介護保険と自費のサービスを組み合わせる《選択的介護》とは?介護の負担を減らす賢い活用法を社会福祉士が解説
在宅介護では訪問介護や通院介助など、さまざまな介護サービスが必要になる。介護保険の範囲内のサービスだけでは足りない場合、自費となる介護保険外のサービスを併用することになるが、新たにどちらも活用する「選択的介護」という方法も模索され始めている。複雑でわかりにくい介護サービスの活用法について、改めて介護経験をもつ社会福祉士の渋澤和世さんに解説していただいた。
この記事を執筆した専門家/渋澤和世さん
渋澤和世さん/在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)、監修『親と私の老後とお金完全読本』(宝島社)などがある。
介護サービスにはさまざまな種類がある
在宅介護が始まると、さまざまな介護サービスが必要となります。介護保険を使えるサービスであればある程度費用を抑えることができます。しかし、介護保険内で使えるサービスは、時間や内容に制約があり、利用者のニーズに対応しきれないケースが多くあります。
また、昨今、訪問介護事業所の倒産が社会問題となり、人手不足も深刻。いつ介護保険サービスが使えなくなるとも限らないのです。そこで検討しておきたいのが、介護保険外サービスです。
→訪問介護の危機、相次ぐ事業者の倒産「利用者はどうすべきなのか?」倒産の背景や対策を解説
介護保険と保険外を併用する「選択的介護」とは
介護保険では“できない”ことに対応できるのが介護保険外サービスです。また、最近では、介護保険サービスと介護保険外サービスなど自費のサービスを組み合わせる「混合介護」(東京都では「選択的介護」という名称を採用)という方法も注目されています。
※参考/豊島区「選択的介護」
https://www.city.toshima.lg.jp/193/kaigo/2103221549.html
東京・豊島区で始まったモデル事業である「選択的介護」。まだ全国的に制度化されるまでには至っていません。厚生労働省が定めた一定のルール※に沿って、現在利用している介護事業所が、介護保険・介護保険外サービスの両方に対応している可能性もあるので、まずは担当のケアマネさんに相談してみるといいでしょう。
同じ事業所や同じスタッフで、介護保険内・外のサービスを利用できると利用者も安心ですし、保険適用外のサービスが増え、手が届かなかった部分が充実することで家族の肉体的、精神的負担の軽減にもなります。
※厚生労働省「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」
https://www.ghkyo.or.jp/news/wp-content/uploads/2018/10/0432f2a9d2030a2092fd8b919c815bc8.pdf
介護保険サービスでは「依頼できない」ことも
実際、介護保険外の介護サービスは、全額自費となりますが、介護保険で「依頼できること」「依頼できないこと」のどちらにも対応が可能です。現在、すでに介護保険サービスを利用しているかたは、上手く組み合わせながら介護の負担を減らせるといいでしょう。
介護保険外サービスの一例
介護保険外サービスの事業者に依頼できることは、以下のようなものがあります。
【1】身体介護・生活支援
入浴や排せつ、食事、更衣などの身体的な介助や、掃除、洗濯、調理、買い物代行など、日常的な家事の支援が受けられます。介護保険サービスでは制限がある同居家族がいる場合の対応も自費サービスは可能となります。
【2】外出支援
通院の付き添い、趣味活動や散歩の同行などのサポートを行います。車など移動手段の手配も可能です。病院の付き添いは、介護保険サービスでは病院の外までで、病院内での介助は依頼できませんが、介護保険外なら、院内まで付き添うことができます。
また、日常生活の範囲を超えた娯楽目的は対象外ですが、自費サービスならそうした外出支援も可能となります。
【3】見守り
日中や夜間の見守り、話し相手のサービスは利用者の不安を軽減できる精神的なサポートとして利用できます。長時間の対応も可能です。介護保険サービスでは制限のあった話し相手としての依頼なども可能となります。
その他、介護保険の訪問介護では対応できないさまざまなサービスの依頼が可能な場合もあります。
介護保険外サービスの費用と賢い活用法
介護保険外サービスは「こういうことをお願いしたかった」という利用者のニーズをカバーできる反面、全額自費なのでもちろん費用は高くなります。費用の目安としては以下の通りです。
・身体介護:1時間あたり 4,000〜10,000円
・生活援助:1時間あたり 3,000〜7,000円
・夜間や深夜のサービス:通常の1.5倍〜2.5倍の料金が発生するケースも。
介護保険外サービスを提供する事業者は数多くありますが、事業者ごとにサービスの差別化や強みを打ち出しています。
身体介助や生活援助のほか、看護サービスなど医療的ケアまでも包括して提供する事業者、認知症の夜間徘徊の見守りや看取りの時期など夜間対応や住み込みで依頼が可能な事業者もあります。また費用の面でも、入会金の有無、キャンセルポリシーなども少しづつ異なります。
介護する家族が”何に困っているのか、何を負担に感じているのか”を今一度整理し、依頼したい内容や費用面も意識しながら事業者を選んでください。
介護保険外サービスを提供している事業者
クラウドケア
https://lp02.caretree.jp/?msclkid=3e24df77de4c191d8e49b72ec8af0516
ダスキンライフケア
https://www.duskin.jp/lifecare/
ニチイライフ
https://www.nichiiweb.jp/kaji/
セントケア・プライベートケアサービス
https://www.saint-care.com/service/private_care/
ポピンズVIPケアサービス
https://www.poppins.co.jp/familycare/service-vipcare/
上記でご紹介した事業者以外にも地域に密着した事業所やNPO法人がサービスを提供しているケースも増えていますので、「自治体の名称 自費訪問介護」などで検索してみてください。
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介護が必要になっても、住み慣れた自宅で暮らし続けたい、そう願う人は多いものです。施設入居をすると、特別養護老人ホームなどの公的施設でも月15万前後、有料老人ホームは30~50万またはそれ以上かかる場合もあります。
在宅で暮らしながら、上手く自費訪問介護を利用することで、介護の負担や費用を抑えたいもの。気になる自費サービスがある場合、見積もりから始めてみてはいかがでしょうか。介護サービスの選択肢が増え、利便性が高まることが今後は期待されます。