倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.64「家で死にたい」夫の決心
映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)がすい臓がんの闘病の末、最期を過ごしたのは病院ではなく自宅だった。妻で漫画家の倉田真由美さんが振り返る、夫の最期の日々。気持ちの変化とは――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
夫の気持ちの変化
病院で最期を迎えたいと言っていた夫、そうさせるつもりだった私。
でも、夫は急に翻意しました。
「絶対に病院で死にたくない。家がいい。家で死にたい」
その時の夫の決心は固く、迷いは一切見られませんでした。
気持ちが変わったきっかけとなったのは、23年8月下旬からの胆管ステント交換手術のための入院です。
その入院の直前、夫は熱を出していました。最初はただの風邪かと思いましたが、すい臓にがんがある夫の場合、胆管が詰まって「胆管炎」になりそのせいで発熱する場合もあることに気がつきました。
慌てて病院に行かせると悪い予感は当たり、急性胆管炎の診断を受けました。即入院です。
「胆管が詰まっているのでステントを交換しますが、がんが大きくなっていて今までと同じやり方での交換はできません」
それまで何度か胆汁が詰まった胆管を通すための管を入れる手術はしていましたが、毎回すんなり終わっていました。入院も短くてすみ、痛みが起きたことはありましたが一度だけで、それも再手術ですぐに治りました。
術後の激しい痛みで…
ところがこの時の手術は簡単ではありませんでした。
「今までで一番痛い。こんな痛いの耐えられない、食べられないほうがまし」
手術を終えた夫から連絡がありました。胆管炎で40度を超える熱が出た時も冗談を言っていた夫が、手術後の激しい痛みで希死念慮に囚われていました。食べることが大好きな夫が、食べることを放棄してでも取り除きたいほどの痛み…。
お見舞いに行くと、ぐったりと弱った夫の姿がありました。普段明るい人なだけに、その落差は衝撃的でした。
「そんなに痛いの?」
「痛い。ともかく痛みを何とかしたい」
夫は隠すことなく泣き言を言いました。
後日検査をしたところ、手術が失敗し胆汁が漏れていることが分かりました。再手術です。
(次回につづく)
倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」を1話から読む
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。