鼻のすすりや くしゃみの我慢が耳に悪影響?専門医が教える難聴を遠ざける8つの習慣
年を重ねるごとに「聞こえづらさ」を感じていませんか? 聴力の衰えを放置すると知らないうちに症状が悪化したり、認知症のリスクを高める危険性もある。ところが最新の研究では、聴力低下を防ぐ方法が明らかになりつつある。耳鼻咽喉科の専門医である新田清一さんに詳しく話を伺った。
教えてくれた人
新田清一さん/済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科・医師
加齢に伴う聴力低下はうつ病や認知症を発症するリスクも
「聞こえづらさ」は様々な場面で生活に支障をきたす要因になる。
済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科の新田清一医師が解説する。
「加齢性難聴は社会的孤立を招き、うつ病や認知症の発症リスクを上げることが分かっています。年齢とともに聴力は衰えがちですが、その進行を遅らせることはできます」(以下、「 」内は新田医師)
避けたいのが騒音だ。
「工事現場や工場といった大音量の場所は極力避けて、内耳の神経細胞にダメージを与えないことが重要です」
イヤホンやヘッドホンでテレビやラジオを聴いている人は「耳の休憩」を心掛ける。
「イヤホンをしても会話ができる音量にとどめて、1時間聴いたら10分休むといった休憩時間を設けましょう」
一方、補聴器を正しく使うことも重要だと新田医師は言う。
「耳から入る雑音を最終的に『音』として理解するのは脳です。補聴器は低下した聴覚機能を補うだけでなく、多くの情報を取り込み、脳が『音』を理解するよう再教育する機能を持ちます。上手に使えば聞き取りにくさが軽減し、人とのつながりも取り戻せるのです」
耳掃除は炎症を起こす可能性あり。くしゃみの我慢も危険
耳のケアに関する常識もアップデートしたい。現代の耳鼻科で推奨されないのが耳かきだという。
「耳の皮膚は非常に薄くデリケート。綿棒でもこすると簡単に傷がつき、細菌が入って炎症を起こす人が非常に多い。人には耳垢を自然に排出する自浄作用が備わっているので、耳掃除は不要です」
鼻のすすりやくしゃみにも思わぬリスクが潜む。
「鼻をすすると鼓膜が内側に引っ張られて陰圧の状態が続き、長引くと鼓膜が奥に陥没し、そこに耳垢がたまって周囲の骨を溶かす『真珠腫性中耳炎』を引き起こすことがあります。この病気は顔面神経麻痺や髄膜炎など重篤な合併症につながるので注意しましょう。
また、口を閉じてくしゃみを我慢することも危険です。強い圧力が耳管から耳に抜け、鼓膜を傷つける可能性がある。周囲の迷惑にならないようハンカチで口を押さえるなどして、我慢せずにくしゃみをしたほうがいい」
手間は少なく効果は大きい「最強の習慣」で生涯現役を貫きたい。
難聴を遠ざける8の耳ケア
<習慣1>工事現場に近づかない
工事現場や工場の騒音に曝され続けると難聴が悪化する。
<習慣2>耳の休憩時間を1時間に10分取る
イヤホンを使ってテレビなどを見たら1時間に10分耳を休ませる。
<習慣3>耳かきをしない
耳を傷つける可能性があるので、耳かきや綿棒などで無理に取らなくていい。
<習慣4>鼻をすすらない
鼻をすすると鼓膜が内側に引っ張られて炎症などの原因になる可能性がある。
<習慣5>くしゃみを我慢しない
くしゃみを我慢すると行き場を失った圧力が鼓膜を傷つける。
<習慣6>補聴器を使う
補聴器を適切に活用すれば聞き取りにくさを改善することは可能。
<習慣7>耳の詰まりを放置しない
山登りなどで気圧変化による耳の詰まりを放置すると中耳炎に。飲み物を飲んで耳抜きをする。
<習慣8>人とたくさん話す
補聴器を装着したら多くの人と話すことで聞こえのリハビリになる。
※週刊ポスト2025年8月29日・9月5日号
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