補聴器の費用負担を軽減させる3つの方法「助成金、東京港区は13万7000円」【専門家が教える難聴対策Vol.8】
補聴器には興味があるけど「高そうだから」「お金がかかりそう」と感じている人も多いのではないでしょうか。「補聴器を購入する際には、助成金などお得な制度があるんですよ」と、認定補聴器技能者で補聴器専門店の代表を務める田中智子さん。補聴器の補助金や助成制度などを活用する方法について解説いただきました。
教えてくれた人
認定補聴器技能者・田中智子さん
うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA) を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/
補聴器の費用負担を軽減させる3つの方法
ご来店いただくお客様からよく「補聴器は高くて買えない…」「もっと安く買える方法はないの?」といった声がよくあります。補聴器は制度を活用することで負担を減らして入手できるケースがあります。
主に3つの方法がありますのでご紹介していきましょう。
【1】自治体の助成金の制度を活用する
ここ最近、高齢者の補聴器購入に対する助成制度を独自に設けている自治体が増えてきました。購入前に申請することで、補聴器の費用負担を軽減させられるわけです。ぜひお住まいの地域の役所に問い合わせをしてみましょう。
また、ネットで検索する場合は、「補聴器 高齢者 〇○市」などと、必ず「高齢者」というキーワードを入れるといいでしょう。補聴器の助成金には、子供や若年層に向けた制度もあるためです。
要件は? いくら助成される?
助成金額は各自治体により異なりますが、平均して2万円~10万円程度助成されることが多いようです。
ちなみに、東京都・渋谷区での助成金は、上限額が4万5000円、品川区は3万5000円、港区では13万7000円となっています。ただし、65才以上、住民税非課税世帯、所得制限など自治体によっていくつかの要件が設けられています。
申請の流れ
申請から購入の流れは、まずは自治体の福祉課や高齢者相談センターなどで相談し、申請要件に合致しているかを確認後、申請書を入手。申請書を持参して耳鼻咽喉科を受診します。
医師が意見を明記した申請書を自治体に提出。申請が受理されると通知書が届くので、それを持って補聴器専門店で補聴器を購入。その後、助成金の請求書を自治体に提出するという流れが一般的です。
受診する医療機関や、補聴器を購入するお店は認定補聴器技能者がいることが必要など、自治体により要件があるので窓口などでよく確認しておきましょう。
補聴器をご案内しているお客様にもこの制度を活用されているかたは多くいらっしゃいますよ。
【2】補聴器の購入費を確定申告して医療費控除を活用
補聴器の購入費用は、確定申告の際の「医療費控除」の対象となります。
医療費控除とは、その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費が一定額を超える場合に、支払った医療費をもとに算出された金額の所得控除が受けられる制度です。必ずご自身で確定申告を行い、お住まいの管轄の税務署に医療費控除の申請をする必要があります。
医療費控除を受けるための要件
補聴器の医療費控除を受けるには、2つの要件を満たしている必要があります。
■補聴器相談医へ受診すること
補聴器購入で医療費控除を受ける場合には、補聴器相談医を受診し、その医師から補聴器が必要と証明されることが必須要件となります。
お住まいの地域の補聴器相談医は、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のホームページ※から調べることができます。
※日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会認定 補聴器相談医名簿
https://www.jibika.or.jp/modules/certification/index.php?content_id=39
■認定補聴器技能者が在籍するお店で購入すること
補聴器を購入する際、認定補聴器専門店もしくは、認定補聴器技能者から購入しなければなりません。
なお、医師による「補聴器適合に関する診療情報提供書」の写しと、補聴器専門店の領収書は大切に保管しておきましょう(税務署から求められた場合にはこれらを提出します)。
これらを揃えておき、確定申告の際に、医療費控除として申告します。
いくら戻ってくる?
医療費控除による還付金または控除額は、購入した補聴器の金額や、各世帯の収入によっても大きく変わってきます。補聴器メーカー・リオンのサイトでシミュレーションできるので試してみるといいでしょう。
■補聴器の医療費控除額カンタン計算ツール(リオネット補聴器)
https://my.rionet.jp/myrionet/article/detail/column/84/index.html
【3】障害者手帳を取得すると9割補助に
最後にご紹介する制度として、聴力障害の程度が重い方は、「障害者手帳」を取得する方法があります。聴覚障害による障害者手帳を取得することで、「障害者総合支援法に基づく補装具支給制度」が利用できるようになります。
ただし、対象となる聴力の程度は重く、障害者手帳の交付を受けられたとしても、原則として、補聴器は支給対象の機種から選ぶことになり、片耳のみとなります。対象機種であれば原則1割の自己負担で補聴器の支給が受けられます。
対象となる聴覚障害の程度
障害者手帳の交付には、障害の程度により1級~7級の等級が定められています。数字が小さいほど障害が重くなります。
聴覚障害には、2・3・4・6級と4つの等級が該当します。2・3級は「重度難聴」、4・6級は「高度難聴」と呼ばれ、難聴がかなり進行した状態となります。軽度難聴や中等度難聴の人は障害者手帳の交付は受けられません。
厚生労働省の「身体障害者障害程度等級表」※によると、4つの等級の聴覚障害の程度は、以下のようになっています。
■2級…両耳の聴力レベルがそれぞれ 100デシベル以上のもの(両耳全ろう)
■3級…両耳の聴力レベルが 90デシベル以上のもの(耳介に接しなければ大声語を理解し得ないもの)
■4級…【1】両耳の聴力レベルがそれぞれ 80デシベル以上のもの(耳介に接しなければ話声語を理解し得ないもの)、【2】両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50パーセント以下のもの
■6級…【1】両耳の聴力レベルが70デシベル以上のもの(40センチメートル以上の距離で発声された会話語を理解し得ないもの)、【2】一側耳の聴力レベルが90デシベル以上、他側耳の聴力レベルが50デシベル以上のもの
たとえば、聴覚障害の6級で考えてみると、70デシベル以上の音とは、セミの鳴き声や地下鉄の車内などかなり大きな音が挙げられます。40センチメートルという比較的近い距離から、このような大きな声で話しかけても会話が理解できない状態ということになります。
聴覚障害の認定基準などについては、厚生労働省や各市区町村のサイトでも公開されていますので、確認しておきましょう。
※厚生労働省/身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/shougaishatechou/dl/toukyu.pdf
該当する場合には、お住まいの自治体の福祉課で手続きを行い、自治体が指定する指定医に診断書を書いてもらう必要があります。なお、審査には約1か月程度かかるとされ、障害者手帳が交付された後、補聴器の支給を受けるためには補装具の支給申請をする必要があります。詳しくは、お住まいの自治体の福祉課で教えてくれます。
1割負担で補聴器の支給を受けた実例
私が担当したお客様の中にも、難聴が高度まで進行し、障害者手帳の交付を受けて1割負担で補聴器の支給を受けたケースがあります。
80代の女性が電話の音が聞こえず、家族は怒鳴るような大声で会話をされていたそうです。
家族から相談を受けた私は、「一度、耳鼻咽喉科を受診してはどうでしょうか?」とお伝えしたところ、聴覚障害6級に該当することが分かり、息子さんが手続きをサポートして障害者手帳を取得、補聴器の支給を受けました。
片耳に装着してみると、徐々に生活がしやすくなられたとのこと。その後、両耳につけたほうがさらに会話をしやすくなるだろうということで、もう1台はお孫さんがプレゼントとして購入されました。
両耳装用の生活を続けた結果、ゆっくりであれば会話が理解できるようになり、お孫さんたちが遊びに来た時に食卓を囲む時間を楽しみになったそうです。
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補聴器の費用にかかわる3つの方法を紹介しましたが、いずれも必要な書類を揃え、医師の受診や自治体の窓口へ申請する必要があります。
よくわからない場合は、補聴器専門店に相談してみるのもいいでしょう。お近くの補聴器専門店ならその地域の情報も詳しいはずなので、お住まいの地域ではどんな制度が使えるのか、自治体の相談窓口などを教えてくれると思います。
補聴器は安価なものでも10万円以上、高機能なものだと片耳30万円以上というものも。使える制度は活用して、後悔しない買い物をして欲しいと思います。
★うぐいす智子先生のワインポイントアドバイス!
制度を知っておくことで補聴器購入のハードルは下がるかも!
取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな