「高齢者の爪にQRコード」 認知症による行方不明対策 手洗いや入浴でも2週間剥がれない加工
2023年、認知症やその疑いのある行方不明者の届け出件数が1万9039件に達し、統計開始以来過去最多を記録した。この数字は高齢化の進行に伴う認知症患者の増加を象徴しており、彼らの安全確保が社会的課題となっている。行方不明者が増加する中で、地方自治体では、早期発見と保護を目指した新たな取り組みが次々に進められている。
弘前市、爪にQRコードを活用した新施策
認知症による行方不明者の迅速青森県弘前市な保護を目的として、高齢者の爪にQRコードを印字したシールを配布する取り組みを2024年9月から開始した。この「爪Qシール」と名付けられた1センチ四方のシールを爪に貼ることで、発見時にスマートフォンで読み取れば、3桁の登録番号と弘前市役所の電話番号が表示される仕組みだ。 これまで弘前市は、キーホルダーや衣類に貼るシールなどを配布していたが、外出時にそれらを携帯していないケースも多く、迅速な身元確認が難しいという課題があった。今回の爪Qシールは爪に直接貼り付けることで、常に身につけられ、さらに手洗いや入浴でも剥がれないように加工されており、約2週間耐久するという。シールの配布を希望する場合は、市役所で本人や家族の情報を事前に登録する必要がある。
弘前市の担当者に聞くと、市民に広くこの施策を告知するため、「市の広報誌掲載、介護福祉課窓口でのパンフレット設置、医療・福祉の支援機関・団体への広報、地域住民への周知活動、認知症ケアパス(弘前市における認知所に関する情報をまとめたもの)に記載し、地域住民へ告知しております。なお、爪Qシールのみではなく、弘前市ただいまサポート事業(※)に係る配布グッズとして広報しています」とのこと。市の窓口配布は9月1日から始まっているが、それ以前に市に登録済みの市民には郵送で配布済みとなっており、現在、180人への配布が見込まれている。
※弘前市ただいまサポート事業:認知症やその疑いのある高齢者が道に迷ったり、自宅がどこかわからなくなった際、無事に「ただいま!」と帰宅できるように、ご本人の情報を事前に市に登録しておき、警察や協力機関と連携することで、帰宅できなくなった方の早期発見と保護に努めるサポート事業。
入間市でも同様の対策を実施
弘前市だけでなく、埼玉県入間市でも同様の対策が講じられている。入間市では、認知症などの理由で外出中に行方不明になるリスクのある高齢者に対し、保護時に迅速に身元確認や緊急連絡先が分かるように物品を交付している。この取り組みも利用者の負担はなく、自治体が費用を負担している点が弘前市の施策と共通している。こうした施策は、地域全体で高齢者を見守る仕組みを整える一環として進められている。
期待される、全国への広がり
今後、弘前市や入間市のような取り組みが全国に広がることが期待される。弘前市では、「爪Qシールが注目されることで弘前市ただいまサポート事業を知っていただき、認知症等を理由に一人で帰宅できない方が地域にいらっしゃること、併せて認知症の正しい理解を促し、認知症等があっても高齢者が住み慣れた地域で尊厳あるその人らしい生活を継続することができるよう、引き続き事業の継続と周知を継続していきたい」(前出の担当者)としている。認知症による行方不明者の早期発見と迅速な保護は、地域社会全体で支えていくことが求められている。特に高齢化が進む地域では、このような技術や仕組みを活用することで、家族や周囲の不安を軽減し、より安心して暮らせる社会を実現するための一歩となるだろう。
構成・文/介護ポストセブン編集部