話題の“自力葬”、実例を紹介「一週間かけて自宅でお別れ」「棺のまわりを写真で埋めつくす」「返礼品は故人の好物」|見送る家族のかけがいのない経験になる
超高齢社会となり、年間150万人以上が死亡する「多死社会」が迫っている日本。そんな中、新型コロナウイルス感染症の影響もあってか、遺族ができる限り自分たちの手で故人を送り出す「自力葬」が注目を集めている。2021年には「鎌倉自宅葬儀社」が自力葬をサポートするサービスも開始。令和時代の弔い最前線を調査した。
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「自力葬」の魅力は時間をかけてお別れができること
自力葬の実例を紹介しよう。
神奈川県の田中博さん(52才・仮名)は体調不良になった老父の寿命が見えてきた際、「自宅で葬儀を行いたい」という強い思いに駆られた。
「母を先に亡くしたとき、葬儀社にお願いしたのですが、ベルトコンベヤーに乗ったかのように自動的に葬儀が行われて本当にこれでよかったのかと後悔し、父のときは自分たちの手でやろうと決めました。父は病院嫌いなのに長く病室暮らしが続いたので、最後は葬儀場ではなく、自宅に連れて帰って送り出したかったんです」(田中さん)
情報収集をするなかで自力葬を知った田中さんは、父の看病の傍ら家族とともに準備を始めた。
「自力葬を決めてから兄弟たちと、どんな葬儀にするか話し合いました。昔から家族が懇意にする花屋から仕入れた花でブーケを作り、旅行好きの父が世界中で撮った写真を飾るなどのアイディアを出し合った。父は自宅の庭が大好きだったので、葬儀の日に晴れたら絶対に庭を見せようと盛り上がり、父が好んだ文明堂のカステラを返礼品にすることも決めました」(田中さん)
準備を始めて2か月ほどで田中さんの父はこの世を去った。事前の計画通りに実行した自力葬では、色鮮やかなブーケや、アフリカを旅行した父が現地の象にまたがる写真などがその場を彩った。
時間をかけて故人とお別れ。期間内なら何度でも会いに行ける
葬儀は1週間続き、この間、父の知人が次々に自宅を訪れて手を合わせた。
このように葬儀期間を長く設定できることも自力葬の大きな利点だと馬場さんは語る。
「一般葬は通夜・告別式の時間内でないと故人の顔を見られず、参列しても時間に追われて焼香のみで終わってしまう。自力葬は5日~1週間かけることが多く、遺族や友人、知人はゆっくり時間をかけてお別れできます。また、期間内ならいつでも、何度でも故人に会いに行けることも自力葬の大きなメリットです」(馬場さん・以下同)
迎えた自力葬の最終日、空は青く晴れ渡った。田中さんは父の愛した庭に棺を出し、その風景を味わってもらってから火葬場に向かった。見事な幕引きだった。
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返礼品は故人が愛した「崎陽軒のシウマイ弁当」
神奈川県に住む榊静子さん(83才・仮名)は長く病院に入院した末、最期は在宅医療を受け、自宅で息を引き取った。自力葬の準備を進めた家族がこだわったのは、榊さんが友人や家族と一緒に撮った写真だった。交友関係が広かった彼女を賑やかに送るため葬儀の際は棺の周りを無数の写真で隙間なく埋め尽くした。
家族を支援した馬場さんは、「こういう送り方ができるのも自力葬の魅力です」と言う。
「花よりも友人や家族に囲まれた方が故人もうれしいだろうと、家族がたくさんの写真を集めました。一つひとつの写真に故人との思い出があり、葬儀の際はそれらを通して故人の新たなエピソードが披露され、参列者は驚いたり喜んだりしていました。故人の人柄が伝わる写真や逸話ばかりで本当に素敵でした」
返礼品は崎陽軒のシウマイ弁当。長期にわたる入院中、食事を制限された榊さんに、家族が病院に内緒でこっそり差し入れたものだった。
「すでに衰弱していた榊さんはお弁当を見ると目が輝き、一生懸命、箱のひもをほどいてシウマイを頰張ったそうです。そのうれしそうな笑顔に生きる力を感じた家族が、返礼品にシウマイ弁当を選びました。こんな素敵な返礼品を家族が選べるのも自力葬ならではでしょうね」
このように自力葬は見送る人たちにとってかけがえのない経験となる。
「自力葬の準備中、家族は故人に思いを寄せる時間を作り、それを家族で共有します。語り合いを通じて故人と向き合えることが自力葬のいちばんの醍醐味で、自力葬を終えた遺族は口々に“故人をしのぶ時間がたくさん取れてよかった”と笑顔になります。送る者、送られる者の思いを形にすることで遺族の満足感が高まり、葬儀に後悔することなく次の一歩が踏み出せるんです」
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写真/PIXTA、鎌倉自宅葬儀社
※女性セブン2023年8月31日号
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