毒蝮三太夫のお悩み相談室「私に酷い事を言う母の介護がつらい。兄はえこひいきされてノータッチ。どうすればいい?」|連載:第58回
親を介護する苦労は、生半可ではない。相談者の女性は、お世話している母親から日々きつく当たられているという。しかも母親は、介護にはノータッチの兄を今もひいきしている。マムシさんは、追い詰められている相談者の肩にそっと手を置くかのようなやさしい口調で「まわりの力を借りて、自分を守ることを優先しよう」と励ます。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「もともと嫌いな母の介護を一人でやっています。昔から兄はえこひいきされて介護にノータッチ。このままでは私が先に逝ってしまいそう」
このあいだYouTubeの「マムちゃんねる【公式】」で、井上順ちゃんにゲストに来てもらった。じつは、面と向かって話したのは初めてだ。若い後輩だと思ってたけど、彼も77歳になったんだな。ポンポンとダジャレが出てきて、元気いっぱいだったね。
代々木公園の前で生まれ育った順ちゃんと、昔の渋谷の話で盛り上がって楽しかった。あんな店もあった、こんなこともあったってね。そういう話ができる仲間は貴重な存在だ。当時を知らない若い世代も、「へー、そうだったのか」って面白がってくれてるといいな。
今回の相談は、母親の介護で悩んでいる53歳の会社員の女性からだ。うーん、これはつらいなあ。
「40歳からW介護をしてきました。昨年父が亡くなってから母の性格が酷くなり、毎日苦痛です。兄もいるのですが介護にはノータッチで、自分の子供たちが一番。母は、私が小さい時から『産まなきゃ良かった!』と言う人で、はっきり言って嫌いです。私もある程度は我慢しなきゃとは思っているのですが、あんたがやるのは当たり前、兄は可愛いから生活が大変だからと、今も差別をされます。
この先ずっとこんな生活だと、私が先に逝ってしまうんじゃないか?とまで不安になります。自分にも家族があるのですが、家族でちょっと買い物っていうことさえ許してもらえず、兄がすごく憎らしく思えることもあります。母とこの先どのように接していけば良いのでしょうか?」
回答:「よくやっているよ。でも、ひとりで抱え込んじゃダメだ。後悔しない道を探ろう」
ひとりでみんな抱えて、しかも、お母さんからひどい言葉や理不尽な扱いを受けてるわけだ。よく耐えてるよ。あなたはえらい。
もともと嫌いだったのに、さらに性格が酷くなったお母さんと接するのは、さぞつらいだろう。ただ、お母さんもお父さんを亡くして、寂しいに違いない。精神的に不安定になっている可能性もある。必要なら、メンタルのクリニックに行ってみてもいいかもしれない。
今、お母さんは壊れやすい瀬戸物みたいになってる。よく言ってるんだけど、こっちまで硬い瀬戸物になってぶつかり合ったら、お互いに傷付け合うだけだ。難しいかもしれないけど、そんなときはこっちが布団になってふんわり受け止めてあげよう。それはお母さんのためにさらに我慢するってことじゃなくて、あなた自身を守るためだ。
お母さんに対して、長年の恨みつらみを全部ぶつけたり、意地悪な態度を取ったりしたところで、けっしてスッキリなんかしない。あなたの中に後悔が残るだけだ。布団になってやさしく接することで、今の苦労は素晴らしい経験になる。憎まれ口を叩くお母さんは、自分に成長のチャンスを与えてくれてるんだって思ってもいい。
お母さんとどう接するかとは別に、お兄さんが何も協力しないって状態は、どうにかしないとね。お兄さんは、あなたがそこまでつらい思いをしていることや、お母さんが厄介な状態だったことをわかってないんじゃないかな。しっかりものの妹に甘えてるところもありそうだ。面と向かって話し合って、「このままだと私がつぶれる」と訴えよう。
そこまですれば、お兄さんだって知らん顔はできないはずだ。コロッとは変わらないかもしれないけど、話し合いをしないまま、自分の中で「どうして何もしてくれないの」「どうして察してくれないの」と思っていても、モヤモヤが募るだけで何の解決にもならない。
それと、地域の役所なり介護の窓口なりにどんどん相談しよう。介護はひとりで抱え込んじゃいけないのはもちろんだけど、家族だけでどうにかしようと思ってもいけない。まわりの力を借りたり使える制度はどんどん利用したりして、自分のからだと心を守ることを優先しよう。それは、お母さんのためでもある。介護する側が疲れ切って限界ギリギリまで追い詰められる状態は、けっして美談じゃないと俺は思う。
一歩引いて見てみると、今のお母さんは「人は歳を取るとこうなる」「旦那が死ぬとこうなる」という何よりのサンプルだ。そりゃ、憎たらしいという気持ちは湧いてくるだろう。だからといって同じ土俵でケンカしたら、自分がもっと苦しくなる。どこまで布団になれるか、どこまで理解してあげられるか、修行だと思って乗り切ってほしい。今の経験は間違いなくあなたを磨いてくれているはずだ。これからの人生の大きな糧になるよ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さん
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。88歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」『失礼な一言』など著書多数。新著『押してはいけない 妻のスイッチ』(青春出版社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。