兄がボケました~認知症と介護と老後と「第20回 兄の意思確認問題」
最近一つ歳を重ね、62歳になったツガエマナミコさんは、昨年、特別養護老人ホームに入所した兄のサポートを長年続けています。一緒に暮らさなくなった今も、マナミコさんがしなければいけない手続きはたくさんあり、つい、自分のことを後回しにしてしまうマナミコさんなのです。
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認知症になった兄のためにできること
このところ自分を甘やかしすぎて、お腹周りの肥え具合が目に余るので、甘味断ちをしようと考えましたが、お誕生日プレゼントでたくさんのお菓子を頂戴したので、まずは「夜9時過ぎたら固形物は口にしない」という軽めの目標を掲げました。でも「9時までなら食べてもいい」と解釈し、ギリギリでおやつを頬張ってしまうツガエは、結局肥えることを止められないわがままボディーでございます。
さて、前回予告した我が兄のマイナンバーカードの申請についてですが、役所の方が施設に来てくださる方法があるそうな。
マイナンバーカードの申請は代理人でもできるけれども、受け取りは原則として本人でなければいけないというルールございます。認知症で今や車いす生活の兄を区役所まで連れていく困難を考えると、「申請しなくていいか」と目をそらしてきたのでございますが、先日、自分のマイナンバーカードを申請したときに、ご相談してみると、窓口に行くことが難しい人のために自宅や福祉施設へ役所の担当者が訪問して申請を受け付けるサービスがあるとのこと。申請時に本人確認ができればカードの受け渡しは郵送していただけるそうで、目下このサービスを利用しようと考えております。
ただ、いただいた説明書の注意事項に小さく「ご本人様の意思確認が取れない場合は予約を受け付けられません」とあるのが気になるところ。兄に意思確認は無理だと思われ、その場合はマイナンバーカードは作らなくてもいいのでございましょうか? この件に関しては後日確認する必要がありそうです。
「ご本人様の意思確認問題」は、ほかのところでも勃発しており、先日も保険の手続きに関して面倒な事案が発生いたしました。昨年までスムーズにできていた手続きが、保険会社の担当者が変わったことでできなくなりました。
「施設に訪問した際、ご本人の意思確認ができなかったので」と言われ、今まで通りの処理をしてほしいとお願いすると「書類が必要なのでお送りします」と言われたばかり。しかもわたくしが処理の違いを指摘しなければ何も言ってこないというのが腹立たしいではありませんか。そりゃ、金銭が絡むことなのでいい加減にやってもらっては困るのですが、「本当に書類が必要なことですか?」と言いたくなってしまいます。
認知症になると意思確認は難しくなります。そうなっても大丈夫なようにさまざまな手続きが用意されているのですから、面倒でもなんでも言われたことをやるしかございません。わたくしが兄のためにできることがまだたくさんある、と考えれば幸せなこと。兄孝行の妹としてこれからも徳を積んで参ります。
しかし、わたくし自身は手続きをしてくれる家族がいないので、死ぬまで意思確認ができる程度には脳に働いていただかないと困ります。慣れたことばかりをやっているとボケていくそうなので、何か新しいことを始めるのが手っ取り早いボケ防止になりそうでございます。
でも、何に興味があるか、と自問してみても何も浮かばない。あ~、これがすでに認知症に片足を突っ込んでいる証拠でございます。「好奇心の欠如」これこそがわたくしの敵でございます。
少し考えてみましたが、どれも決め手がありません。
「金継ぎ」はステキな趣味だけれど金継ぎしたい器がないし~
「絵」は描けるようになりたいけどセンスないし~
「テニス」は好きだけれど膝が痛いし~
「ヨガ」は通うのが面倒だし~
「麻雀」は面白そうだけどバカじゃできないし~
「手話」や「英会話」は習っても使わなければ忘れちゃうし~
「家庭菜園」は場所がないわ~
とやらない理由を考えてしまうのがツガエの癖。いっそ、あみだくじで……?
昔から「六十の手習い」と申します。この歳で新たに何か始めることはたぶん意味がございます。死ぬまで自分の意思を持つために、慣れたことしかしていない脳に喝を入れたい。今ツガエはそんなモードでございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性62才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現66才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。
イラスト/なとみみわ