40才以上の8割が悩む排尿トラブル 上皇の担当医が教える「男性の頻尿・尿漏れ」対策5選
すぐにトイレに行きたくなる、少し漏れてズボンを汚してしまう…。なかなか人に言えない男性特有の「おしっこ」の悩み。こうした症状は「自力で治せます」と専門医は話す。日頃の生活のなかでできるセルフケアを解説する。
教えてくれた人
高橋悟医師/日本大学医学部泌尿器科学系主任教授 ※高ははしごだか
頻尿・尿漏れは「隠れた国民病」に
「隠れた国民病」と言われるのが頻尿や尿漏れだ。
「日本排尿機能学会の調査(2023年)によれば、40才以上の8割以上が何らかの排尿トラブルを抱えています。しかし、恥ずかしさもあって人に相談できないケースが多い」
そう話すのは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟医師。2003年に上皇が前立腺がん手術を受けられた際の担当医師団の一人で、『頻尿・尿もれ 自力でできるリセット法』(アスコム)など多数の著書がある泌尿器科のスペシャリストだ。
高橋医師によれば、急激な尿意が起きて我慢できない、短い間隔でトイレに行きたくなる、ふとした瞬間に漏れてしまうといった症状が出る「過活動膀胱」の患者は1000万人以上にのぼるという。
「過活動膀胱は尿道括約筋や骨盤底筋の衰えなどにより、膀胱に十分に尿を溜められなくなることで起こります。しかし、多くの場合、毎日少しずつセルフケアを行なえば、症状を自力で改善することが可能です」(高橋医師。以下「 」内は同じ)
【対策1】ワイン、漬け物ほか「催しやすい飲食料」を知る
過活動膀胱の代表的な症状である頻尿は、昼間だけトイレが近い「昼間頻尿」と、寝ている間に1回以上トイレに立つ「夜間頻尿」に分けられ、加齢とともに両方に悩まされる人が増えていく。
「昼間頻尿の人は、外出前にコーヒー、紅茶、日本茶、ウーロン茶、エナジードリンクなどを飲むのを控えましょう。利尿作用のあるカフェインを多く含むので、トイレが近くなってしまう。
夜間頻尿の人はこれらに加えてお酒の飲み方に注意が必要。アルコール自体に利尿作用があるほか、ワインや紹興酒は同じく利尿作用があるカリウムが多く含まれる。摂取した水分は3時間ほどで尿になるので、就寝3時間前までには飲むのをやめましょう」
飲み物だけでなく、食べ物にも気をつけたい。
「塩分には尿量を増やす作用があるため、カップ麺や梅干し、漬け物、しょうゆ、味噌など、塩分の多い食品や調味料の摂り過ぎも避けたほうがいい。とうがらしやわさびなどの辛味の強い香辛料や、酸味が強い食品も膀胱を刺激するので頻尿を招きます」
【対策2】「腹巻カイロ」と「ドアノブカバー」で膀胱を守る
体の冷えも膀胱の大敵。普段から下腹部を冷やさないよう意識することが大切だと高橋医師は言う。
「クーラーが効きすぎているような場所に行くときには、夏でも『腹巻カイロ』がおすすめです。使い捨てカイロを下腹部とお尻に衣服の上から1枚ずつ貼るだけでOK。冷たい金属製のドアノブを触っただけで尿意を催すようなら、家のドアノブにカバーをつけるなどの対策を取りましょう」
【対策3】ゆったりズボンと「ミルキング」で漏れを撃退
とくに男性に多い悩みが「ちょい漏れ」で、40代以上の3人に1人はズボンにシミをつけてしまった経験があるとされる。
気をつけたいのが「服装」だと高橋医師。
「男性の尿道は長さが約17~18cmあり、S字カーブを描いています。ぴっちりしたズボンを履いていると、曲がった部分に尿がたまり、後から漏れてしまいやすくなる。ベルトをきつく締めるのも膀胱を圧迫することになるのでNGです。ゆったりとしたズボンを穿くことを意識しましょう」
高橋医師が推奨するのが「ミルキング」だ。尿道に残った尿を指で絞り出す方法で、残尿感の解消にもつながるという。
「排尿後、陰嚢の裏側の付け根部分を指で押し、尿道を前(睾丸側)に向かって、こそぐようにして尿を絞り出す。これをティッシュペーパーやトイレットペーパーで受け止めれば、下着やズボンを汚さずにすみます」
【対策4】ふくらはぎが鍵を握る。「10cm足上げ」「むくみ取り歩き」で水分排出
頻尿や尿漏れ改善に役立つ体操もある。
高橋医師が挙げる改善策のひとつが、「仰向け足上げ」だ。仰向けに寝て、座布団などで足を10cm以上高くした状態を約15分間キープする。
「この姿勢をとると下半身にたまっていた血液などが心臓に戻り、余分な水分を寝る前に尿として排出できるようになります。毎晩3~4回トイレに立っていた人がピタリと治ったケースもある」
下半身の水分を排出する「仰向け足上げ」
【1】座布団などを使い、足を10センチ以上高くして仰向けに寝る
【2】15分間その姿勢をキープする
<ポイント>
就寝の3時間前までに行なう
同様の効果が期待できるのが「ふくらはぎマッサージ」。両手で輪をつくるようにふくらはぎを包み込み、下から上へ、軽く圧をかけるように揉み上げる。左右それぞれ10分程度が目安となる。
足上げもマッサージも、就寝の3時間前までに行なうのがポイントだ。
「それでも夜間頻尿が改善しない場合は、『むくみ取り歩き』を実践しましょう。むくみが出やすい夕方に30分程度、歩幅を少し広めにして歩く。ふくらはぎの筋肉を刺激し、ポンプ作用を改善して下半身に水分がたまりにくくします」
【対策5】症状が進行している人は「45回の肛門締め」
昼夜を問わない「昼夜頻尿」や、急に漏らしてしまう「切迫性尿失禁」の症状には、「骨盤底筋トレーニング」が有効だ。骨盤底筋を鍛えることは「衰えた尿道括約筋を鍛えることにもつながる」と高橋医師は話す。
「おならを我慢するように、お尻に力を入れて肛門を締めます。そのまま陰茎の付け根をギュッと締め、さらにおへそのほうに引き上げるイメージで10秒間キープ。呼吸は止めずに行ないましょう。
これを1回として、1日に最低45回。できる人は1日100回を目標にしてください。就寝前と起床時に布団のなかで行なうなど、小分けにするのがおすすめです」
近年の研究によれば回数が多いほど効果があり、2~3か月毎日続けると症状が改善するという。
人には言いにくい悩みだからこそ、自力で治すメソッドを試したい。
尿漏れを撃退する「骨盤底筋トレーニング」
【1】仰向けに寝て、両足を軽く開き、両ひざを立てる
【2】おならを我慢するようにお尻に力を入れて肛門を引き締める
【3】そのまま陰茎の付け根をギュッと締める。おへその方に引き上げるイメージで10秒間キープする
<ポイント>
1日45回以上繰り返す
イラスト/タナカデザイン
※週刊ポスト2025年9月12日号
●寝ながら簡単!「骨盤底筋ストレッチ」で尿もれ予防&睡眠の質も向上【理学療法士監修】