そんなに違いがないと思っていませんか?【補聴器と集音器】「実は全然異なる」そのメリット・デメリットを解説【専門家が教える難聴対策Vol.2】
認定補聴器技能者で補聴器専門店の代表を務める田中智子さんは、来店する難聴の悩みを抱える人に応対し、数多くの相談を受けてきた中で、「補聴器と集音器の違いを理解されていないかたも結構いらっしゃいます」と語る。形は似ているけど、実は全然異なる「補聴器」と「集音器」。違いやメリット・デメリットを把握しておこう。
教えてくれた人
認定補聴器技能者・田中智子さん
うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA) を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/
補聴器と集音器って何が違うの?
聞こえに悩まれていたある70代のお客さまが来店されたときのこと。「補聴器を何個も試したけど、結局合わなかったんだよ」と言って、手のひら一杯の機器を見せてくれたのですが、なんとそれらはすべて「集音器」でした。
聞こえをサポートするアイテムといえば、補聴器は知っていても、集音器との違いを理解されていないかたは意外と多いと思います。
「高い補聴器を着けるほどでもないし、最初は集音器でいいんじゃないの?」「補聴器と集音器、見た目は同じように見えるけど、同じじゃないの?」。そんな風に考えているかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
→聞こえにくいと感じたら「便利なアイテムで聞きやすくする工夫を」【専門家が教える難聴対策Vol.1】
そこで改めて補聴器と集音器の違いや、それぞれのメリットとデメリットを解説していきたいと思います。
集音器は「家電」、補聴器は「医療機器」
補聴器と集音器の大きな違いは、医療機器か家電かということ。補聴器は、国が定める基準を満たす「医療機器」であり、一定の基準をクリアしないと、製造・販売ができません。
集音器は、その名の通り「音」を「集」める機器で、日常生活の中で聞こえるすべての音を一律に大きくして、聞こえをサポートするアイテム。集音器は「家電」に分類され、医師の診断や聴力検査は必要なく、通販や家電量販店などで手軽に購入することができます。
商品の特性の違いは?
集音器を使うと音も会話が全体的に大きく聞こえるようになるため、家族と同じ音量でテレビの音や音楽がよく聞こえるようになったと感じる人も多いと思います。趣味の音楽を楽しみたいときや、家族と一緒にテレビを見るときにボリュームを上げなくて済むなど、使い方よっては便利なアイテムといえるでしょう。
一方、補聴器は薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)で定められた管理医療機器に指定されています。
聞こえにくさに悩んでいる人や、聞こえに障害をもつ人が「長時間、継続的に使用すること」を前提に開発・製造されています。そうした人たちに向け、難聴の症状や聞こえの悩みに配慮した機能が搭載されているのが大きな特徴です。
例えば、「騒音の中で言葉を聞き取りやすくする」「必要以上に大きな音で耳を傷めることのないように出力に制限をかける」など多彩な機能があります。
販売方法の違いは?
最近の集音器は、有名オーディオ家電メーカーなどからも高性能なものが次々と販売されています。家電なのでネット通販や新聞の折り込みチラシなど、手軽に購入する手段が色々とあります。
補聴器は耳鼻咽喉科の補聴器外来、補聴器専門店や一部の眼鏡店、百貨店などでも扱っています。集音器と異なり、販売する側にもさまざまな決まりが設けられています。たとえば、補聴器を販売するには、医療機器販売業の届け出を保健所に届ける必要がありますし、そのために一定の資格要件を満たした者を医療機器販売営業所管理者として置くことも義務づけられています。
このように、開発の過程、製造の過程、販売の過程で全て法律に基づいて管理され、安全性や品質が担保されているのが補聴器なのです。
価格の違いは?
集音器は、家電に分類されるため、補聴器に比べるとリーズナブルなものが多い印象で、1万円~3万円台が相場になっています。
補聴器は高機能なものは30万円台と高額の商品もありますが、さまざまな商品開発が進んでいて10万円台とリーズナブルなものも登場しています。
医療機器のため、医療費控除の対象(※)となり、自治体によっては助成金が使える場合もあります。また、厚生労働省が定める非課税物品に該当するため、消費税がかかりません。
※医師による診療や治療などのために直接必要な補聴器の購入のための費用で、一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額は、医療費控除の対象となります。
補聴器が診療等のために直接必要か否かについては、診療等を行っている医師の判断に基づく必要があると考えられますので、一般社団法人耳鼻咽喉科学会が認定した補聴器相談医が、「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」により、補聴器が診療等のために直接必要である旨を証明している場合には、当該補聴器の購入費用(一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額に限ります)は、医療費控除の対象になります(国税庁HPより)。
仕組みの違いは?
補聴器の重要な特徴として、「利用者の聴力の状態に合わせて、細かく調整することができる」という点が挙げられます。
聞こえにくさの症状は人それぞれです。補聴器は、聞こえづらくなっている周波数(音の高さ)をたくさん大きくし、聞こえている周波数はそこまで大きくしないで耳に届けるといった、周波数レベルでの細かな調整が可能なのです。
一方、集音器は、いわばテレビのボリュームを上げるのと同様の仕組み。全ての周波数を均一に大きくするので、すでに聞こえている周波数はうるさい(過剰)ですし、聞こえていない周波数は、逆に音が足りません(過少)。その結局、総合的な音としては聞こえにくい、もしくは分かりにくいとなってしまう場合もあります。
たとえば、集音器を街中で使用した場合は、人の声とともに車の音や風の音などの雑音もすべて大きく耳に届けられ、うるさいと感じることが多いと思います。
その点、補聴器は、騒音の中でも言葉だけをより分け、聞きたい音だけを大きくするという機能もついています。
決して集音器が悪い、使えないと言っているわけではありません。
集音器はTPO「Time(時間)」、「Place(場所)」、「Occasion(場合))」次第では、聞こえをサポートする有効なアイテムになります。たとえば、オーケストラの生演奏を聴きに行った場合、集音器は、どの音域も調整せずに一律に音を大きくするので、そのままの演奏を味わうことができます。
補聴器と集音器のメリット・デメリット【まとめ】
最後に補聴器と集音器のメリット・デメリットをまとめてみました。
【補聴器のメリット】
・利用者に合わせた音の調整や雑音抑制など高機能
・医療機器なので安全性が高く安心して使える
・耳穴型や耳かけ型などタイプや色も豊富で選択肢が多い
・メーカーの品質保証やアフターフォローが充実している
・購入費の優遇制度がある(非課税、医療費控除、自治体により助成金が使える[要件あり])
【補聴器のデリット】
・使い始めは聞こえ方に慣れないことがある
・調整(フィッティング)に時間が必要
・「補聴器は老人がするもの」という思い込みから購入をためらう傾向がある
・どこに相談すればいいかわかりにくく、初めの一歩を踏み出しにくい
・機種により高額になる場合も
【集音器のメリット】
・価格が手頃
・家電(雑貨)に分類されるので取扱い店舗が多い
・通販など気軽に購入できる商品が多い
・購入後の調整が必要なく、使用方法がシンプルで扱いやすい
・オーケストラの生演奏など使い方によっては有効な場面も
【集音器のデメリット】
・聴力にあわせた音の調整をすることができない
・一律に周囲の雑音も大きくなるので会話の聞き分けが難しい場合も
・購入後のアフターケアが補聴器に比べて手薄な場合が多い
・使用の仕方により過度な音の増幅で耳を痛める可能性も
・医療機器ではないので、安全性が保証されていない
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補聴器と集音器の違いについてお伝えしました。どちらを購入するにせよ、補聴器と集音器はまったく別物だということを、しっかり理解したうえで検討していただければ思います。
冒頭で紹介した、補聴器だと思って集音器を使い続けていらっしゃったお客さまは、まず、補聴器と集音器の違いを説明し、補聴器を試して頂きました。すると、「雑音が少なく、会話がクリアに聞こえる」ことと、今まで使っていた集音器と比べると高価なことにも素直に驚かれていました。両者の違いを実感された上で、会話をしっかり聞き取れる日常生活を取り戻したいと、補聴器の購入を決断されました。
ご相談者さまの事例にもありましたが、集音器を何台も買って結局は使えなかったということになるのは残念なので、「何を選んだらいいのか」という段階でもいいのでまずは補聴器専門店に気軽に行ってみることをおすすめします。
★うぐいす智子先生のワインポイントアドバイス!
補聴器と集音器はまったく別のもの。それぞれメリット・デメリットを理解してから選びましょう
取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな