倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.61「人生で一番寂しかったお正月」
漫画家の倉田真由美さんは、夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年57)がすい臓がんにより旅立ってから、初めてのお正月を過ごした。夫がいない年末年始を振り返り、改めて気がついたことがあるという。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
夫がいない初めてのお正月
今年の正月は人生で一番寂しい正月でした。
これまで二十代の頃など独りきりで正月を迎えたことは何度かありますが、寂しいなんて感じたことはありませんでした。そもそも私は、割と独りが好きなほうです。おせちも自分の好きなものだけを少量作る、独身の時のその過ごし方はむしろ気に入っていました。
でも今年は違いました。独りではなく娘もいたのに、世界から取り残されたような孤独感に苛まれ、早く正月が過ぎて日常に戻ってほしいと願うほどでした。
昨年の正月は夫がいました。
「初詣に行こう!」
腹水が溜まり始め体力は落ちていましたが、夫のアクティブは健在でした。元旦の朝、夫の提案で娘も連れ近所の神社に自転車で向かいました。
近いのに、元旦の初詣にその神社に行くのは初めてでした。着いてみたら、想像以上の参拝者の多さに夫も私も驚きました。道路にまでずらりと続く、長蛇の列です。とりあえず私たちは、最後尾に並びました。
「1時間以上はかかりそうだな」
「このままじっと待つの、寒いよ。風邪ひいちゃうかも」
10分ほどで諦めて、列を離れました。途中、コンビニで夫の好きなアイスを大量買いして帰宅しました。
家に戻ってからは雑煮や、買い込んでいた夫の好物の数の子や黒豆、佃煮、伊達巻などを食べながら正月番組を観ました。夫はテレビ好きなので、大晦日には紅白も観ています。夫につられて私も一緒に。毎年そうでした。
失って初めて気づいたこと
でも、今年は紅白も正月番組も観ていません。娘はそもそもテレビに興味がないし、私もテレビ画面で観るのは映画ばかりです。出かけることもなく、三が日は家にこもっていました。正月らしかったのは餅などの食品くらいで、普通の休日となんら変わらない日々でした。
それでいいからそう過ごしたのに、堪らなく寂しい。
夫がいた頃は、正月前後に旅行に行ったり子供向けの正月イベントを探して参加したり、家にいないこともよくありました。私は基本的に出不精なので、夫に引っ張り出してもらわないと出かける頻度は激減してしまいます。出掛ける前は「面倒だな」と思っても、出掛けたら間違いなく楽しくて、子供向けの遊び場ですら「来てよかった」と思えたものです。
夫がいた正月は、楽しかったな。
当時は、格別そう思っていなかったけど。失って初めて気づいたことがあり過ぎて、正月は一気にしんどくなってしまいました。
倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」を1話から読む
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。