《年長者のたしなみを学ぶ》ANA初の「65歳定年まで飛び続けた客室乗務員」が指南する“相手を緊張させない”コミュニケーション術
年を重ねると、意図せず若い人を緊張させてしまうことがある。ANAで初めて65歳定年まで飛び続けた客室乗務員、大宅邦子さん。45年間、国際線ファーストクラスで一流のおもてなしを提供してきた彼女が、後輩たちから慕われ続けた理由とは何か。
ラストフライトに100名超の同僚が集まり、涙で見送った。そこには、仕事の枠を超えた「大人のたしなみ」があった。大宅さんが実践してきた小さな工夫を綴った『選んだ道が一番いい道』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成してお届けする。
相手を緊張させないことは、年長者のたしなみ
私がいいな、と思う同僚CAは、とにかくいつも、にこにこしています。
彼女は一緒に第一回「“OMOTENASHIの達人”コンテスト」に出場し、賞をとった実力者。私にとってはかわいい後輩ですが、若いCAたちから見れば、大ベテランでしょう。
こうした力のある人やキャリアが長い年上の人に対して、本人がどんなに気さくな性格だったとしても、若い人たちはとっつきにくく思うものです。若い社員は上司に話しかけづらい、親世代の相手には気を使うという話はよく耳にします。
そんななか、私がその同僚CAをいいな、と思うのは、若いCAたちが緊張せずに声をかけやすい、やわらかい雰囲気を自らつくり出しているところです。
たとえば彼女はチーフパーサーでファーストクラスを担当しますが、出発前のブリーフィングで、ビジネスやエコノミーのパーサーに対して声かけをします。そのときもにこにこしているのは、言うまでもありません。
「何か足りないものがあったときは遠慮なく言ってくださいね」
ファーストクラスは特別な席で、お客様のご要望に応えるよう、食事などはビジネスクラスより余裕をもって用意しています。そこで同僚CAは最初から、みんなが頼みやすいように言葉をかけていたのでした。
たとえば、サラダの葉野菜は、ファーストクラスは野菜の種類も量も多くビジネスにも流用が可能だったりと、融通し合える部分があります。
私が同僚CAとともにファーストに乗務したときも、「バターをお借りします!」と、二回ほどビジネス担当の若いCAが顔を出しました。それもにこにこ気軽な様子で、じつにいい雰囲気でした。後輩を緊張させないよう、気安く明るく接している同僚CAの姿は、本当にすてきでした。
立場が上になると、とたんに人に威圧的に接する人もいます。仕事の立場上、示しをつけるために、パフォーマンスでそうしているという人もいるでしょう。もちろん、厳しく何かを伝えなくてはならないという場面もあります。
そうであっても、人を緊張させていいことは一つもないような気がします。私はどんなに年を重ねても、人に気を使わせない人になりたいと思っていました。
CA時代は、必要事項や課題、そのときどきの目標などはもれなく確認しますが、その中にもちょっと冗談を交えたり、笑える部分をつくるようにしました。
ずいぶん前になりますが、年に一度の業務状況のチェックとして、チーフパーサーになって数年目のCAと同乗することになりました。人事評価の一環ですから、彼女はとても緊張している様子。フライト前にすでにかちかちでした。
私は、「ちょっと聞いてみて」と自分のiPodを取り出しました。
入れていたのは金魚の泳ぐ水音。偶然、見つけて気に入っていたものです。
「私、こういう面白いのが好きなんですよ。リラクゼーション効果がありますから、これを聞いて、リラックスしていきましょう」
何か注意されるのかと身構えていた彼女は驚き、やがてくすくす笑い出しました。いきなり金魚が泳ぐ音を聞かされるとは、想定外だったのでしょう。
冗談でもいいし、ちょっとした道具でもいい。相手を緊張させない工夫は、大人のたしなみだと感じます。
偉い人になるより、やわらかい人になりたいものですね。
誰かに偉ぶりたくなるなら、まだ半人前。相手を緊張させないコツはくすっと笑ってもらえる部分をつくることです。
教えてくれた人
大宅邦子さん
1953年生まれ。ANA初の「65歳定年まで飛び続けた客室乗務員」。1974年に入社後、国際線立ち上げのプロジェクトチームに参加。ANAの成長とともに、おもに国際線ファーストクラスで空の上のおもてなしを提供。滞空時間は3万時間超。ていねいに、手を抜かず、「いつでも指差し確認」の初心を忘れない姿勢で45年間のCA生活を続けてきた。食事や体調管理などの身の回りの整え方、「ほしいものより必要なものを買う」というものとのつきあい方、幼児から年長者まで同じように接する人とのつきあい方など、仕事を超えた清潔な生き方そのものが、ANAの伝説として8000人の後輩CAに慕われている。趣味は美術館めぐり、ジムでのエクササイズ、スキューバダイビング、アイロンがけ。ドローンの国家資格も取り、今度は「操縦」側の空も楽しんでいる。
