「ひとり暮らしの80代女性、車いす生活で難聴も進行…」地域包括センターとの出会いで生活の質が向上【専門家が教える難聴対策Vol.20】
介護をはじめ暮らしの相談窓口「地域包括支援センター」を知っていますか? 80代のおひとりさま女性の実例をもとに、地域包括支援センターの活用法や地域連携の必要性について、認定補聴器技能者で補聴器専門店の代表を務める田中智子さんに教えてもらった。
教えてくれた人
認定補聴器技能者・田中智子さん
うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA)を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/
超高齢社会のよろず相談所「地域包括支援センター」
団塊の世代が75才以上の後期高齢者となる2025年。本格的な超高齢社会が到来する中、厚生労働省が進めているのが「地域包括ケアシステム」の構築です。
「高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられるように」という目標を掲げ、住まい・医療・介護・予防・生活支援を地域全体が連携し、一体的にサポートしていくというものです。
そのためのサポート拠点となるのが「地域包括支援センター」です。現在、全国各地に設置され、その数は年々増えています。
地域包括支援センターには、社会福祉士やケアマネジャー(ケアマネ)などの専門資格を持つスタッフが常駐していて、地域に暮らす誰もが利用できる医療や介護の相談窓口となっています。
それぞれの専門性を活かし、相談者の問題や課題に合わせ、医療や介護の橋渡しをする、地域連携の要となる場所であり、高齢者のよろず相談所のような役割があります。
※参考/厚生労働省「地域包括ケアシステム」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html
地域包括センターを通じて出会ったAさんの事例
地域包括支援センターを通じて、80代後半の女性Aさんと出会いました。このことをきっかけに、私は「この地域連携のネットワークの中に、補聴器の専門家も積極的に入っていくべきなのではないか」と真剣に考えるようになりました。
ひとり暮らしで身寄りがないAさんは、1年前に地域のお祭り(地域の高齢者の人たちが参加できる、健康フェスタのようなもの)に参加した時、偶然地域包括支援センターに所属するケアマネさんに声を掛けられました。
お話をする中で、頼れる親族はいないこと、最近は聞こえづらくなって困っていることなど、生活の状況について相談したそうです。
Aさんの状況を知ったケアマネさんは、地域包括センターが窓口となり、ひとり暮らしでも安心して暮らせるように準備をしていったそう。身の回りのケアはヘルパーさんに依頼できるようにしたり、身寄りがない場合に活用する「後見人制度」についてサポートしたり、ご本人に合ったサポート環境を1年ほどかけて整えられたそうです。
そんな中、ある問題が浮上します。
Aさんが困っている問題は…
ヘルパーさんや訪問看護師さんが自宅を訪れると、大声を出さないと話が通じず、会話が一方通行になって困っているということ。「補聴器を検討すべきなのでは」ということで、ある日ケアマネさんから連絡をいたただました。
そこで、ケアマネさんに同行いただき、Aさんのご自宅に訪問することになったのでした。
Aさんは数か月前から体調を崩し、介護用ベッドの上で過ごされることが多くなりました。ご自宅内の移動も、車いすを利用されるように。そんな中、日々の楽しみは、テレビを見ることだそうです。
まずは耳の中の観察と簡易的な聴力測定を実施。耳垢が詰まっていて鼓膜が見えない状態でしたので、近日中の耳鼻科受診をお願いしてから、測定データに合わせて調節した補聴器を試しに装着していただきました。
音が聞こえるようになると、Aさんの表情がパッと明るくなって笑顔がこぼれました。ケアマネさんが「どんな魔法を使ったの!?」と驚かれていました。
Aさんは、聞こえることがよほど嬉しかったのか、昔録画していた音楽番組を見たいとおっしゃり、大好きな美空ひばりさんの映像をVHSビデオで再生。懐かしい歌番組を嬉しそうに見入っているご様子が印象的でした。
耳鼻科を受診し、補聴器購入へ
その後、ケアマネさんの手配により、Aさんは耳鼻科を受診。医師によると、耳垢がつまっていて耳栓のようになっていている状態だったとのこと。耳掃除をしてもらい、耳垢を除去し、改めて聴力検査も実施してもらいました。
聴力に関しては「加齢性の難聴が進んでいる」との診断結果でした。医師からも補聴器の装着をすすめられたとのこと。後日再度訪問し、耳鼻科の先生にいただいた聴力検査の結果を元に補聴器を再調整後、補聴器を購入することが決まりました。
高齢のおひとりさまが安心して暮らすための第一歩
身寄りのない”おひとりさま”の場合、このままひとり暮らしができるのか、介護が必要になったときどうやって過ごしていけばいいのかと不安に感じているかたは多いと思います。
Aさんのように日常生活に車いすを必要としている場合でも、地域包括センターが窓口となり、さまざまなサポートを受けながら、住み慣れた家で暮らすことができるのです。
専門スタッフが介在することで、これまでひとりで抱えていた「難聴」の問題に気がつき、補聴器専門店と繋がることができた。こうした連携によって、Aさんは、周囲との会話がスムーズになり、大好きな懐メロも楽しめるようになるなど、生活の質(QOL)を高めることができたのです。
補聴器専門店にも地域連携が必要
Aさんのケースは、まさに地域包括ケアシステムが機能したといえるのではないでしょうか。この経験から、補聴器専門店にも地域連携が必要であることを改めて感じました。
Aさんの場合はたまたま知り合った「地域包括支援センター」のケアマネさんが個別支援をされましたが、お住まいの地域によってサービスは異なります。一般的には「地域包括支援センター」は支援の総合的な窓口となり、専門スタッフや適切なサービスと繋いでくれます。
聞こえのことだけでなく、気になっている健康のことでも介護のことでも、どこに相談したらいいかわからない人は、まずは、最寄りの「地域包括支援センター」に行ってみて欲しいと思います。きっとなにか解決するヒントや、耳寄りな情報が見つかるはずです。
そして、我々補聴器専門店も、地域住民のかたに開かれた店作りの必要性や、地域包括支援センターのかたがたと密に連携する体制作りを目指していきたいと思っています。
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高齢者の暮らしの質を維持・高めるために地域連携が大切!