スマホに話しかけることで軽度認知障害の早期発見へ「認知症診断支援アルゴリズム」の共同研究・開発が完了
年々増加する認知症、そして認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)も気になる中、「音声」によるMCIの状態を判別するサービスの開発が進み、注目を集めている。電子部品メーカーSMKと国立循環器病研究センターが共同で研究開発を進める画期的なサービスの内容とは?
増え続ける軽度認知障害問題への一助に
MCI(Mild Cognitive Impairment)とは、認知症の前段階である軽度認知障害のこと。その数は年々増加しており、2022年時点で65才以上の高齢者のうちMCIの人は約559万人と推計されるという。
また、2060年には632万人まで増加すると言われており、高齢者におけるMCI有病率は17.4%にも及ぶと推測されているようだ。
そうした認知症やMCIの増加が大きな課題となる中、SMKと国立循環器病研究センターは、Canary Speech, Inc.の技術を活用し、2022年3月から「音声による認知症診断支援アルゴリズム」の共同研究・開発を行ってきた。そしてついにMCI検知モデル開発研究において、目標としていた検知精度80%を達成し、開発を完了。本格的な販売を開始した。このアルゴリズムにより、スマートフォンやPC、電話等で取得した40秒の音声から簡易にMCIの状態を判別することが可能となった。
高い検知精度を持つアルゴリズムが誕生
今回の共同研究・開発において、SMKは宮崎県延岡市及び兵庫県の通所介護施設から約1,500名の被験者のデータ(音声データ及びMCI、抑うつ傾向、疲労度のスクリーニング結果)を収集し、アルゴリズムの開発を実施。
その結果、高精度なMCI検知モデルの開発に成功し、音声のみを使用したモデルでAUC(※):0.81、音声に加えて年齢・性別・教育年数を追加情報として活用したモデルでAUC:0.89が得られた。
また、今回の開発では、分析に耐えうる音声データのうち、約1,000名分を検知モデルの構築、約500名分を精度検証に使用している。これは、高い検知制度(AUC>0.80)をもつAIの外的妥当性を検証できるサンプルサイズ(N=310)を充分に確保しており、信頼性の高い検知モデルの構築に成功したことを意味する。
(※)AUC (Area Under the Roc Curve) 機械学習モデルの性能(精度)を評価する指標で、1に近いほどモデルの性能が高いことを示す
MCI検知モデルの販売開始!今後の展開は
今回開発された日本語のMCI検知モデルの本格的な販売は開始されており、サービスの提供形式はAPIによるプラットフォーム、デバイスとの連携や、アプリケーションの提供等が想定されている。
認知症の前段階であるMCIを早期に発見し、適切な対処を取ることで認知機能の改善や発症を遅らせることができる可能性があるとの報告もあることから、幅広い業界での展開も検討されているようだ。
活用例
高齢者向けヘルスケアサービス事業者:認知機能のスクリーニングツール
自治体:イベントでの活用、地域住民の認知機能のスクリーニングツール
保険会社:保険商品の付帯サービス、販促ツール
金融機関:金融商品申し込み時の認知機能チェック 等
今後もSMKと国立循環器病研究センターは共同研究を継続さらに、MCIだけではなく抑うつ傾向、うつ、疲労度の検知モデルにおいても高い検知精度の達成を目指しているという。
認知症やうつは日本だけの社会課題ではないと捉え、アジア諸国を中心とした海外にも積極的に活動を広げていく予定とのこと。今後の展開にも注目したいところだ。
【データ】
※SMKの発表したプレスリリース(2025年1月17日)を元に記事を作成。
図表/SMK株式会社提供 構成・文/秋山莉菜