兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第243回 久々に感じた「退屈」】
若年性認知症を発症して8年、現在は65才の兄と暮らすライターのツガエマナミコさん。兄は、症状が進行し主に排泄にまつわるトラブルが絶えません。家では、気の休まることのないマナミコさんでしたが、ショートステイを活用することで、ようやく数日間、一人の時間を持つことができるようになりました。
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特養探しを再開
3泊~4泊のショートステイの予定を月に2回入れるようになって、だいぶ気が楽になりました。帰ってくる日は毎回「あ~あ、帰ってきちゃった」と落胆するのですが、また2週間足らずで3~4日行ってくれると思えば頑張り甲斐がございます。たとえ今回のショートステイ中に自分の用事が消化できなかったとしても次回があるさと思える。それはなんと幸せなことでございましょう。
ショートステイに遠慮がちだった頃は、「オニの居ぬ間にあれもこれも」と予定を詰め込んでいたので、楽しく充実しながらもかえって疲れておりました。近頃はショートステイ中に予定なく家で過ごす日が増えてまいりました。
兄がいない家で、一人時間を持て余していると、兄が家にいるときの神経の張り具合いや、コマネズミのように体を動かしている日常に気づかされます。兄がいるときには決して感じない「退屈」を久々に味わいました。と同時に兄が施設に入居してしまったら、絶対太るだろうことを確信いたしました。なぜなら、気づくとスナック菓子を一袋平らげてしまったからでございます。空腹ではなく口さみしいという類の欲望でございます。兄がおやつを求めて台所をうろつくことを「食い意地が張っている」と目くじらを立てておりましたのに、自分もまったく同じだったことは身の縮む思いであり、新たな発見でございました。そもそもがラクをして生きたい性格なのでございます。いつか兄が施設入居した暁には「退屈」=「激太り」と心得て、適度に予定を作って過ごさなければいけないと肝に銘じた次第でございます。
先日、ケアマネさまから特養(特別養護老人ホーム)の資料を手渡され、「希望する施設をいくつか選んでおいてください」と言われました。いよいよ第二弾、特養入居申請に動き出したツガエでございます。
待機者が多くても入れたり、待機者が少なくても入れなかったり、施設の方針やタイミングによって対応はマチマチ。部外者のわたくしから見れば、その取捨選択はブラックボックスと言わざるを得ません。兄の排泄コントロールは何も改善しておりませんし、また同じ結果を生むかもしれないのですが、何かアクションを起こせば、多少なりとも前に進むと期待して、現在ネット検索しながら絶賛吟味中でございます。
特養の情報を提供している相談センターの電話番号もケアマネさまが教えてくださったので、そこへお電話をして希望地域とユニット型(個室タイプ)を条件に待機者数の少ない順に数軒を挙げていただきました。なんと一番上にあがったのは昨年入居を断られた施設でした。待機者数は34名。ただもうあの施設に入所希望を出す気持ちにはなれません。その他に挙がった施設のホームページを拝見しつつ、交通手段などを確認しております。まるで知らない不便なところだと面会が面倒で疎遠になりかねないので、すこしでも土地勘のあるところを選ぼうと考えております。いずれにしてもあまり期待せず、ダメモトの気持ちでやってみます。
認知症型グループホームもまったく選択肢から外したわけではございません。もし特養でしばらく粘ってみてやっぱりダメだったらグループホームや老健(介護老人保健施設)を考えます。
最近の嬉しいことは、なんといっても「つっぱり棒」の大活躍! わたくしの部屋の鍵としてつっぱり棒をご提案くださった読者の方には感謝しかございません。お仕事に行くときも、お風呂に入るときも、ちょっとコンビニに行くときも、これさえあれば安心でございます。しかも100均ストアの500円商品。鍵屋さんを呼んでいたら何万円もかかるところでございました。激安で立派な棒が見つかって、いい仕事をしてくださるのでウキウキでございます。
ただ、出入りするときにつっぱり棒を脱着している様子は毎回兄に見られておりますので、「なんかあのへんにあるな」といじる可能性はゼロではございません。が、ひとまずはパソコンやベッド周りの安心を担保できたことに感謝感激でございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性61才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ