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認知症の母の白内障手術でぶつかった3つの大きな壁「眼帯を外そうとする母との攻防戦」

 岩手・盛岡で暮らす母の遠距離介護を続ける作家でブロガーの工藤広伸さん。認知症で要介護3の母は、現在79才で白内障も抱えている。手術に踏み切ったはいいが、困った問題が起きたという。認知症の母と挑んだ、白内障手術の経緯や対策について教えてもらった。

 80才を過ぎると、ほぼ100%の人が白内障になると言われています。昭和18年生まれの母は79才、認知症は重度まで進行しています。この状態で白内障の手術に踏み切ったわけですが、想定していなかった3つの大きな壁にぶつかったのです。

認知症の人は白内障の手術を受けられるのか?

 1つ目の壁は、認知症が重度まで進行した母が白内障の手術を受けられるのかという点です。手術は局所麻酔をして行うので、意識はあります。手術中の10分間、動かずにじっとしていられるかどうかで手術の可否が決まります。

 認知症の人がじっとしていられない場合は、動かないようにするために全身麻酔で手術する方法もあると医師から説明を受けました。ただ全身麻酔は体への負担が大きくリスクがあるのと、術後の認知症の症状に影響が出るかもしれないとの説明もありました。

 母は手術中、自分が何をされているのかまで忘れてしまうレベルですが、手術中に「動かないで」と声を掛け続けてくれれば動かないと思うと病院に伝えました。すると看護師さんが、声掛けをしてくださることになったのです。

 また執刀した医師が認知症の人の手術経験が豊富だったので、局所麻酔で手術できると判断されました。

母は眼帯を外そうとしてしまう

 2つ目の壁は、手術直後の眼帯です。

 手術はまず右眼を、1週間後に左眼の順番で行われ、眼内に人工レンズが入りました。母は手術中には動かなかったようで、1つ目の壁は無事クリア。手術後は目をこすらないようにするための眼帯と眼帯を覆う透明のプラスチックカバーをつけ、翌朝通院したときに外す流れでした。

 眼帯をしている母にとっては、なぜ自分の視界が片方だけになっているのか、目についている違和感のあるもの(眼帯)は何のためにあるのか、そんな感覚だったように思います。手術したこと自体を忘れているので、やむを得ないのかもしれません。

 また眼帯を止めていたテープのかゆみがあって、気になってしょうがないのでしょう。目を離した隙に眼帯を外しにかかる母。それを必死で止める息子。眼帯をめぐる親子の攻防は、翌朝の通院まで19時間も続きました。

 最も大変だったのは、母が寝ているときです。無意識のうちに違和感のある眼帯を外そうとするので、何度も止めました。結局徹夜で母を見守ることになり、緊張感から一睡もできませんでした。

 最初は眼帯を触らないよう口頭で注意していましたが、それでも眼帯を外そうとするので、最終的には母の手をつかんで止める必要がありました。

 何十回も繰り返していると次第に手を握る力が強くなり、最後にはそのまま手が出てしまうのではと思ったほど危険な状態でした。おそらく徹夜で睡眠不足もあって、介護者として正常な状態ではなかったと思います。

 あまりに大変な見守りだったので病院に相談すると、眼帯は少しくらいなら外しても問題ないし、目をこすらなければ大丈夫とのことでした。少しだけ気がラクになったのですが、眼帯を外しにかかる母に変化はなかったので、左眼も徹夜で見守ることになったのです。

 わたしは寝不足と疲労が重なり、いつもなら耐えられるはずの母の同じ話の繰り返しにイライラしてしまい、10年の認知症介護の中で最も険悪な関係になりましたし、親子ゲンカも何度も繰り返しました。

 それもこれもせっかく手術できたのに、目をこすって傷口が開いてしまったらいけないと思ってのことです。

術後の目薬の管理が大変

 3つ目の壁は、手術後の目薬の点眼です。

 手術が終わった右眼には、3種類の目薬を朝、昼、夜、寝る前の1日4回差す必要がありました。最初の目薬を差したら、5分待って次の目薬を差さなくてはなりません。母は目薬の種類も差した回数も分からないので、すべてわたしが管理しました。

 加えて1日3回の飲み薬もあって、手術後の薬の管理は想像以上にストレスのかかる仕事でした。それでも入院するよりかは、日帰り手術のほうが母にとって負担が少なく、これでよかったのかもしれません。
  
 さらに術後の状態を診るための通院が、右眼と左眼でそれぞれ週2回から3回ほどあって、わたしは長期で岩手に滞在しなければなりませんでした。

白内障手術は可能なら早めに対策を

 今回、白内障手術の3つの大きな壁を経験して分かったことは、可能であれば認知症が進行しないうちに早めに手術を終わらせておくと、わたしのような苦労をしなくて済むかもしれません。

 手術自体をしっかり理解できて、眼帯を外さずに生活できる。そして目薬の差した回数や種類の違いが分かる状態なら簡単なサポートのみで済みますし、わたしのように徹夜で見守る必要はないと思います。

 ちなみに手術が終わってから3か月が経過していますが、白内障の通院は今も続いています。ただ目薬の種類は1種類で1日2回となっていて、管理はだいぶ楽になりました。

 今日もしれっと、しれっと。

→この連載の他の記事を読む

工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

●認知症の母が台拭きで手や顔を拭いてしまう!困った息子が考えたダイソーの100円グッズの使い方

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