老人ホームは居室が大切!選び方の5つのポイント「部屋の広さや設備は生活の質を左右する」【社会福祉士解説】
社会福祉士の渋澤和世さんは、介護サービス相談員としても活動し、数多くの施設訪問をしてきた中で、「老人ホームは”居室選び”が重要」だと語る。最も多くの時間を過ごす居室が身体状況や生活スタイルに合っているか――。居室選びのポイントについて解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
渋澤和世さん
在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)がある。
老人ホームの「部屋」は生活の質を左右する重要な要素
親やご自身の介護問題は、多くのかたにとって避けて通れないものです。ずっと在宅で暮らしたいと希望していても、家族の生活環境によっては老人ホームへの入居も現実的な選択となります。
老人ホームへの入居を考える際、部屋の間取りや広さなどの環境がどのようになっているかは気になるポイントではないでしょうか。
筆者は川崎市の介護サービス相談員として10年近くかかわる間、多くの老人ホームを訪問してきました。その中で感じたことは、部屋が広すぎても狭すぎても利用者の身体的な状態に合っていないと、むしろデメリットとなりうるということ。
また、居室のタイプは大きくわけて個室と相部屋(多床室)があります。多くの人は個室を希望しますが、ごくまれに”ひとりだと寂しい、不安だ”という理由であえて相部屋(多床室)を好むかたもいらっしゃいます。
そこで、老人ホームの生活において重要な要素となる居室について、チェックすべきポイントを解説していきます。
老人ホームの居室にはいくつかのタイプがある
老人ホームの居室には、「従来型」と「ユニット型」があります。さらに、従来型は個室と多床室、ユニット型は個室と個室的多床室があり、合計4タイプとなります。
■従来型個室
廊下のまわりに居室が配置されている
※介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、介護医療院、ケアハウスなど。
■従来型多床室
2〜4人程度の相部屋で廊下のまわりに居室が配置されている
※特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院など。
■ユニット型個室
共有スペースのまわりに居室が配置されている
※特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、グループホームなど。
■ユニット型個室的多床室
部屋はカーテンやパーテーションで仕切られ、共有スペースまわりに居室が配置されている
※特別養護老人ホーム、介護医療院など。
老人ホームの種類と部屋の費用
老人ホームには、国・地方自治体といった公的団体が運営している公的施設と、民間の企業が運用している民間施設があります。
・公的施設…特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、ケアハウスなど
・民間施設…介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホームなど
公的施設は比較的新しい施設やケアハウスを除いては、まだまだ相部屋が主体とも言えます。一方で、民間施設は、基本的に個室が主流です。
費用の面では、個室は居住費が多床室の2~5倍と高額になりがちです。予算や本人の希望なども聞きながら検討してみてください。
また、民間施設には、夫婦で利用可能なところもあります。個室2部屋よりも、ふたりで同じ居室に入居したほうが費用は安くすむケースが多いでしょう。
数が多くはないので希望する場合は事前にケアマネジャーに相談したり検索サイトで情報を集めたりしてみてください。
居室選びでチェックすべきポイントは?
老人ホーム入居後、長時間を過ごすのは、やはりご自身の居室。なので、居室の環境設備をチェックすることは大切です。以下で、居室のチェックポイントをご紹介します。
【1】居室の広さ
個室が狭すぎると閉塞感がありストレスが溜まることもあるかもしれません。とはいえ、広すぎる居室だと、足腰が弱っている場合には移動に時間がかかり、転倒のリスクが増すケースもあります。
利用されるかたの好みや身体状況にもよりますが、自立歩行ができるかたは6畳、車椅子移動のかたは8畳を目安に選ぶのがいいでしょう。
老人ホームの居室は、施設のタイプごとに室面積基準が設けられています。1室あたりの最低面積と入居者1人あたりの最低面積が定められていますが、上限は決まりがありません。
部屋が広ければそれだけ費用が高くなることが多いので、現在の状況と今後、要介護度が上がったときのことも考え、負担のない範囲で検討してみましょう。
【2】居室の設備
トイレは部屋に近い場所か、居室内にあると安心です。高齢になるとトイレが近く夜間も行きたくなることが多くなるので移動にかかる負担や、温度差によるヒートショックのリスクも気になります。
トイレには温水洗浄機能がついているほうが、清潔を保ちやすいでしょう。何かあったときのことを考えて、トイレにはナースコールが備わっているかも確認が必要です。
また、洗面台は車いす対応かどうか、センサーマットや見守り機器の対応なども大切です。
【3】居室の動線
居室の広さや設備以外に、動線もチェックしましょう。ベッドからトイレや入り口への移動はしやすいのか、車いすの乗降や移動がしやすいかなどを確認しましょう。
また、半身麻痺がある場合、麻痺がある方を壁側にすると行動しやすいため、対応可能なレイアウトであるかも大切な条件です。
【4】居室の位置
食事やレクリエーションに参加しやすい共用施設に近い居室は人気があります。しかし、人付き合いが苦手とか、静かな環境が好きなかたの場合には、できるだけ共用施設から離れたほうが生活音も少なくなるおでおすすめです。
自立歩行ができるのであれば共用施設までの距離はリハビリにもなります。
入居時は共用施設から離れた居室だったとしても、介護度が上がった場合、スタッフがかけつけやすい部屋が空いた場合、施設側から居室の移動を相談されることもあります。
【5】居室の向き
日当たりから南向きの居室を好むかたも多いのですが、夏場は気温があがります。また西日も気になるとつらいものです介護施。その点から、東向きの居室が実はおすすめです。
また、換気扇がついているか、窓の開け閉めのしやすさ、窓から見える景色なども過ごしやすさのポイントになります。
部屋の内装やインテリアも生活の質を左右する
居室は、家具の配置や照明、色使いは気分を左右するだけでなく、健康状態にも影響する場合もあります。
最近では、高齢者の生活がしやすいように個室や共有スペースのインテリアや色使いにこだわっている老人ホームもあります。
青や水色など心を鎮める寒色系、元気や活力につながる黄色やオレンジなどの暖色系、グリーン系にはリラックス作用もあるといわれます。個室の場合には、家具など自由に持ち込めるので、好みの色でインテリアを工夫するのもいいでしょう。
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老人ホームの居室を選ぶときは、個室か相部屋(多床室)か、設備や日当たりなど、さまざまな選択肢があります。
本人の希望や予算に応じて快適に過ごせる居室を選ぶのは基本。ホームページやパンフレットだけで選ぶのではなく、できれば体験入居をするのがおすすめです。実際に過ごしてみて施設の環境を確認してみて欲しいと思います。
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