シニアの恋愛事情|ときめきは特効薬、老年期こそスキンシップが大切
エッセイストの阿川佐和子さん(65才)が63才で恋愛結婚したのは記憶に新しい。女優の桃井かおりさん(67才)、浅野ゆう子さん(58才)、さらに、昨年末入籍した作家の猪瀬直樹さん(72才)と女優で画家の蜷川有記さん(58才)など、いまや60~70代の恋愛や結婚は珍しくない。
まずは、60~70代の男女単身者に行った以下のアンケート調査(20年中高年セクシュアリティ調査結果調べ<日本性科学会>)をご覧いただきたい。
ときめきは生きるエネルギーになる
日本性科学会セクシャリティ研究会代表の荒木乳根子さんが解説する。
「調査結果〈Q1〉の解説に、交際相手の平均年齢がありますが、たとえば70才なら、男性は59才の女性、女性は75才の男性を選んでいます。60〜70代の単身者は女性が男性の2倍。女性はパートナーを見つけにくい。半数以上の女性が、交際相手に既婚者を選んでいます。ただし近年は、男女とも結婚の枠にとらわれず、食事や趣味などを共に楽しむパートナーを望む傾向にあるようです」
荒木さんは、臨床心理士として、老人ホームでのリアルな男女の性の事例にも遭遇している。
「寝たきりだった女性が、好きな男性ができて自分で車いすで出かけるまでになる。あるいは、つらいリハビリも、若いイケメン先生だといそいそと出向いていく…。男性は、好きな女性の胸やお尻を触ろうとする。いい悪いは別にして、とにかくすごいエネルギーです。恋する気持ちは何よりの特効薬。会話が増え、別人のように生き生きしてくるんですから」(荒木さん、以下「」同)
荒木さんの師である性相談や治療におけるパイオニアで医学博士の奈良林祥さんにも、「荒木さん、片思いでもいいからときめきを持つのはすごく素敵なことだよ」と、常々言われていたそうだ。
老年期こそ肌の触れ合いで生じる愛情ホルモンが必要
ときめきは、若さを保ち、心身を活性化させ、認知症予防にもつながる。さらに、老年期になれば、女性は性交痛、男性は勃起不全などを発症し、若い頃のような性交はできなくなる。だが、性交よりも、肌と肌が触れ合うことの方が大事だと、荒木さんは強調する。
「触れ合うことによって、愛情ホルモン(オキシトシン)が出て、安心感にもつながります。幼子は抱っこして育てよ、といわれますが、抱っこは幼児期だけに限りません。病気がちになる、命も残り少ないなど、いろんなものを失う老年期にこそ、また必要になるもの。だからこそ、触れ合える相手がいるって、とっても大事」
 今のご時世、セクハラで訴えられないかと、誘いたくても臆病になる男性の立場を察して、女性から声をかけてみるのも手。
「女性は『最初の一歩は男性から。自分から踏み出しちゃいけない』と思ってる人も多いのですが、ぜひ、女性から手を差し伸べましょう。“おつきあいしたい”とダイレクトな告白でなくても、“〇〇さんの優しいところって素敵!”など、相手の長所を認めて褒めることから始めてみてはどうでしょうか。男性はプライドの生きもの。認めてほしいという思いが強いですから」
結婚は別。子供の理解を得ることも大切
一方、親の恋愛を子供はどう思うのか?
 「“親父が幸せならいいよ”“おふくろがよければ問題なし”と思える子世代が増えている気はします。ただ、結婚となると別。籍、相続、墓など現実的な問題に直面しますから、子供に理解してもらえるようきちんと話をして賛同を得ることも大切です」
教えてくれたのは
荒木乳根子さん/日本性科学会 セクシュアリティ 研究会代表 田園調布学園大学名誉教授、臨床心理士、公認心理師、日本老年行動科学会理事。中高年や老年期のセクシュアリティに関する調査研究を行い、超高齢社会における“高齢者の性”を発信する。主な著書に『セックスレス時代の中高年性白書』(harunosora刊)。
※女性セブン3月21日号