樹木希林さんを襲った「大腿骨骨折」内田裕也さん死因は「肺炎」!高齢者は骨とのどを鍛えるべし
昨年9月に亡くなった樹木希林さん(享年75)と、その半年後、妻の後を追うように逝った内田裕也さん(享年79)。昭和と平成という時代を通じ、個性の輝きを放ち続けた、存在感あふれる夫婦だっただけに、惜しむ声はいまだ途切れない。 「あんなふうに自然体で生きていけたら」と多くの人が憧れる、ふたりの類い稀な個性的な生き方。しかし、夫婦の死に際は、それぞれ「日本人の典型」といえるものだったことはあまり知られていない。
「樹木さんは全身がんに侵されていましたが、治療によって進行は抑えられていました。 あと数年は大丈夫だと思われていたのに、最期の1か月の体調の悪化は想像以上でした」(樹木さんの知人)
死の1か月前、樹木さんは知人宅で転倒して左脚の「大腿骨骨折」という大けがをする。手術の後、一時的に危篤状態にも陥るほどダメージは深く、間もなく帰らぬ人となった。
後述するが、高齢者にとって、大腿骨をはじめとする「脚の骨」を痛めることは「死」に直結する。昨年11月に亡くなった赤木春恵さん(享年94)も、’15年に自宅で転倒して左大腿骨を骨折してから、表舞台に戻ることはなかった。特に閉経後の女性はホルモンの分泌が低下して骨密度が落ちるので、ちょっとした衝撃でも脚の骨を折りやすい。
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一方の内田さんは、肺炎で亡くなったと発表された。
「今年に入ってから、のどの調子が悪く、声も出にくくなっていました。食べ物がうまくのどを通らず『誤嚥性肺炎』で何度も入退院を繰り返した。最期は口から食べ物を摂れず、かなりやせ細っていました」(芸能関係者)
口からものを食べられなければ、点滴で栄養を補給せざるを得ない。だが、点滴をし続けると血管から水分が漏れて体がむくみ、全身がだるくなる。肺もむくんで呼吸が苦しくなると、痰が多くなって吸引が必要になり、さらに苦しみが増す。そして終末期を迎えるのだ。
樹木さんと内田さん夫婦に死を招いた「脚の骨折」と「のどの衰弱」は、他の多くの人の人生にとっても、決定的な鬼門になり得る。
ただし、裏を返せば、脚とのどさえ鍛えれば、いつまでも健康で、長生きできるということでもあるのだ。
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60代以降は一気にのどの筋肉が落ちる
「最期まで健康に口からものを食べるには、何よりものどの筋肉が重要です」
そう語るのは、『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』(飛鳥新社)著者で耳鼻咽喉科医師の西山耕一郎さんだ。
「人がものを飲み込むのにかかる時間は、わずか0.8秒。この一瞬で私たちはのど仏を上下させる『喉頭挙上筋群』という筋肉を使ってものを飲み込んでいるのです」
のどの筋肉が充分にあれば、無意識のうちに行える動作だが、筋肉が衰え始めれば、リスクが伴うようになる。
「60代以降は一気にのどの筋肉が落ち、食べ物を飲み込む『嚥下機能』が低下するというデータがあります。機能低下により、ものを飲み込むタイミングと筋肉の動きにズレが生じて、食べ物や唾液が誤って気管に入ってしまう『誤嚥』が起きやすくなる。お餅をのどに詰まらせて窒息するのも誤嚥が原因です」(西山さん)
厚労省の調査によれば、高齢者の死因の第3位は肺炎。そのほとんどが誤嚥に由来するという。
「誤嚥によって水分や食べ物が肺に入り、炎症を起こすことで肺炎になります。これを『誤嚥性肺炎』といい、抵抗力のない高齢者は、そのまま亡くなってしまうケースも多いのが現状です」(西山さん)
病気の原因になるだけではない。のどが衰えれば「食べる楽しみ」も奪われる。
「うまく食べ物を飲み込めないと、食事すること自体が苦痛になり、食も細くなる。食べられない食材が増え、誤嚥が多くなるほど、栄養状態も悪くなり、体力も落ちます」(西山さん)
脚や腕の筋肉が1日で衰えることがないのと同じで、のどの筋肉も少しずつ衰える。その兆候に早く気がつき、対処することが重要だ。
飲み込み力低下のサイン
●大きめの錠剤を飲み込みにくくなった
●食事中にむせたり、咳き込んだりすることがある
●食後に痰が増える
●若い頃より声が小さくなったといわれる
上記ははすべて、「飲み込み力低下のサイン」だと西山さんは指摘する。
「以前より食事に時間がかかるようになった時も気をつけるべきでしょう。また、鏡を見たり手で触ったりした時にのど仏の位置が首の半分より下に落ちてきているのも、兆候の1つです」(西山さん)
1つでも当てはまったら、今すぐ対処を始めたい。
「のどの筋肉はいくつになっても鍛えることができます。その半面、鍛えたからといってすぐにムキムキになるわけではない。だからこそ、日常的に取り入れられる方法をおすすめします」(西山さん)
毎食前行う!のどを鍛えるミニ体操
まず取り入れるべきは、食前に行う「嚥下おでこ体操」。
「おでこに手のひらの付け根部分をあて、おへそをのぞき込むようにしながら、おでこで手をぐっと押します。同時に手でもおでこを押し返し、その状態を5秒間キープします。行うのは毎日、朝、昼、晩の各食前に10回。のど仏に力が入るように意識しながら押し合うのがコツです」(西山さん)
併せて行うとさらに効果的なのが、「あご持ち上げ体操」だ。 「
両手をグーにして下あごにあて、顔を下へ向けて力いっぱいあごを引きます。同時にあごに負けない力で、あごを持ち上げるように両手で押し返し、5秒間キープします。こちらも毎食前に10回、『嚥下おでこ体操』と同じくのど仏あたりに力が入るように行いましょう」(西山さん)
食前に体操を取り入れることに加え、日常生活でのどの筋肉を意識して使うだけでも、効果がある。
「意識して声を出せばのどの筋力は鍛えられます。カラオケやおしゃべりを日常的に取り入れるのもいいですね。カラオケでは、キーの高い曲を入れて高い声で歌うことで、のど仏がよく動き、いいトレーニングになります。大きな錠剤がのみにくいといったレベルであれば1~2か月続けると、改善が見込まれるはずです」(西山さん)
骨折した高齢女性、1~2割は骨折してから1年以内に死亡する
冒頭の樹木さんのように大腿骨の骨折が「寝たきり」の原因になるケースは極めて多い。
東京消防庁の調査によれば、’16年における日常生活の事故で救急搬送された高齢者約7万人のうち、「転倒」が8割以上を占めている。転倒によるけがの中でも、高齢者が骨折する頻度が高いのが、大腿骨なのだ。
厚労省の全国調査によれば、大腿骨骨折の発生件数は年々増えており、’87年には5万3100件だったものが、’12年には3倍以上の17万5700件に急増している。また、女性の患者が圧倒的に多く、男性の3倍にのぼる。
骨折した高齢女性の死亡率は高く、1~2割の患者が骨折から1年以内に死亡するといわれている。また、命を落とさないにしても、術後1年で骨折前と同じように歩くことができた人は4分の1にとどまり、2分の1は介助が必要だという調査結果もある。その原因は予後の悪さにある。
「骨折した後、完治するまでベッドで安静にしていなければならない。高齢者はじっとしていれば1日につき2%ずつ活動力が弱まるといわれている。もし10日間入院したら、骨折する前よりも20%能力がダウンすることになるのです」(都内の外科医)
しかし、普段から骨を鍛えておけば転倒防止になったり、たとえ骨折したとしても軽症で済むケースもある。実際、黒柳徹子(85才)は’17年に大腿骨を骨折しているが、その後1か月で舞台に復帰した。その理由は、毎日欠かさず50回のスクワットを続け、骨を鍛えていたからだといわれている。
骨を鍛える「かかと落とし」でオステオカルシンを増やす
『〝骨ホルモン〟で健康寿命を延ばす!1日1分「かかと落とし」健康法』(カンゼン)著者で福岡歯科大学客員教授の平田雅人さんは、「いくつになっても運動によって、骨を鍛えることができる」と言う。
「骨に物理的な刺激を加えると、骨を形成する働きのある『骨芽細胞』が刺激され、ホルモン物質『オステオカルシン』の分泌量が増える。この『オステオカルシン』が、骨密度を上げ、骨を丈夫にしてくれるのです。そのうえ、アメリカの論文によれば『オステオカルシン』は高齢者の認知機能の低下を防ぐ機能もあるそうです」(平田さん)
オステオカルシンを増やすために平田さんが取り入れている運動法は「かかと落とし」だという。
「手軽にできるうえ、効果が高い。まず、背筋を伸ばしてまっすぐ立ち、つま先立ちのイメージで、両足のかかとだけを思い切り上げます。次に両足のかかとをドスンと落とし、かかとに衝撃を与えます。体の重みをかかとに伝えるのがポイントです」
現在67才の平田さん自ら「かかと落とし」を実践した結果、骨ホルモンの量が大幅にアップしたという。
「開始前の’17年11月と現在を比べると、オステオカルシンの量は2倍になりました。回数は1日30回を推奨していますが、忙しくて1日10回しかできない日もあれば、60回の日もありました。それでもきちんと結果は出ている。骨の細胞は5年で入れ替わるといわれているため、とにかく継続することが大事です」(平田さん)
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たんぱく質+ビタミンC、ビタミンDで骨を強くする
骨を強くするため、「かかと落とし」とともに取り組みたいのが食生活の改善だ。
管理栄養士の麻生れいみさんが解説する。 「骨を作るのに必要なのはカルシウムとコラーゲン。コラーゲンはたんぱく質からできているため、肉、魚、卵や大豆製品を積極的に食べてください。
また、コラーゲンを合成するためにはビタミンCも必要不可欠です。たんぱく質がたっぷり入った赤身の肉に、ビタミンCが豊富なレモンをかけて食べるのがおすすめです」
これらに併せてビタミンDやお酢も積極的に摂るといい。
「ビタミンDとお酢にはカルシウムの吸収を促進する働きがあります。実際にアメリカのノースカロライナ州ウェイクフォレスト大学の研究により、ビタミンDのサプリメントを摂ると、高齢者の転倒が予防できることがわかっています。食べ物で摂るならばいわしやさんま、干しきのこに含まれています」(麻生さん)
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インスタント食品、スナック菓子は控えめに
反対に、骨をもろくする食べ物もあるという。
「インスタント食品やスナック菓子、練り物など加工食品に含まれるリンには、カルシウムの吸収を阻害する作用があります。食塩も摂りすぎると尿と一緒にカルシウムを排泄してしまうので注意が必要です」(麻生さん)
人生100年時代といわれて久しい。
「令和」を元気に生き抜くために、今日から取り入れたい。 骨を強くする1日30回のかかと落とし 背筋を伸ばして立ち、両足のかかとを上げる。体の重みをかかとで受け止めるようなイメージでストンと下ろす。これを1日30回繰り返す。とにかく毎日続けることが重要。
イラスト/ニシノアポロ
※女性セブン2019年4月25日号