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ジェーン・スーさん、“老人以上、介護未満”の父親(87歳)のケアはビジネスライクに徹する「父はミック・ジャガー、私は裏方。ビッグアーティストにイチイチ腹を立てません」

 介護には前段階があり、今までのように生活がひとりでは回せなくなる日がやって来る――。本格的な介護まではいかずとも、日常生活のケアが必要になった父親のことを綴った新著『介護未満の父に起きたこと』(新潮社)が話題のジェーン・スーさんに、ビジネスライクに徹しているというケアについて聞いた。【前後編の前編】

「老人以上、介護未満」の父親のこと

「いわゆるザ・介護ではなくても、支援という形で家族がサポートしなければいけない時がくるんですよ。そのとき、何ができて、何ができないのかを見極めなくてはならない。それを見つけるころからの作業は骨が折れるものでした。もっと早い段階から手を打っておいたほうがいいと思いましたね」

 ジェーン・スーさん(以下、スーさん)の父親は現在87歳、片道1時間の場所に暮らしている。別々に暮らしながら生活の支援をする形だ。

「父には父の人生があって、私にも私の人生がある。それを確保することを最優先に考えると、別々に暮らしたほうがいいんですよ。距離が近くなればなるほど衝突が起きるということは、これまでに学んできましたから…」

 2018年には父親のことを綴ったエッセイ『生きるとか死ぬとか父親とか』を上梓し、奔放な父親との愛憎物語として話題を呼び、2021年にはドラマ化もされた。

 新著『介護未満の父に起きたこと』では、そんな父親の82歳から87歳までの5年間にわたるエピソードが綴られている。

「私は一人っ子で、私が24歳のときに母が他界しているのですが、父の人生において、色々とお世話をしてくださるかたがいらっしゃいました。ですが、そのかたたちも高齢になっていますから。父ひとりで生活を回していくことが難しくなってきたので、私が介入することになりました」

ビジネスライクに進める方法とは

 あるとき父親の部屋を訪れたスーさんは、荒れた部屋を見て愕然とする。

「家事能力がない」父親の生活をどうすべきなのか、まず参考にしたのは介護とはまったく関係ないビジネス書だった。

《父親は老人以上、介護未満。ならば、いま父ができることはなにか、できないことはなにか、新しく覚えられることはあるのかを見極め、本格的な介護に入るまでの生活を建設的に進めていきたい。いわば、私なりのマイ・フェア・ダディ。この事態をもっとビジネスライクに片付ける方法を見つけ出したい》(本書・1章より)

「父のケアはあくまでビジネスライクに徹し、淡々とシステムを構築していった」というスーさんは、多くのビジネス書を読み込み、父親の生活を立て直すためのノートを作成。

「『できること』『できないこと』『頼みたいこと』『危ういこと』の4つに分けて、マトリックス表を作ったら、これが私には一番わかりやすかったですね。

 できないこと、頼みたいことを誰に振るのかを考えていけばいいわけですから、これは仕事と同じ。仕事だと思えば、大抵のことはサクサク進められます。家族のことだと思うと心が沈んでしまうこともあるかもしれませんが、私の場合は『人の親』だと思って進めていきましたね」

 こうして4つの中から、父の担当、家事代行サービスに外注すること、娘(自分)の担当を振り分けていったという。

「できないことの中には、もっと解像度を上げて見ていくと、ラップがめくれない、お椀が持てない、ペットボトルのキャップが開けられないとか、色々出てくるので、なにか便利なものはないかを探してみる。

 あるいは、段ボールを開けること、解体してゴミ捨て場に持って行くというのも危ない。それならばヘルパーさんが来た日にお願いしようとか。できなくなることが増えていくことに対して感傷的にならずに、ビジネスだと思ってバンバン仕分けしていく感じでした」

父は大物アーティスト「ミック・ジャガー」

 静かにきっぱりと語るスーさんは、新著では父親のことを大物アーティストになぞらえている。

「ミック・ジャガーがずっと来日していて帰らない感覚です(笑い)。私は大物ミュージシャンのイベンター、裏方ですよね。

 相手はビッグアーティストだから気まぐれだし、私が伝えたことを忘れても悪びれない。でもイベンターはそれにイチイチ腹を立てません。うまく誘導して気持ちよくステージに上がってもらうことが私の仕事。そういう風に考えていきました」

「物語の主役はあくまで父ですから。転んで怪我をしたのは父なのに、怪我をした父親がいる私は可愛そうって、物語の主役を横取りしちゃう人っているじゃないですか。

 歩けなくなって辛いのは父だし、体重が減って大変なのは父だし、病気して大変なのも父だしで、主人公は常に父。私はあくまで裏方として、父の生活のサポートをしているんだという意識は持つようにしていますね」

 父親のサポートをビジネスライクに、ドライに進めてきたが、それでも時には落ち込むこともあったという。

「父の記憶力が低下しているのを実感したとき、足元がおぼつかない様子を目の当たりにしたとき、突然の電話で救急車で運ばれたことを知ったとき。毎回ガクっとは来ますよ。

 病院から一番に連絡が来るのは、娘の私ですから。いくら離れて暮らしていて意識的に距離を取っていたとしても、親子という縁の繋がった関係であることを強く実感する。そういう社会のシステムにグッときますね。できるだけ感情を引っ張られないような訓練はしているつもりなんですけどね。

 もちろん父に対して愛情はあります。ただ、やっぱり介護というものは愛情だけではできないことだっていうのもよくわかっていますから」

 介護未満の父親に活用している具体的なサービスやアイテムなどについて、次回お伝えする。(後編につづく)

撮影/柴田和衣子 取材・文/桜田容子

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