むせたら要注意!誤嚥性肺炎を引き起こす“喉の老化”に「ねばり食トレ」で対策を
「寝ている間に唾液でむせる」「口が常に乾いていてネバネバしている」「朝起きたときに声が出しづらい」…。こうしたことは喉の老化が関係しているという。唾液の不足による口内環境の悪化は40代から始まっているといわれ、高齢者では誤嚥による呼吸器の病気につながる恐れがある。
これを解消するためには、「ねばり食トレ」が効果的と語るのは池袋大谷クリニック院長の大谷義夫先生だ。
あなたは大丈夫? 喉の老化をチェック
高齢者が喉を詰まらせて死亡する事故は、毎年数百件単位で発生している。食品が空気の通り道を塞いでしまうだけでなく、気管に唾液や食品が誤って入り、同時に細菌を肺に取り込んで起こる誤嚥性肺炎が原因で死亡することもある。
呼吸器専門医として、多くの患者を診てきている大谷先生によると、誤嚥を起こしやすい人は高齢者に限らないという。
「中年世代でも『食事中にせき込む』『寝ている間にむせる』といったことが頻繁に起こる人がいます。風邪をひいたと思う人もいるようですが『隠れ誤嚥』の可能性があるのです。
喉は、話す、食べる、呼吸するためのとても大切な器官です。冬に湿度が下がり乾燥すると、口内環境が変化して色々なトラブルが起こります。隠れ誤嚥になっているのに放置していると、肺で細菌が繁殖しやすくなって肺炎を起こしかねません」(大谷先生、以下「」内は同)
40代以降の人は、大谷先生考案の「喉の老化」チェックをしてみよう。
【喉の老化チェック】
□食事中や食後にむせることがある
□せき払いが増えた
□朝、声がでにくい
□喉が詰まった感じがする
□固体より液体の方が飲み込みにくい
この中で、1つでもチェックがついたら、喉の老化サインという。
なぜ喉の老化は起こるのだろうか。
「足腰や肌の衰えを感じる人は多いのですが、喉の老化は自覚できない人が多くいます。喉の衰えは全身の筋肉同様、40代から始まります。しかし症状は、加齢とともにゆっくり出てくるので、気がついたときにはかなり老化が進んでいることもあり得るのです。
飲み込む機能の低下は筋肉の他、唾液量の低下も一因です。唾液は1日に1000~1500ミリリットル分泌されますが、加齢とともに少なくなります。唾液には、食べ物の消化を助ける、口の中の汚れを洗い流す、酸を中和して口の中を中性に保つ、細菌の繁殖を抑える、虫歯の予防に役立つなど実に多くの役割があります。唾液が不十分だと誤嚥が起こりやすくなります。
そしてもう一つ、『口呼吸』の人も要注意。口は鼻よりも呼吸に適していないので、空気中のゴミやカビ、ウイルスを直接取り込んで、免疫力の低下につながります」
喉に対し簡単にできる対策は加湿器を使い、部屋の湿度を50~60%程度にしておくことだという。しかし、外出先ではそうはいかない。そこで喉を元気にしていく方法が「ねばり食トレ」というものだ。
ヨーグルトがオススメ「ねばり食トレ」
「ねばり食トレは、食事に『ねばり食材』を加えることです。『嚥下性肺疾患研究会』では、嚥下のトレーニング食材としてヨーグルトを提案しています。ヨーグルトは手軽にどこでも手に入りやすいだけでなく、栄養も豊富。できればなるべく、ねばりの強いものにしましょう。
誤嚥を起こしやすい患者さんの場合、きゅうりなどの固い生野菜やナッツ類が食べにくいと言う人が多いので、ヨーグルトと一緒に食べるように指導しています」
大谷先生は、自宅でもヨーグルトをフルーツや野菜にかけて食べている。
「ヨーグルトをフルーツや野菜にかけて摂取すると、咀嚼することで唾液が出やすくなるだけでなく、無理なくたんばく質も摂れ、乳酸菌が腸内環境を整えてくれるのが利点です」
食品の形状の違いと喉の通過の関係を、食品メーカーのフジッコ株式会社が検証実験を行った。その結果、喉に見立てた透明の管を、水や味噌汁は勢いよく流れ落ちるのに対し、ヨーグルトはゆっくり流れ落ちていくことがわかった。中でもねばりのあるヨーグルトはよりゆっくり、なめらかに管を通過したという。
「この検証実験から、ねばるヨーグルトはムラなくなめらかに喉を通過するため、喉に良い食材と考えられるでしょう」
唾液を出す唾液腺マッサージ法とは
同時に、唾液を出やすくするマッサージ法を行うと効果が高まる。
「唾液を出す唾液線は、耳の手前にある耳下腺、アゴの骨の内側にある顎下腺、アゴの内側にある舌下腺の3つの場所にあります。これらの唾液腺はマッサージによって、唾液の分泌が促されるのです」
【大谷先生オススメの唾液腺マッサージ】
喉のトレーニングは、早めに始めておくとさらにいいと大谷先生は話す。
ねばりのある食事と唾液腺マッサージで、誤嚥を起こさない体を作っていきたい。
教えてくれた人
大谷義夫(おおたに・よしお)/医師池袋大谷クリニック院長。1963年生まれ。群馬大学医学部卒業。東京医科歯科大学呼吸器内科医局長、同大学呼吸器内科兼任睡眠制御学講座准教授、米ミシガン大学留学などを経て、2009年より現職。日本呼吸器学会専門医・指導医。日本アレルギー学会専門医・指導医。著書に『長引くセキはカゼではない』(KADOKAWA)、『肺炎にならないための喉の鍛え方』(扶桑社)、『長生きをしたければのどを鍛えなさい』(SB新書)など。