認知症が進行する母が作った夕食には大量のグラニュー糖が!驚いた息子が取った料理の対策
作家でブロガーの工藤広伸さんは認知症の母の遠距離介護を続けている。ここ数年で症状が進行し、得意だった料理ができなくなってきているという母が、ある日、台所に立つ姿を見てみると、そこには驚きの光景が――。困った息子が取った対策とは?
料理が得意だった母の現在
「夕ご飯は、何が食べたいの?」
母は毎日、わたしにこの質問をします。
「肉じゃが」
と返事をすれば、母はスーパーへ行って材料を買い、手際よく調理してくれて、おいしい肉じゃがを食卓に出してくれました。
認知症が進行した今でも、母の「頭の中」ではおいしい肉じゃがは完成していて、料理が得意だった頃のイメージのままです。なので、母はわたしに夕食の質問を毎日します。
材料を揃える、切る、煮る、味付けをするなどの工程をきちんとやらないと、おいしい料理は完成しません。今の母には、これらの工程をすべて完璧にこなすのは難しいようです。
夕ご飯はわたしとヘルパーさんの仕事
母はスーパーの場所も分からければ、財布も見つけられません。料理の名前も、必要な材料も、どんな味付けをしていいかも分かりません。だけど頭の中では、肉じゃがなんて簡単に作れると思い込んでいます。
認知症介護のコツとして、認知症の人の言うことを否定しないほうがいいと言われています。本気で肉じゃがを作れると思っている母に対して、頭ごなしに否定するのはプライドを傷つけてしまうので、そのまま受け入れて否定しないほうがいいのです。
しかし「肉じゃがを作って」と母にお願いすると、そのまま台所に立って、何も分からない状態のまま料理を始めてしまいます。母親として息子のために料理を作りたい気持ちは理解できるので、簡単な朝食や昼食のサポートはお願いするようにしています。
ただし、調理中は、常に見守りが必要です。例えばもやし炒めを作るときに、塩で味付けをしたあと塩を入れたことを忘れて、さらに塩を入れてしまいます。量の加減もできないので、しょっぱいもやし炒めが完成したこともありました。
また、食材の状態をよく見ないまま調理をするので、生のもやし炒めが出てきたこともありました。プライドを傷つけないためにも、台所に立ってもらう機会は作っていますが、残念ながら母にすべてを任せるわけにはいきません。
料理は自然とわたしやヘルパーさんの仕事になっていったのですが、お腹が空いてどうしようもなかったのでしょう。母は急に台所に立って、誰のサポートもないまま料理を始めたのです。
料理をする母の様子を見てみると…
母がひとりで夕ご飯の準備を始めたとき、わたしは東京に居ました。スマートフォンで岩手の母の様子を見守りカメラの映像で確認しようと思ったら、台所に立つ母の姿が映ったのです。
最近は見守りなしで、母に料理をすべてお任せする機会はありません。ドキドキしながら、料理の一部始終を見守ることにしました。
冷蔵庫にあった生のうどんと甘く味付けのしてある油揚げを取り出し、煮たり焼いたりせずにそのまま皿の上に乗せて、近くにあったしょうゆを3回くるくると回してかけて、電子レンジに入れて1分温めました。
母が電子レンジを使えたことに少し驚いたのですが、もっと驚いたのは最後の仕上げです。温めたうどんに大さじ1杯のグラニュー糖をかけて、料理は完成しました。
食べられなくはないけど、決しておいしいものではありません。途中で箸を置いてくれるかもしれないと期待しながら映像を見ていたのですが、母は何事もなくうどんを食べ続けました。
料理の習慣を思い出すきっかけになってしまったのか、翌朝もまた母は何かを作り始めたのです。
豆腐に大量のグラニュー糖!?
まず鍋に、わずかな水を入れました。たくさん水を入れると、鍋が重くなって持てないので、自然と少量の水になります。そこに冷蔵庫にあった豆腐を1丁入れて、火にかけながら混ぜ始めました。
そして近くにあったしょうゆを3回くるくると回して、料理は完成しました。考えようによっては湯豆腐に似ているとも思ったのですが、最後の仕上げが余計でした。今回は、グラニュー糖を大さじ4杯もかけてしまったのです。
さすがにこの料理は食べないだろうと思ってカメラの映像を見ていたのですが、残念ながら半分ほど食べてしまいました。
実は訪問リハビリの作業療法士さんから、「お母さんの血圧が190になった」と電話で報告を受けていました。ひょっとすると、こうした食事も高血圧の原因のひとつだったのかもしれません。
料理が得意だった母だけに、可能な限り台所に立ってもらいたいと思いながら、工夫を重ねてきました。しかし今後は母の健康や安全を考慮しないと、病気やケガの原因になりかねません。
今回はグラニュー糖を大量に使うことが分かったので、台所に置かないよう対策をしました。また、ガスコンロに関しては、鍋を置かないと火はつきませんし、鍋の温度が上昇したら自動で消火する機能がついているので、対策はできています。
母の思いは尊重してあげたいけど、健康や安全の確保が必要です。自分でやれることはできるだけやってもらう環境を整えつつも、制限が必要なところは制限していくバランスが必要になりそうです。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442。