尿漏れ・夜間頻尿に悩む人へ「排尿問題」を改善して幸福度を上げる8つの方法を医師が解説
くしゃみや咳をした後に冷や汗。何度も夜中にトイレに立つのが日課になってため息…。あなたの日常に影が差す「排尿」にまつわる大問題。尿漏れや頻尿といった「排尿」にまつわるトラブルに悩むシニア世代へ――。医師は「いい排泄ができれば幸福度が上がる」と語る。いますぐできる尿漏れや頻尿の対処法について専門家に聞きました。
教えてくれた人
平澤精一さん/泌尿器科医。マイシティクリニック院長、川本徹さん/消化器病専門医。犀星(させい)の杜クリニック六本木院長、松生恒夫さん/「便秘外来」を開設する松生クリニック院長、西村かおるさん/排泄ケア専門の看護師、日本コンチネンス協会名誉会長
「頻尿や尿漏れ」自分で排泄をコントロールできないと自己効力感が大きく低下する
スキーに温泉、イルミネーションと冬のレジャーは多種多様だ。とりわけ今年は暖冬傾向。ウインタースポーツを楽しまない人でも外出欲がわいて、2月の3連休ラッシュに向けて行楽の計画を練っている人も多いだろう。しかし東京都在住の主婦・松山朋子さん(67才・仮名)は浮かない顔だ。
「以前は出かけるのが大好きで、祝日は友達と日帰りのバスツアーに行くのが定番だったけれど、最近は誘われても外に出るのが億劫で…。あんまり人には言えないんだけれど、ここ1年でトイレがかなり近くなって、くしゃみをしただけで漏れることもあるから、揺れの大きいバスに乗って遠出をするなんて、もってのほかです」
シニアにとって排泄をめぐる問題は避けられない悩みだが、ただちに治療を必要とするような“病気”ではないゆえに「年をとれば仕方がないこと」だと見過ごされがちだ。
しかし専門家たちは「いい排泄ができるかどうかで心身の状態は大きく変わる」と声を揃える。
マイシティクリニック院長で泌尿器科医の平澤精一さんが懸念するのは、排尿トラブルとうつ症状との相関関係だ。
「頻尿や尿漏れなど、排尿に問題を抱えていると外出を避けて家にこもりがちになり、生活の質(QOL)が低下する。また、日光を浴びたり人とコミュニケーションを取ったりする機会が失われることで、うつ病のリスクが上がります」
排泄がうまくいかなくなることで行動範囲が制限され、大きなストレスがかかることに加え、人間としての尊厳にも大きな影響がある。排泄トラブルの予防や対策についての情報発信を行う、日本コンチネンス協会名誉会長で排泄ケア専門の看護師、西村かおるさんは「自分で排泄をコントロールできなくなると、『自己効力感』が大きく低下する」と話す。
「“私ならできる”と目標に向かって自分を奮い立たせる力である『自己効力感』は楽しく前向きに年を重ねるために必須の能力です。しかし体の自由が利かなくなって、若い頃と同じように行動ができなくなることで、それが失われるケースは少なくありません。
特に毎日必ず行う排泄行為がうまくいかなくなれば、“こんなこともできなくなってしまった”と『自己効力感』が大きく下がり、幸福度は著しく低下します」(西村さん)
夜間排尿が2回以上の高齢者は死亡率が上がる
さらに恐ろしいのは、放置すると命にかかわるリスクもあることだ。
「排泄トラブルを懸念して外出控えを続ければ、筋力や身体機能が衰えた状態である『フレイル』になり、そこから要介護になる事例は多く報告されています。また、夜間の排尿回数が一晩に2回以上の高齢者は、1回以下の高齢者に比べて、死亡率が約2倍になることも明らかになっています」(平澤さん)
翻って言えば、排泄をうまくコントロールできれば、健康で幸せな生活を送ることができるということ。
「実際、おむつに頼って寝たきりだった女性が、排泄に関するケアをしたことによって自力でトイレに立てるようになり、再び歩けるようになったという事例は枚挙に暇(いとま)がありません」(西村さん)
では、どうすれば心身を健康に導くスムーズで心地のいい排泄が実現できるのか。あなたの生活を大きく変える、とっておきの方法をお伝えしたい。
排尿トラブルは「まず塩分や糖分の量をチェック」
QOLを大きく下げる排尿トラブルに対峙するにあたり、平澤さんは何よりもまず「原因を知る」ことが大切だと話す。
「シニア女性の頻尿の原因の多くは、血管が老化して血流が悪くなり、膀胱(ぼうこう)に栄養や酸素が行き渡らなくなって機能が落ちることで起きる『過活動膀胱』です。また、加齢に伴い膀胱のしなやかさや弾力性が失われて尿をためにくくなることや、膀胱の神経がダメージを受けることで少ない尿量でも尿意を感じるようになることも、一因と言えるでしょう。
加えて女性は出産経験やホルモンバランスの乱れによって、年を重ねるほどに膀胱や子宮を支える骨盤底筋が緩みやすく、尿道を締める力が低下することで尿漏れが起こるようになるとされています」(平澤さん・以下同)
ただし、排尿トラブルのすべての原因が年齢によるものとは限らないと平澤さんは続ける。
「膀胱炎や前立腺炎のような炎症がトリガーとなって頻尿になることもあれば、のんでいる薬に理由があることもある。特に血圧を下げるための利尿薬は夜間の尿量が増えるという副作用があります。まずはそうしたケースに自分が当てはまるかどうかを確認し、原因を究明することが大切です」
病気や薬の副作用が原因でなければ、生活習慣の見直しで改善できるケースが多い。最初にチェックすべきは、摂取している塩分や糖分の量だ。
「人間の体には摂りすぎた栄養素を尿によって体外に排出しようとする機能が備わっているうえ、塩分や糖分の摂取量が多いと喉が渇いて無意識のうちに水分を多く摂ってしまう。普段の食事の味付けから見直してみてください」
頻尿の状況を知るための「排尿日誌」を
調味料の分量と並行して把握しておきたいのは、「いつ、どのくらい“出して”いるか」という自身の排尿状況だ。
「医療機関で治療をする際は、患者さんに排尿の時間や量などを記載した『排尿日誌』をつけていただいています。これによって患者さん自身が原因に気がついて対処し、すぐに症状が改善したというケースも珍しくありません。例えば60代の女性は、記録をつけた結果、頻尿でトイレに行きたくなるのはコーヒーを飲んだ数時間後だということがわかりました。コーヒーには利尿作用があるので、外出前には控えるようにしたところ、悩みが改善されました。排尿日誌は自宅でも手軽に始められるので、試してみてほしいです」(西村さん・以下同)
日誌のつけ方は簡単だ。外出予定がない日に、朝起きてから24時間のなかで「排尿の時間と量」「水分を摂った時間と量」を記録する。計測は、100円ショップなどで売られている計量カップを使うといい。
「一般的に、1日の尿量は体重×25㏄が適量といわれており、体重×40㏄以上であれば多尿です。尿量が多かった人は水分を摂りすぎていないか見直してみるといいでしょう。正常な尿の色は薄い黄色で、白に近ければ水分を摂りすぎているサインです。また、水分を一度に大量に摂ると強い尿意がくるため、少しずつ摂取することも排尿トラブルの対策になります」