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暮らし

家族が認知症になったとき大事なのは「慌てないこと」「否定的にならないこと」。認知症であっても幸せに暮らす術を医師が解説

 2035年には患者数が100万人以上増え、6〜7人に1人が認知症になると言われている。誰もが罹患しうる人生100年時代だからこそ、家族が認知症になっても寄り添う気持ちが大切だ。ジャーナリストの鳥集徹さんと本誌取材班が、豊富な知見と治療経験を併せ持つ名医2人に認知症患者が暮らしやすい理想の環境について聞いた。

→ジャーナリスト・鳥集徹さんと本誌取材班が徹底取材 名医5人だけが知る<認知症の名医リスト>【全国版】

教えてくれた人

長田乾さん/横浜総合病院臨床研究センター長

高瀬義昌さん(※高ははしごだか)/たかせクリニック理事長

否定的な家族と暮らすと認知症が悪化する

 発症したからといって、ただちに日常生活に支障が出るわけではなく、周囲や本人の行動次第で、残っている脳の能力(認知予備能)をある程度維持できる可能性もある。そのためには認知症の患者を家族が温かく見守ることも大切だと横浜総合病院臨床研究センター長の長田乾医師が話す。

「アメリカで50才以上の1万人を10年間、追跡調査した研究があります。家族が本人に対して否定的で、いつも文句を言われている人と、家族が常に温かく見守ってくれる人を比べたところ、否定的な家族といた人の方が認知症になりやすいという結果でした。同じアルツハイマー病になりかけていたとしても、肯定的な環境にいることで認知症の発症を遅らせたり、進行が遅くなったりするかもしれないともいわれています。たとえば、ビールを買いに行くついでにほかのお使いも一緒に頼んだのに、おじいちゃんが忘れてしまったとします。つい怒りそうになりますが、それよりも『おじいちゃんが買ってきてくれたおかげでビールが飲めた』と家族で乾杯しながらできたことを褒める。そのように周囲がスタンスを変えることが大切だと思うのです」

 また、認知症になると以前まで出席していた町内の寄り合いや趣味の集まりなどに出なくなる患者も多い。その結果、人と会う機会が減り、ますます自信を失ってしまう。そうした環境を変えるよう促してくれる医師に出会えるかどうかも、患者の運命を変えるといって過言ではない。

認知症患者も社会とのつながりを必要としている

 長田医師が5年前に始めたのが、「あざみ野オレンジバル」という取り組みだ。東急あざみ野駅前(横浜市青葉区)のそば屋に月に一度集まって、お酒を飲む会を開いている。そこには認知症の本人だけでなく、家族、介護、福祉、医療関係者が集まるが、自己紹介は一切なし。誰が認知症患者で、誰が医療スタッフなのか、またどんな仕事をしているのか、それぞれの立場とは無関係に2時間半を過ごすという。

「この会を始めたのは、ある男性患者がきっかけです。家族から禁酒を言い渡されて、四六時中ずっと監視され、文句を言われている。その患者がこう言ったのです。『ぼくはまるで刑務所にいるようなものだ』と。ある程度の年齢になったら、お酒を続けてもやめても、残りの人生、あまり関係ないと思うんです。だったら、病気を持っていても月に何回かは知人と飲みに行ったらいい。いろんな人とかかわることで自己肯定感も上がって、家族ともいい関係を築けるはずです」(長田医師)

 必ずしも理想通りにはいかないかもしれないが、認知症になったからといって人生を諦めず、家族や身近な人たちに見守られながら、その人らしい生活を続けられるようサポートする体制を地域で作っていくことが、誰もが認知症になりうる時代には理想と言える。

 そのときが訪れた際、理想的な環境を作ってくれる医師と出会うにはどうすればいいだろう。最後に認知症の在宅医療のスペシャリストとして知られる、たかせクリニック理事長の高瀬義昌医師(※高ははしごだか)がアドバイスする。

「家族が認知症かもしれないと感じたときに大事なのは、『慌てない』こと。誰もが認知症になりうるわけですから、『ついに来たか』という感じで、ポジティブに取り組むのがいいと思います。そのためにも健康なうちからアンテナを高くして、知識を得ておくことが重要です。地域の医療、介護、福祉の情報が集まっているのが『地域包括支援センター』です。中学校と同じくらいの数が設置されているので、家族が認知症になる前に情報収集に行くのもいいでしょう。また、私のクリニックのある東京都大田区には『在宅医療相談窓口』があり、医療機関の選び方などのアドバイスをもらえます。また厚労省が認定する『認知症サポート医』という制度があり、各都道府県に名簿が公開されています。加えて『認知症の人と家族の会』という患者会の存在も覚えておくといいでしょう。そこに問い合わせれば、かなり具体的で深い情報まで教えてくれるはずです」

 認知症であっても誰もが幸せな人生を全うできるよう、ぜひ知識を蓄えておいてほしい。

※参考/東田勉『「認知症」9人の名医』(ブックマン社)

※女性セブン2024年9月26日・10月3日号
https://josei7.com/

●認知症は「介護者のメンタル」と「薬の適切な服用」が患者の症状に大きく影響|理由を医師が解説

●認知症の母との外食をあきらめていた息子が回転寿司に癒された理由|在宅介護を前向きにするための秘策

●「認知症とは脳の病気」病名を決めつけずしっかり検診が大切|ジャーナリスト・鳥集徹さんと本誌取材班が認知症の名医に徹底取材

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