遠距離介護のリアルな悩み「親をひとりにして心配じゃないの?」知人の助言への対処法を専門家が解説
家族が高齢になると、認知症も気になるし、転んで骨折するなどして突然介護が始まる可能性も。とくに、自分の親や義理の親を同時に介護する「多拠点介護」や「遠距離介護」は悩みが尽きない。遠方の場合は通う体力や交通費も必要だし、「親をひとりにして心配じゃないのか」と周囲に心配されるケースも。そんな悩みへの対処法について介護経験者にアドバイスいただいた。
教えてくれた人
工藤広伸さん/介護作家。自身の介護経験を綴ったブログ『40歳からの遠距離介護』が話題に。著書に『親が認知症!? 離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)ほか。
太田差惠子さん/介護・暮らしジャーナリスト。仕事と介護の両立や介護とお金、遠距離介護などをテーマに執筆、講演。著書に『親の介護で自滅しない選択』(日経ビジネス人文庫)ほか。
多拠点・遠距離介護の相談事例にプロが回答
離れて暮らす親、夫の親、身寄りのないきょうだい――。突然の介護は同時多発的に始まるため、お金、時間、そして介護する人の体力などいろんな問題が発生しやすい。実際に介護を経験した先輩はどのように接し、どのように乗り越えていったのか。実話にもとづく悩みと解決法を紹介する。
【お悩み】遠距離介護「移動費や拘束時間が長くて大変」
40才のときに介護で仕事を辞めたという介護作家の工藤広伸さん(東京都在住)は、岩手県に住む祖母や母、父の介護をする際、最も苦労したのが移動費用と手段だという。
「母の介護が始まった当初、祖母の介護も同時にしていたので、月に何度も岩手と東京を往復していました。当時は新幹線を使っていたので、往復の料金は1回につき約3万円。3~4往復もすると1か月の交通費は10万円を超えていたんです」(工藤さん・以下同)
交通費を減らそうと夜行バス(往復1万円前後)の利用に切り替えたが、思わぬ負担を受けることに。
「夜行バスは新幹線より安いのですが、思った以上に疲れました。隣に人がいたらなかなか寝られませんし、冬に窓側の席は寒くて仕方がない。1~2回の利用はいいのですが、これが延々と続くとなると体力がもたない。移動は金額よりも疲れないことの方が大事だと実感しました」
<解決策>割引サービスをうまく活用する
現在は、電車の割引制度を利用するようになり、「交通費は抑えられるようになった」と工藤さんは言う。
「岩手に行く日と東京に帰る日を早めに決め、ネットの“早割予約”で新幹線や飛行機を予約すれば、料金を節約できるんです。私がいつも使っているのは、JR東日本の切符購入サイト『えきねっと』。『JRきっぷ申込/空席案内』から、1か月+1週間前までに予約すれば最大30%、たまに50%オフで乗車できます」
そのほか、JRグループでは『エクスプレス予約』などの早割サービスがある。年会費はかかるが、年に何往復もするので元は取れるのだ。
「飛行機は事前手続きが必要ですが、介護帰省割引を適用しているところがあります。JALやANAは、65才以上が当日に予約をすれば、大幅に割引になる『シニア割』を設けています。スカイマークは前日から当日、ソラシドエアは予約日を含め4日以内の予約で割引に。急に容体が変わったなどで駆けつける場合に便利です。必要に応じて事前に入会手続きをしておきましょう」
【お悩み】知人からの“耳の痛いアドバイス”「ありがたいけど聞くのがツライ!」
遠く離れた親を介護するときに、必ずといっていいほどされるのが、他人からの「余計なお世話的アドバイス」だ。
「よく言われるのは、『ひとりにして心配じゃないの?』『親御さんのところに戻らないの?』『親御さんをこっちに呼び寄せないの?』など。皆さん、親切心で言っているつもりなのですが、遠距離介護をしている人にとっては、『親を放ったらかしにしている』という自責の念にかられている人も多いんです。
他人に言われて実家に戻ったり、親を呼び寄せてしまう人もいます。家族とよく話し合って、家族も自分も納得済みならいいのですが、実際には、自分以外のきょうだいともめることになったり、不慣れな場所で住むことになった親が悩んでしまうなど、トラブルになるケースも多いんです」(介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さん・以下同)
<解決策>余計なお世話は聞き流す
「介護のために親元に戻ったり、親を呼び寄せてもあまりいい結果にはならない」と、太田さんは語る。
「親元に戻るということは、結婚しているなら家族全員で引っ越すか、家族を置いていくことになり、仕事も続けられないケースが多いのが現実です。
特に認知症の場合、急に環境が変わると余計と認知症が進んでしまう可能性があるので、住み慣れない場所に親を呼び寄せるのは得策ではありません。お金の援助もしない、手助けもしてくれない他人の言うことは、たとえ親戚であっても聞き流すこと。何か言われたら、『助言ありがとうございます。でも家族やケアマネさんと相談して決めたことなので』と答えるようにしましょう」
取材・文/廉屋友美乃 イラスト/田中斉 写真/PIXTA
※女性セブン2024年4月25日号
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