90歳の現役美容研究家・小林照子さんが語る大事な人の見送り方 別居していた夫が亡くなる前「最後の最後に心を通わせることができた」出来事
「何の使命も与えられていない人間など存在しない」
「人は人の死を止めることはできない」
90歳を迎えた今もなお美容研究家として精力的に活躍する小林照子さんは、35年以上にわたり化粧品会社で活躍後、56歳で起業し75歳で高校を設立するなど、長い人生においてさまざま挑戦を重ねて豊かな人生を過ごしてきた。その自身の体験からも、いくつになっても自分の天命を知ることはできるし、大事な人を見送るときには精いっぱいのことができるうちにしたほうがいいと説く。
小林さんが自らの経験から導き出した「25のしないほうがいいこと」と「25のしたほうがいいこと」を説いた『少しよくばりくらいがちょうどいい』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
教えてくれた人
美容研究家・小林照子さん
1935年生まれ。美容研究家・メイクアップアーティスト。戦中から戦後にかけ、生みの親、育ての親、義理の親ら5人の親に育てられるという少女時代を経て、上京。保険外交員の仕事をしながら、美容学校に通う日々を送る。その後、化粧品会社コーセーにおいて35年以上にわたり美容について研究し、その人らしさを生かした「ナチュラルメイク」を創出。時代をリードする数多くのヒット商品を生み出し、一世を風靡する。また、メイクアップアーティストとして、広告・ショー・テレビ・舞台など、女優から一般の女性まで何万人ものイメージづくりを手がけ、どんな人でもきれいに明るくすることから「魔法の手」を持つ女と評される。1991年、コーセー取締役・総合美容研究所所長を退任後、56歳で会社を創業、美・ファイン研究所を設立する。独自の理論で開発した「ハッピーメイク」はマスコミの話題となり、1994年、59歳のときに、[フロムハンド]小林照子メイクアップアカデミー(現[フロムハンド]メイクアップアカデミー)を開校。以来、学園長として数多くのメイクアップアーティストやインストラクターを世に送り出す。2010年、75歳のときに、高校卒業資格とビューティの専門技術・知識の両方を取得できる新しい形の教育機関、青山ビューティ学院高等部を本格スタート。多感な高校生たちの教育に情熱を傾け、若者の夢と情熱を応援しながら、未来の担い手である人材の育成を行っている。90歳を迎えたいまなお、スケジュール帳には余白がないほど予定を詰め込み、あらゆるビューティビジネスに向けてのプランニング、コンサルティング、社員研修に携わる。自分の使命として行ってきたこと、これからも続けていくことに、次世代の女性リーダーを育成する「一般社団法人アマテラスアカデミア」代表理事、30年近く活動しているメイクアップアーティストのネットワーク「一般社団法人 日本メイクアップアーティスト協会JMAN」代表理事がある。著書多数。
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天命を探求する──「楽しかったこと」を抽出していく
<何の使命も与えられていない人間など存在しません>
人生に不安はつきものです。よくないことが続くときもあります。そんなとき、私はいつも思うのです。私はここで何を学べと言われているのだろうか、と。
いやな出会いをすることもあります。苦労をすることもあります。でも、通り過ぎてみると、ただの無駄だったことは何ひとつありません。すべて、人生の勉強。その経験は、勉強を教えてくれた先生だったのです。
私の人生にも、いろいろなことがありました。もう、ぐちゃぐちゃです。「なんで私だけこんなに悪い人生なの?」と思い悩み、恨んだり、妬んだりしているときは、1年がとても長かった。
でも、悪いこともすべて「勉強させていただいたのだ」と思うようになった瞬間から、心がスーッと軽くなり、「私、幸せだな」と心が幸せで満たされるようになりました。心が幸せを感じると、1年という月日は、なんと短く感じられることでしょう。
心がいつも幸せを感じるようになると、自分の使命が見えてきます。ただ自分のために生きるのではなく、人のために、社会のためにできること、喜ばれることは何か、を考えるようになるからです。
いままで自分が生きてこられたのは、自分に力を貸してくださった人たちのおかげ。自分たちを取り囲む大きな社会のおかげ。ならば、人に、社会にお返しができるように、自分がなすべきことを考える。私はこれが人の道のあり方だと思います。
人はみな、命をまっとうしたら、天に帰ります。でも、天に帰る前に、「天から与えられた使命=天命」を探求し、何かお役に立ってから、命を終わらせたいものです。
私が20年以上師事している、惠美初彦さんというコンサルタントの先生に習った方法をお教えしましょう。
まず、自分がいままでやってきたことを全部書き出してください。勉強、恋愛、仕事、家事、育児、趣味、その他すべてのことを書き出すのです。
そして、これらを「喜び」と「悲しみ」に仕分けします。そのあと、喜びのグループに入った出来事を1番から5番まであげてみてください。
こうして自分にとっての「楽しかったこと」を抽出していくと、自分はこれから何をすべき人間なのか、少しずつ見えてくるのです。これは、自分にとっての「生きる喜び」は何かを明確にし、自分という人間をもう一度見返すための作業です。
この作業をしたら、私はやはり美容が好き。自分が培ってきた美容の知識を人に教えるのが好き。人を育てていくことが好きだとわかりました。それゆえに私の天命は、私の美容に対する考え方・知識・技術を受け継いでくれる人を育てていくことだと悟りました。そして私は、美容のプロを育てるスクールや、美容に特化した高等学校をつくったのです。
高校をつくったのは、私が75歳のときです。でも、天命だと思ったことなら、年齢など関係あるでしょうか。年齢など、まったく関係ないのです。
いまが40代でも、50代でも。たとえ60代でも、70代でも、80代であっても。人はいくつになっても自分の天命を知り、いままで積み重ねてきたことの上に、さらに新しいことを積み重ねたり、人生の方向転換をはかったりすることができるのです。
何度でも何度でも、生き直し、生き直し、生き尽くす。
それがすべての人に与えられた、使命なのです。