介護食に<生野菜>を使うときの注意ポイント「生で食べてはいけないNG野菜もある」【管理栄養士解説】
野菜の栄養を丸ごと摂れるのが“生のまま食べる”こと。生野菜のサラダや和え物は栄養価も高く、火を使わずにできるので、夏場の食卓におすすめだ。そこで高齢者の食事や介護食で生野菜を扱うときの注意ポイントやコツを管理栄養士の川鍋仁美さんに教えてもらった。
教えてくれた人/管理栄養士・川鍋仁美さん
管理栄養士。2児の母。大学卒業後、総合病院に勤務。介護食・嚥下食などの献立作成や栄養相談など行ってきた経験を活かし、現在はデイサービスで高齢者の栄養サポートなどを行う。介護する人もされる人も笑顔になれる「介護食作り」を目指し、活動中。「管理栄養士が伝授!いちばんやさしい介護食ガイド」の運営・執筆も手がける。https://eiyousupport.com/
旬の生野菜には栄養が豊富
旬の生野菜にはビタミンやミネラル、食物繊維が豊富です。高齢になると食事量が減ってきたり腸の動きが弱まってきたりして、便秘に悩むかたも多いので、野菜はしっかり摂ってほしい食材です。
生の野菜は彩りもよく季節を感じられるので高齢者にも喜ばれると思います。
一方で、「噛む力」や「飲み込む力」が弱ってきている高齢者にとっては調理法や提供する大きさを誤ってしまうと「誤嚥」のリスクもあるので、本人の食べる力に合っているかを慎重に判断することも必要とされます。
今回は在宅で介護食を作る家族が高齢者に「生野菜」を提供する際のポイントを調理例も併せてご紹介します。
生で食べられる野菜「介護食にはNGの食材も」
生野菜は食物繊維の重要な供給源ではありますが、かむ力が弱ってきている高齢者にとっては種類や調理法によって食べにくいものになります。
野菜は加熱せず、「生」のほうが、加熱調理するよりもビタミンやミネラルが残りやすいのですが、生野菜の中でも、レタスやキャベツなどのサラダは、食材自体が柔らかくてもかみ切りにくく口の中でまとまりにくいので食べにくいものです。
生のままでも食べられる野菜もいくつかあるので、それらを利用して介護食のバリエーションを増やしてみてはいかがでしょうか。
OK!介護食に向いている生野菜
生で食べられる野菜でも介護食に利用しやすいのは、以下のようなものがあります。
・トマト…皮や種を除けば水分が豊富で利用しやすい
・アボガド…やわらかいものは舌でもつぶしやすい
・大根・きゅうり…すりおろすと食べやすくなる
・オクラ → 生で食べる場合は板ずりして細かく刻むと食べやすい(もしくはサッと湯通しするとよい)
・長いも → すりおろすのがよい。刻むと口のなかでもたつきのど貼り付きやすいのでNG
NG!介護食に不向きな生野菜
噛み切りにくいもの、やわらかいものでも葉野菜などぺらぺらした薄いものは、のどにはりつきやすいので介護食には不向きです。
・レタス…のどに張りつきやすい
・キャベツ…かみ切りにくく、まとまりにくい
・たまねぎ…辛みがあるとむせにつながり、口の中でまとまりにくい
・セロリ…繊維が多く、噛みにくい
・パプリカ…皮がかたく、薄く切ってものどに張りつきやすい
このように、介護食としては、生で食べるには不向きな野菜も多いもの。生の葉野菜をサラダなどで食べるのはおすすめしません。すりおろして食べられるものや、やわらかい形状のものを、和え物などにするのがおおすすめです。
生野菜の種類別・調理ポイント
介護食として生野菜を提供するときは、以下のような注意ポイントがあります。
・トマト「皮や種の誤嚥には注意」
トマトやアボガドは、生のままでも柔らかいので高齢者でも比較的食べやすい食材です。トマトは皮が残ると義歯に引っかかったり飲み込みにくくなったりするので、事前に湯むきして皮を取り除きましょう。
また、トマトの種が気になるかたも多いので、できるだけ取り除きましょう。切り方は食べる方の状態にもよりますが、くし切りか1cmほどのダイスカットに。必要であれば、刻んだり、ペースト状にしたりしても食べやすくなります。
・アボカド「やらかいものは介護食におすすめ」
アボガドは食べる人のかむ力に合わせて潰してペースト状にするか、1cm各程度のダイスカットにしましょう。高齢者には馴染みのない食材のようですが、豆腐やゆで卵などと和えると意外と好まれます。ものによってはかたいものもあるので、必ず柔らかいものを選びましょう。
・大根、きゅうり「おろしてとろみをつけて」
大根やきゅうりはおろし状にすると食べやすくなります。その際、食べる時に口の中で水分と固形物に分かれるので誤嚥につながるリスクがあります。
すりおろしてから、直接とろみ調整剤を加えて、とろっとしたポタージュ状になるくらいまでよく混ぜるのがおすすめです。
また、さっと湯通ししたなめこを細かく刻んで、おろしと和えると口の中でもまとまりやすく食べやすくなります。
生の野菜には、食べ物の消化吸収を助ける「消化酵素」も含まれています。
酵素は熱に弱いので、できるだけ加熱調理をせずに生やすりおろして食べることが理想的です。栄養価の高いたんぱく源(肉や魚、大豆製品など)と生野菜を組み合わせて食べることで、より消化・吸収力を高めることができるのでおすすめです。
消化酵素は生野菜のほかにも、生の果物や発酵食品にも豊富に含まれています。
生で食べられる野菜の中でも、介護食におすすめなのがアボカド。完熟したやわらかいものなら、歯ぐきでも潰しやすく、さらに豆腐などのたんぱく質と合わせると栄養豊富な一品になりますよ。
介護食におすすめ!生野菜の副菜レシピ
アボガドと豆腐の和えもの(3人分)
<材料>
・アボガド(やわらかいもの)…1個
・絹豆腐…150g(1/2丁)
・しょうゆ…大さじ1.5
・マヨネーズ…大さじ2
・わさび(チューブタイプ)…少量
<作り方>
【1】豆腐をキッチンペーパーなどで包みしばらく水切りする。
【2】アボカドは包丁で切り目を入れて半分に割り、皮をむいて1cm角位に切る。
【3】大き目のボールに調味料をすべて入れてよく混ぜる。
【4】3のボールに豆腐を適当な大きさにちぎりながら入れる。(つぶれてOK)
【5】アボガドを入れて和えれば出来上がり。
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在宅で介護食を作る家族が高齢者に「生野菜」を提供するときのポイントをご紹介しました。これから暑くなってくるとさっぱりした野菜料理を食べたくなる時期です。ご家族にお食事を提供するときにぜひ参考にしてみてください。
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