「人の名前が出てこない」これって認知症? 老化現象との違いや最新治療薬「レカネマブ」を医師が解説
テレビで見る俳優の名前が出てこなかったり、「コレをアレして」と指示語を使ってしまったり…。「私、認知症、大丈夫かしら?」と不安になっている人もいるはず。認知症の症状やメカニズム、老化現象との違いを専門家に聞いた。
認知症と老化現象の違いを正しく理解しよう
2012年には、高齢者(65才以上)の7人に1人(約462万人)といわれた認知症患者数が、2年後(※)の2025年には5人に1人(約730万人)に上ると推計されている。
しかし、認知症予備軍であるMCI(軽度認知障害)を加える(約580万人)と、実に2.8人に1人の高齢者が認知症、または、そのリスクを抱える見通しだ。
「問題は、団塊世代が80才超となる2030年頃。認知症患者が急増し、その子供たちが介護に追われる時代がやってきます。もはや認知症は他人事ではないのです」と言うのは、認知症予防に取り組む理学療法士の川畑智さんだ。
心配な人は、まず認知症と老化現象の違いを正しく理解しておくことが重要だ。“脳トレ”開発の第一人者で脳科学者の川島隆太さんは、
「認知症になると『もの忘れ』『見当識障害(時間や場所、人に対する認識がわからなくなること)』『理解力や判断力の低下』などの症状が出ます。そして「もの忘れ」の内容も、加齢によるものと認知症のそれでは差があります」と語る。
「人やものの名前、数字が出てこないなど、過去の記憶が思い出しづらくなるのは加齢とともに起こる『もの忘れ』で、心配いりません。一方で、認知症の『もの忘れ』は、記憶の取り込みに障害が起こり、新しい記憶が作りにくくなります。昨日の昼食のメニューが思い出せないのが老化現象なのに対し、認知症は、ご飯を食べたという体験自体を忘れてしまうのです」(川島さん・以下同)
そもそも、なぜ人は認知症になるのだろうか?
「認知症にもいくつか種類がありますが、もっとも代表的な『アルツハイマー型』は、脳の中にアミロイドβというたんぱく質の“ゴミ”がたまることで神経に炎症が起こり、いろいろな機能が失われる病気です。アミロイドβは通常の老化でもたまっていくものですが、脳を壊すほどではありません。個人差もあり、認知症と老化の境界線をはっきりと分けられないのが実情です」
アルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」がついに米国で承認
そんな中、うれしいニュースも。1月6日、製薬会社のエーザイが、米国バイオジェン社と共同開発したアルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」が米国の医薬品当局から承認を受けたのだ。
アミロイドβの蓄積を抑えるという「レカネマブ」は、早期患者を対象とした臨床試験で症状の悪化を27%抑制する効果が見られたという。
「27%という数字は、2~3年分の進行抑制に値する可能性がある」(川畑さん)
など、認知症ケアの現場における期待の声も大きい半面、安全性や有効性を証明するには時間がかかること、現時点で年間約350万円の薬剤費がかかることなどから、一般的な普及はまだ先になりそうだ。いまは認知症にならないことが最善の策かもしれない。
(※)「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 九州大学二宮利治教授)より。
老化現象と認知症はこんなに違う!
老化現象
●昨日食べたランチの内容が思い出せない
●人の名前が出てこない
●もの忘れが増えたことを自覚している・現在の日付や時間、いまいる場所はわかっている
認知症
●昨日ランチをしたことが思い出せない
●人の顔を忘れている・もの忘れの自覚はないが、周囲の人は気づいている
●現在の日付や時間、いまいる場所がわからない
教えてくれた人
川畑智(さとし)さん/理学療法士。熊本県を拠点に、認知症予防やケアの実践に取り組む。2017年に認知症の人と家族を支える資格制度「ブレインマネージャー」を創設。現在『マンガでわかる!認知症の人が見ている世界』『同2』(ともに文響社)がベストセラーに。
川島隆太さん/脳科学者。東北大学加齢医学研究所所長。脳機能開発の第一人者として任天堂DS『脳を鍛える大人のDSトレーニング』、冊子『脳を鍛える大人の音読ドリル』シリーズ(くもん出版)、自分で脳の活動状態を計りながら脳トレできる『Active Brain CLUB』などを開発。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2023年2月16日号
https://josei7.com/
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