兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第213回 世帯分離してきました】
ライターのツガエマナミコさんは、若年性認知症の兄と2人暮らし。日常のサポートから排泄のお世話まで、ずっと寄り添い生活しています。このところ、食べることをを忘れてしまう兄へ、1日3回の食事介助も必要になり…。これまで、兄の介護を他の人に任せることには消極的だったマナミコさんですが、いよいよ本腰を入れて兄の施設入居に向けて動き始めました。
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世帯分離って?
「むずかしいらしい」「いや簡単にできる」と情報が錯そうした世帯分離(※1)でしたが、やってみたら拍子抜けするほど後者でございました。
まず、区役所にお電話をし事情を説明いたしました。「現在、認知症で要介護3の兄と2人暮らしですが、兄の施設入居を考えている。ケアマネに相談したら、介護保険負担限度額認定証をもらってきてくださいと言われた。それに伴って世帯分離をしたいと思うが、どうしたらいいか?」といった旨をお尋ねしてみました。
介護保険負担限度額認定証は、施設(※2)への支払い金額が大きく変わる大事なものでございます。生活保護の人を第1段階として全5段階ございまして、要は収入や預貯金が少なければ支払う料金は少なくて済み、多ければ限度がなく施設の定めた正規の料金をお支払いしなければなりません。
※負担限度額認定証が適用される対象施設は以下の通りです。
区役所のお電話では、保険年金課の給付担当に回されました。兄とわたくしの名前を告げると、データを確認してくださり「現在はマナミコさんが世帯主で、課税世帯なので介護保険負担限度額認定証を発行することはできません。世帯分離をすれば、お兄さんの年金収入では非課税なので、認定証を発行できます」とのことでした。
「ただ、預貯金が500万円以下であることも条件なので、窓口にお越しの際は本人の通帳をすべて記帳してお持ちください」と付け加えられました。兄の預貯金は500万円以下なので、これもクリア! 念のため今住んでいるマンションが共同所有である旨を告げましたが、住宅は関係ないとのことでした。
どの段階になるかはよくわかりませんが、世帯分離さえすれば介護保険負担限度額認定証は手に入りそうでございます。その世帯分離はどうしたらできるのか?と伺うと、「それは戸籍課になりますのでおつなぎします」とおっしゃり、お電話をつないでくださいました。
戸籍課の若い声の女性に「どういったご用件ですか?」と問われたので、先ほどと同じ事情説明をして世帯分離をしたい旨を告げてみました。すると思いのほか早口で「まず、知っておいていただきたいのは、生計を共にしている場合はそれを1世帯とするのが基本的な行政の考え方だということです。家族を施設に入れたいから世帯を分離したいといわれてしまうとこちらとしては受けがたい。窓口に来た際には、あくまでも生計が別なので世帯分離をしたいと主張してください」とお答えいただきました。
はじめは冷たい人かと思いましたが、最終的にはちゃんと役に立つ情報をくださったのできっといい人なのでございましょう。わたくしどもは兄妹ですから世帯分離も「妥当」となるでしょうが、これが夫婦だった場合はなかなかハードルが高そうでございます。「同じ家に住んでいる夫婦ですが生計が別なので」と言う主張は通るのでございましょうか。
そして、このお電話の3日後、行ってまいりました区役所へ。
窓口で世帯分離をしたい旨を告げると、あっさり書類に名前や住所を書かされました。「生計が別なので」と主張するような質問はございませんでしたが「本人もそれを承知していますか?」の質問はございました。この質問がくることは先の電話で早口の若い女性職員さまに教えていただいたので、余計なことを言わずに「はい」と答え、委任状のような書類にサイン。わたくしの身分証明書を出すともう手続きはおしまいでございました。
世帯分離に伴って、国民健康保険証が変更になるため、その手続きを済ませ、ついに「介護保険負担限度額認定証発行のお願い」をする窓口にたどり着きました。
持参した「兄の介護保険被保険者証」と「兄の貯金通帳」を握りしめ、今さっきあちらの窓口で世帯分離をしたばかりだと申告し、認定証を申請いたしました。住所と名前を記入する簡単な手続きがあり、わたくしの身分証明書を確認した職員さまは、パソコンのデータをご覧になり、「なるほど」とつぶやいて通帳のコピーをお取りになりました。
思いのほかスムーズに事が進み、8月には介護保険負担限度額認定証が郵送されるとのことでございました。
これで施設入居のための行政的な準備は完了いたしました。あとは施設をいくつか見学させていただき、どこにするか決めるだけ。う~む、いよいよここまできてしまいました。ツガエは本当に兄を施設に入居させるでしょうか? 迷いがないと言えばウソでございます。「もう無理! 絶対施設!」と「可哀想かな」の狭間で揺れる日々。兄とはいえ、他人さまの人生を決めることの重みを感じているツガエでございます。
※編集部註1:世帯分離については、以下の記事も参照してください。
→介護保険料を安くする裏技「世帯分離」のメリット・デメリット
→「世帯」を分ければ介護費用が減る!手続き5分の簡単裏ワザ【役立ち情報再掲載】
※編集部註2:負担限度額認定証が適用される対象施設は以下の通りです。有料老人ホームなど、民間運営の介護施設は対象ではありませんので注意してください。
特養(特別養護老人ホーム)
老健(介護老人保健施設)
介護医療院
介護療養型医療施設
短期入所生活介護
短期入所療養介護
地域密着型介護老人福祉施設(地域密着型特養)
※介護保険制度でのサービスにかかる利用者の負担額については以下を参照してください。
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現64才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ