コラムニスト吉田潮さん、姉妹で要介護4の父の在宅介護「父の食事介助する母、心なしかイキイキしてる」
ドラマ評論家でコラムニストの吉田潮さんは現在、要介護4の父を在宅介護している。介護施設で過ごしていた父に医療ケアが必要となり、療養型病院を検討するも断念。実家に父を迎え入れ、母と姉でイラストレーターの地獄カレーさんと、家族で在宅介護がスタートしたが――。【全3回/第2回】
教えてくれた人/吉田潮さん
吉田潮(よしだ・うしお)ライター・イラストレーター・コラムニスト。
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業。健康誌や女性誌の編集を経て、2001年よりフリーランスライターに。週刊新潮、東京新聞、小学館kufura、NHKステラnet,、プレジデントオンラインなどで、主にテレビドラマのコラムを連載・寄稿。NHK「ドキュメント72時間」の番組紹介イラストコラム「読む72時間」(X)や、「聴く72時間」(Spotify)を担当。著書『くさらないイケメン図鑑』、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか?』『ふがいないきょうだいに困ってる』など多数。
要介護4で弱った父が実家に帰ってきて…
父には医療ケアと介護が必要なので、まずは介護をサポートしてくれる訪問スタッフを手配しなければなりません。病院のソーシャルワーカーから、退院後、在宅医療・看護の体制を整えるためのスタッフを紹介してもらいました。これまで母がお世話になっていたケアマネジャー(ケアマネ)に、父もお世話になることにし、訪問医と訪問看護師、訪問介護のスタッフを調整。今後どんな風に在宅介護を進めていくかみんなで相談をしました。
寝たきりの父を迎えるにあたり、手始めに必要となるのは「介護ベッド」。いやしか、その前に、免疫力の弱った老人を迎えるために、部屋を片付けて粗大ごみを出し、ハウスクリーニングも必要です。在宅介護のその前に、やることはたくさんありました。
悩ましいことに、母は体は元気なのですが、ここ1、2年で認知症と思しき行動が増えてきています。そんな実家に、父が帰ってきたらどうなるのかは未知数でした。
父と母のダブル介護?
母はすでに要介護1の認定を受けていて、デイサービスに行っていますが、母は着替えもトイレも自分でできますし、洗濯物をたたむとか、単純な作業なら「これをやって」とお願いすればやってくれるんです。だけど、それがとっ散らかるから、かえってこちらの手間が増えることも…。
そんな母なので、父の介護の戦力にはならないかもしれないけど、父が帰って来ることによって、母が何か “私も頑張ろう”って思ってくれるのではないか。かすかな期待をしていましたが、実際はそんなに甘くありませんでした。
姉の話によると、母は、洗ったTシャツが丸まったまま物干し竿に干したり、ザーザー降りの雨のなか干したり。お米を炊いてと言った時に炊いてなくて、炊くなと言った時に炊いてしまうなど、家事ができなくなりつつありました。一時期、姉が疲れてしまっていたので、少しでも楽をしてもらおうと、母に1週間ほど私の家に来てもらったのですが、一緒に過ごしてみて、母と暮らす大変さを痛感しました。
父の在宅介護スタート、母の問題行動が…
介護ベッドや訪問スタッフなど在宅介護の環境が整い、父が家に帰ってきて、在宅介護がいよいよ本格的に始まりました。姉が中心となり、私は週に2~3回通うというスタイルです。
父の介護は、オムツ交換や食事介助、たん吸引などがメインです。訪問看護師さんに教えてもらいながら、姉も私もなんとかできるようになってきました。
そして問題なのが母。姉が言うには「父の介護より、母の方がめんどくせえ」と…。
姉と私が、父の排泄介助をして、食事どきには流動食を作って、その間にたん吸引やって、と休む間もなく家の中を走り回っていると、母も「自分もなんかしなきゃ」って思うんですよね。なにかしなければと思うが、行動が伴わない。父の介助で忙しいある朝、母は食パンを6枚焼いていました(笑い)。母には自分の分だけ焼いたらと伝えたはずなのに、盛大な食パン祭りなっちゃった。
「おいおいおい!」ってツッコみたくもなるけど、こちらも疲れているし。まあ、食パン6枚焼いたって誰も死ぬわけじゃないし、見切り品だったし、仕方ないか。もう笑うしかありません。姉と私、笑いに転嫁するのは得意なんです。
ゆっくりとした夫婦の時間になればいいが…
そんな母ですが、唯一任せられる「仕事」がありました。それは父の食事介助です。
嚥下機能が落ちている高齢者に食事をさせるのは、時間がかかります。一口食べさせて、ごっくんと飲み込んだのを確認してから、次の一口を運ぶというシンプルな作業だけど、かなりの時間がかかります。
食事を始めてから終わるまでに1時間近くかかることもあります。これを母にお願いしてみたら、うまくいった。母は“自分の仕事”だと思ってくれたようで、ちょっとイキイキしている感じがあるんです。
姉や私が流動食を作って、母には「これがサバの味噌煮、こっちは白いおご飯、そしてこれが卵焼き、これは人参のピューレ」と説明するのですが、母は毎回「これなんだったっけ?」って聞いてきます。
いちいちまた説明するのは面倒くさいし、こちらが他の作業をできないし、かといって父が何を口に入れられてるのかわからないと可哀想なので、紙にメニューを書き出したのものを渡しています。
食事介助の1時間、ゆっくりとした夫婦の時間を過ごしてくれるならいいのですが、認知症と介護のセットなので、気が気ではありません。(つづく)
写真提供/吉田潮さん 取材・文/吉河未布