認知症の母がテレビを消せなくなった!困った息子が考案6000円かかった対策とその効果
岩手・盛岡でひとり暮らしをする認知症の母を東京から通いで介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。認知症がじわじわと進行するにつれ、母は家電の操作ができなくなってきた。「テレビが消せない」という問題に直面し、工藤さんが考えた対策とは?
認知症の母がテレビを消せなくなった
認知症の人が家電の電源をオフにする際、リモコンの操作ではなく電源プラグを抜いてしまうケースがあります。中には高い所にあるエアコンの電源プラグまで抜いてしまう方もいて、転倒を考えるととても危険です。
なぜ電源プラグから抜いてしまうのかというと、リモコンの操作方法を忘れてしまった、リモコンの種類が多すぎて使い分けができない、家電の待機中に光るランプが気になる、電気代がもったいない、などが考えられます。
認知症が進行した母も、とうとうテレビの電源の切り方が分からなくなってしまいました。テレビのリモコンでエアコンを消そうとしたり、テレビを消すのを諦めてつけっぱなしで寝てしまったりするようになったのです。
テレビの電源プラグを抜いてしまったこともありましたが、コンセントをテレビの裏に増設したところ、電源プラグが見えなくなって抜かなくなりました。
電気代が高騰し、節電が必要な今、ムダにテレビをつけて欲しくはありません。そこである対策をすることにしました。
まずはスマートリモコンで遠隔操作
最初は、スマートリモコン※1を使いました。岩手の母がテレビの電源を切り忘れたとしても、東京に居るわたしがスマホのアプリでテレビの電源を遠隔で切ることができます。
しかし、新たな問題が発生しました。母がテレビのリモコンを寝室のタンスの引き出しに片づけたり、デイサービスに持って行ったりするようになったのです。
わが家ではヘルパーさんが母のデイサービスの準備をしてくれて、送り出しを行っています。その際にヘルパーさんがテレビの電源を消そうにも、リモコンがどこにもないのです。
滞在時間の短いヘルパーさんはリモコンを探す時間がないので、やむを得ずテレビ本体の裏にある主電源のボタンでテレビを消すようになりました。
とてもありがたい対応だったのですが、テレビを主電源から切られてしまうと、わたしが遠隔操作できなくなってしまいます。すると今度は、母の行動に変化が現れ始めました。
※1テレビやエアコンなど家電のリモコンを、スマホのアプリから操作できるようになる機器。家電製品の赤外線対応のリモコンを記憶させることで、遠隔操作が可能に。工藤さんが活用しているスマートリモコンは『Nature Remo 3』。
テレビが映らないと母は寝てしまう
テレビのリモコンがなく、遠隔操作もできなくなると、母はテレビを見られません。何もすることがなくなった母は、ひたすら寝るようになったのです。昼寝の時間が増えると、昼夜逆転や筋力低下につながります。
昼寝する母を見守りカメラで見ながら、一刻も早く母にテレビを見てもらうようにしないと思いました。この問題を解決するためには、誰かが手動でテレビの主電源のボタンを押さないといけません。
母が押せばいいのですが、テレビの裏に主電源ボタンがあると理解できませんし、教えてもすぐに忘れてしまいます。何も映っていないテレビの前で、戸惑っている母の姿も見守りカメラに映っていました。
何かいい手はないかと悩み続けた結果、ある解決方法を見つけました。そのきっかけとなったのは、実家の客間にあった数十年前の古いテレビです。
昔のテレビと最近のテレビの大きな違い
客間の古いテレビを見て、これだ!と思ったのが電源ボタンの位置です。
昔のテレビは、テレビの正面に電源ボタンがありました。しかし最近のテレビは電源ボタンがテレビの裏側にあって、見た目はスッキリしていいのですが、認知症の母には電源ボタンがないものと思ってしまうようです。
そこで、テレビ正面に電源ボタンを設置して昔のテレビを再現すれば、リモコンの操作ができなくても、母が自分でテレビの電源を消せるのではと思ったのです。
再現方法は、テレビ正面に主電源の代わりになる電源ボタン※2を両面テープで貼ります。次にテレビの裏側の主電源ボタンの近くに、指ロボット※3を両面テープで貼ります。最後に電源ボタンを押したら、指ロボットが動く設定をアプリでしたら終了です。
6000円かけて設置したものの、母が使ってくれる保証はどこにもありません。ボタンの近くに「テレビの電源」と書いた貼り紙をしようかとも考えましたが、母ははがしてしまうので、何も言わずに設置だけして東京に帰りました。
※2スマートリモコンで操作できる機器に対応する電源ボタン(『SwitchBot リモートボタン』を使用)。
※3スマートリモコンで操作する指ロボット(『SwitchBot』を使用)。
母はテレビの電源を消せるのか?
いよいよ母が寝る時間になり、テレビの電源を消さないといけません。わたしは見守りカメラで母の様子を黙って見守ります。
母はリモコンのボタンをいろいろ押すのですが、電源は切れません。困った様子で、テレビ本体の前まで移動した母。テレビの正面には、目立つ場所に白いボタンがあります。
――ポチッ。
母がボタンを押してくれました!するとテレビ裏の指ロボットのアームが出て、主電源ボタンを押し、テレビの電源が無事切れました。まさかうまくいくとは!
認知症の人は最近のことは覚えていませんが、昔のことはよく覚えています。テレビの電源にもこの考えを持ち込んだところ、偶然うまくいきました。母は今もこのボタンを使って、テレビの電源をオフにしています。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442。