認知症・転倒リスクを高める“難聴”を放置しない!健康寿命を延ばす補聴器の選び方と最新機能【専門家解説】
加齢とともに誰もが直面する「聞こえづらさ」。放置すると、認知症や転倒リスクの上昇など、健康寿命を縮める深刻な影響が出ることも。一方、早い段階から適切な補聴器を使えば、生活の質は大きく向上し、健康寿命の延伸にもつながる。今回は専門家に補聴器の選び方から最新機能までを詳しく教えてもらった。
教えてくれた人
市村恵一さん/日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、医学博士。自治医科大学名誉教授。東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長。補聴器相談医として同クリニックで高齢者の補聴診療に携わる。
田中智子さん/認定補聴器技能者、補聴器専門店「うぐいす補聴器」代表。ドイツの大手補聴器メーカー勤務、訪問診療クリニックの事務長を経て、現職。MBA保持。本人の生活に合った補聴器の提案や補聴器を使いこなす周辺グッズの開発も行う。https://uguisu.co.jp
騒音にさらされないことが最も大切!
難聴の主な原因は加齢のため、いつかは誰もが難聴になる。ケアという点で何より大切なのは、「騒音にさらされないこと」だと、耳鼻咽喉科医の市村恵一さんは言う。
「以前にアメリカの医師が、騒音のほとんどないアフリカの南スーダンに暮らす原住民の聴力を調査したところ、若者と年配者の聴力があまり変わらないことがわかっています」(市村さん・以下同)
大きな音が耳に最も大きなダメージを与えるため、イヤホンを使って1時間音楽を聴いたら10分休む、地下鉄に乗るときは耳栓をするといった習慣をつけるのがおすすめだという。
難聴は「認知症リスク」「転倒」を上げる
下記にある<聞こえにくさチェックリスト>で軽度難聴の可能性があればすぐに耳鼻咽喉科で聴力検査をした方がいい。
「難聴の原因はさまざまありますが、加齢が原因の場合は治りません。ただし、補聴器をつけると会話が楽になります。つけて症状が悪化することはありません。
逆に10年放置すると、うつ病のリスクが40%、転倒のリスクが30%上がり、耳鳴りも併発します。認知症の発症率が50%上がるというデータもあります」
聞こえにくさを感じたら、早めの検査が重要だ。
10点以上は軽度・中等度難聴の可能性も!<聞こえにくさチェックリストで自己診断>
【各質問の点数】
はい(4点)/時々(2点)/いいえ(0点)
※総得点が10点以上なら軽度・中等度難聴、24点以上なら高度難聴の可能性が高い。
【質問内容】
<1>初対面の人と話すとき、聞こえないことによって困ることがある
<2>家族との会話で聞こえないことによってストレスを感じる
<3>小さな声で話しかけられたときに困ることがある
<4>聞こえないことによって不利益を受けることがある
<5>友人や親類、近所の人と話していて聞き取れなくて困ることがある
<6>よく聞き取れないため、集会や会合に出るのをためらうことがある
<7>聞こえないことについて家族と話をすることがある
<8>ラジオやテレビの音が聞こえにくいことがある
<9>聞こえないことで、やりたいことが充分にできないと感じることがある
<10>レストランや食堂などで知人の話がよく聞き取れないと感じることがある
出典:HHIE-S/Identification of elderly people with hearing problems;Ventry IM,Weinstein BE:asha,25,1983より一部編集部で改変
60才になったら年1回聴力検査を
補聴器はどういった段階を踏んで使い始めるのか。
「50代で一度、耳鼻咽喉科(できれば補聴器相談医)で聴力検査を受けましょう。60才からは年1回検査を受け、進行度を見ていきます。軽度なら様子を見るケースもありますが、中等度以上なら認定補聴器技能者を紹介してもらいます。重度だと人工内耳の手術をすることもあります」(市村さん)
補聴器は技能者と相談しつつ試し、調整完了後に購入するが、脳が新しい音に慣れるまで約3か月かかる。
「現在の補聴器は自動で雑音を抑制し、必要な音だけを増幅するデジタル式が主流。形は主に耳の穴に入れる『耳穴型』と、耳に引っかけて使う『耳かけ型(BTEとRIC)』があり、眼鏡をかけているかなど、ライフスタイルに合わせて選びます」(認定補聴器技能者の田中智子さん)
通販で補聴器ってどう?補聴器の便利さを知るきっかけに!
補聴器は聴力検査後、認定補聴器技能者に選んでもらうのだが、通販などで子供が購入して老親に贈るケースもある。軽度難聴の人が補聴器の便利さを知るきっかけとして、通販を活用するのも手だ。
こんなに便利!最新補聴器の先進機能5選
スマホと連携
ほとんどのメーカーの補聴器がスマホやタブレットと連携できるため、通話の声や動画の音、音楽が補聴器に直接届き、音がクリア。スマホアプリと連携させると、音量調整や紛失した補聴器の探索などもできる。
AI搭載
現在、ほとんどのメーカーでAI補聴器の開発を行っており、今後のスタンダード機能になると考えられている。AIが音声と雑音を聞き分けて雑音を除くなど、人の脳で行っている聞き取り方に近い補聴が可能になる。
AuracastTM
映画館や空港、病院、コンサート会場といった公共施設に最新規格のBluetoothを設置して補聴器とペアリング(接続)できるようにし、アナウンスなどを直接補聴器で聞けるようにする(使用には対応補聴器が必要)。
転倒検知機能
アメリカのブランド・スターキーで開発している最新機能。スマホのアプリと補聴器を連携させ、センサーで転倒を検知すると、アプリに通知が届く。高齢者がいる家族にとって安心の機能で、今後はこのような健康状態を管理する機能も充実しそう。
じぶんセンサー
デンマークのブランド・オーティコンの最新機能。通常の補聴器は近くの音を拾うが、目の前で会話をしている人ではなく後ろにいる人の会話を拾うことがある。それを解消するため、使用者の体や頭の動きなどを分析し、聞きたい音を推測して捉えてくれる。
※女性セブン2025年12月4日号
https://josei7.com
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