才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。

イラスト/なとみみわ

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