関節の痛みに打ち克つには寝る姿勢が重要だった!<寝るだけ整体>のポイントを専門家が解説
腰が、肩が、膝が…。急に訪れる「ピキッ」、慢性的に続く「ズキズキ」は、あなたのQOLを著しく下げる人生100年時代の大敵。しかし対処を間違えれば、さらにひどくなる恐れもある。「痛みのプロ」に、最適な対処法について聞きました。
教えてくれた人
木原洋美さん/医療ジャーナリスト
新田真吾さん/あんしんクリニック川西院長
三木英之さん/とつか西口整形外科院長
田中宏さん/天竺整骨院院長、柔道整復師
本田洋三さん/鍼灸師で柔道整復師
関節痛で通院する人の6割が「治療に満足していない」
「50才を超えてから、急に膝が痛むようになって、病院に行って処方された薬をのんだり、注射を打ってもらったりしていたけれど、一向によくならなくて。とうとう歩けないほどひどくなったから、2年前に“最後の手段”と思って人工関節の手術を受けました。なのに痛みはまったく取れなかった。そんなとき、テレビで“膝痛にいい”と紹介されていたストレッチをダメ元で試してみたら、すぐに楽になったんです。5年間悩み続けてきた痛みが取れたのはうれしいけれど、いままでの治療って一体何だったんだろう、とモヤモヤも感じてしまいます」
東京都在住の主婦、杉本美恵子さん(55才・仮名)はため息交じりにそう話す。
杉本さんのように、年を重ねてから関節痛に悩む人は非常に多い。厚生労働省の調査によれば、65才以上の女性が自覚している病気やけがのうち最も多いのは腰痛であり、2番目が肩こり、3番目が手足の関節の痛みだという。
また、別の調査では関節痛で通院している人の6割が「現在の治療に満足していない」と感じていることも明らかになっている。
医療ジャーナリストの木原洋美さんが解説する。
「関節痛の治療は投薬から手術までさまざまな方法が行われていますが、その人に合ったものを受けられていないケースは珍しくなく、通院しているにもかかわらず痛みに悩み続ける人が非常に多いのが現状です。痛みには急性痛と慢性痛があり、前者は痛みの原因となるけがや病気が治れば痛みもなくなります。一方後者は、けがや病気が治ってもいつまでも痛みが消えません。多くの人を悩ませている関節痛は後者にあたります」
MPS(筋・筋膜性疼痛症候群)のケースが大半
関節痛と言うと骨に異常があると思われがちだが、実際にはMPS(筋・筋膜性疼痛症候群)、つまり筋肉痛であるケースが大半であることが近年明らかになってきたという。
「MPSは、筋肉のコリをほぐしたり、体重管理に気をつけ、運動するなど生活習慣の改善も含めた“集学的治療”が効果的です。こうした治療は整形外科ではなく、痛みを専門に扱う『痛み外来』や『ペインクリニック』で受けることができます。
実際、整形外科でフルコースの治療を受けてもまったく快方に向かわなかった人が、体重を落として腰や膝への負担を減らし、ストレッチや筋トレで筋肉のコリをほぐしたら治るということはよくあります」(木原さん)
人工関節手術の名医として患者を数多く治癒に導いてきた、あんしんクリニック川西院長の新田真吾さんも「特に膝関節痛の原因の見極めは非常に難しい」と話す。
「例えば、膝の痛みがあるものの、検査や触診の結果、『異常なし』と診断された患者さんの場合、股関節や腰椎などの疾患や体の硬さに原因があるというケースが多い。そうした場合、膝にアプローチしても効果は得られません。関節痛はどこに原因があるかを見極め、最適な治療を試していく必要がありますが、知識や経験に乏しい医師は見極めを誤りやすく、無駄な治療につながることになります」(新田さん・以下同)
散見されるのは、効果が期待できない人工関節の手術を施されるケースだ。
「人工関節置換術は運動療法や投薬、注射などを試した後に行う、言わば“最後の手段”。効果を発揮するのは膝の軟骨がなくなり、骨同士がぶつかり合っている状態の『末期』に限られます。しかし実際は軟骨がある程度残っている『中期』で手術が施されることもあり、患者は効果を実感できずに、術後も痛みに悩まされることになります」
関節痛は間違った対処法で悪化する可能性も
恐ろしいのは、痛みが取れないだけでなく間違った対処法によって症状が悪化する可能性すらあることだ。
「治療や投薬は少なからず体に負担がかかるうえ、何らかの副作用が伴います。例えば、炎症でもないのにステロイドを投与し続ければ、骨粗しょう症のリスクが高まります。膝の人工関節置換術をした人の5%は痛みが変わらない、もしくは悪化したというデータもありますし、患者自身の血小板を患部に注入する『PRP療法』はヨーロッパの学会のガイドラインでは『推奨できない』とされています。最新治療として注目され、大々的に宣伝している病院もありますが、自由診療で高額なわりに科学的な効果はほとんど認められていないのです」(木原さん)
体を蝕む施術がはびこっているのは病院だけではない。スポーツ医学に詳しいとつか西口整形外科院長の三木英之さんは、整骨院に通うことが逆効果になるケースもあると話す。
「整骨院で保険診療できるのは、骨折・捻挫・打撲・肉離れの4つ、すなわちけがに限られています。そのため、腰や膝の痛みを訴えて来院した患者がそれらに当てはまらないときは、健康保険証を使っての保険診療はできません」
関節痛に効くと喧伝される数々のサプリメントや健康食品も、医師の間では“効かない”が定石だ。
「確かに代表的な成分であるグルコサミンやコンドロイチンは軟骨が原材料ですが、経口摂取した栄養素は胃液で分解され、腸に吸収されるため、患部に届くことはありえません。実際、効果を裏付けるような調査や論文を見たことは私の知る限り一度もない。プラセボ効果はあるかもしれませんが、高額なお金を払うのであれば食事療法やウオーキングなどの運動療法の方がいいでしょう」(新田さん)
病院での治療から民間療法まで、間違った対処法を続けることは無意味であるばかりか、重篤な状態を引き起こすリスクすらあると木原さんは警鐘を鳴らす。
「あらゆる方法を試しても痛みが取れず、治療が長引けば、次第に心も蝕まれていきます。つらくて動かないままでいると、心身のさまざまな機能が低下し、寝たきりになる『廃用症候群』を発症するリスクも高まります。取材したかたの中には、うつ状態に陥り、自ら死を選んでしまう人すらいました」
関節痛に打ち克つ生活習慣「睡眠」が重要
つまり、関節痛に打ち克つためには正しい対処法を知り、適切な形での実践が不可欠だということ。では、痛みを感じたとき、どう行動するのが最適解なのか。
「関節痛の根治は、生活習慣を整えることから始まる」と話すのは、天竺整骨院院長で柔道整復師の田中宏さんだ。
「どんなに効果がある最新の治療を受けたとしても、その人の体に『自然治癒力』がなければ、根本的な解決にはなりません。だからまずは、日常生活から見直してほしい。例えば、毎日お風呂につかって体を温めるだけでも筋肉の緊張がほぐれ、肩こりや腰痛は大幅に改善します」(田中さん・以下同)
そうした生活習慣の中で、最も重要なのは睡眠だと田中さんは続ける。
「寝るときの姿勢が悪ければ、関節に大きな負担がかかります。翻って言えば正しい姿勢で深く眠ることで、ハードな生活で体にゆがみが生じても、一晩で体は大幅に回復します」